125/蒼穹(そうきゅう)(第五話・了)
巨大な紫色の立体魔法陣は、天空に現れた。
元愛護大橋があった結界領域よりも遥か上空。全てを失った志麻は、辞世の念で見上げていた星の光より近い場所に、その温かい紫色の輝きを見つけた。
立体魔法陣が上方へと昇華されていくと、少しずつ彼方よりやってきたその人の姿が顕わになっていく。
皮のブーツは姫のように優雅で、でもいかなる距離までも一瞬で踏み込むに耐えるというように、熟練の丈夫さも兼ね備えている。
柔らかなる肌。それを前にして膝まづきたくなるような脚線美だけど、外敵は蹴り殺しそうな狩人の両足。それを、ヒラヒラとしたスカートで隠している。身に着けているのは上下が繋がった、蒼穹のドレス。ついに現れる尊顔は、どこまでも深いブルーの瞳に、亜麻色の長い髪を左サイドで束ねて流している。口元には、少女のスマイル。
堂々と天空に制止する、現れた少女は左手を横に突き出して、彼のロマンス語系の言語ならではの舌使いで、癖になる感じで発音しながら、一言。
「概念武装・
青い稲妻と共に出現したのは、白銀の洋剣。
少女は鞘を握りしめると、おもむろに抜剣し、下界でマグマの豪気を放っている灼熱の大巨人をキッと睨みつけた。
そのまま、くるりと空中で反転すると、頭から下方にめがけて超速で落下を開始する。
突き出した洋剣で、結界領域を一瞬で突破。
その動き、雷鳴の如し。光の後に、ようやっと音に気付くような。志麻も何が起こったのかすぐには分からなかった。気が付いた時には、アスミを握りしめていた大巨神テンマの手首が斬撃で切断されていた。
少女はそのまま旋回して、宙に放り出されたアスミに絡まったままの巨神の手首に向かって行く。そのままチョンっと剣の尖端を撃ち込むと、いかなる技なのであろうか。巨神の手首は、光の粒子状に解体され、分散させられてしまった。そのまま、空中で意識を失ったアスミをお姫様抱っこでキャッチする。
悶絶して言葉とは理解できない絶叫をあげる大巨神テンマの狂騒をよそに、今度はふんわりと、主にアスミをいたわるように抱きしめたまま、志麻が倒れ伏している地面の所まで、髪をなびかせながら降りてきた。
「はいな」
アスミを抱えたまま、剣で志麻の下半身を圧迫していた残骸に触れると、残骸も一瞬で粒子へと解体されて霧散した。
片手で器用に腰の鞘に納剣し、再びアスミをお姫様抱っこする。
少女は、志麻に微笑みかけてきた。このアスミという女の子は志麻の大事な人なんでしょ? といった趣で。
動けるようになった志麻は、上体を起こし、ようやっと膝を折り、地に両手を付き、改めて現れた少女を見た。
洋装は、はじめはドレスかと思ったのだけれど、気品を携えながらも、どこか動的なモードでもある感じ。生の余剰として女を着飾る衣服でありながら、そのまま軍隊の指揮を執って戦いにも赴けそうな。2013年以降この国でも普及し始める言葉で形容するなら、少女の衣服は青の「軍服ワンピース」であった。
志麻は、うち震えていた。心が実感に追いついてこないけれど、一瞬で絶望の淵からアスミを救った強さ。微笑みかけられただけで、自分に欠けていたものが慰撫されるような優しさ。こだわりがある方の志麻の感覚にも、ピタっと馴染む美しさ。この女性は、志麻がこうあれたなら、と願っていた理想の全てを備えていた。
近くで目が合ったら、少し乱れた髪とか、豊満な胸とかセクシーだったりして。背丈は志麻よりもちょっとだけ高い。纏う雰囲気は朗らかで。少女というよりは、陽気なお姉さんみたいな感じ。
アスミも守る。全部守る。自分に気づかうのも、忘れずにね。そんなことがあり得るのだとしたら。終わったと思った世界に、「意味」が再び降り始めた気がした。
とりあえず、最初に聞いてみる。
「あなたは、誰ですか?」
亜麻色の髪のお姉さんは、全部見てたよ、大変だったね。でも何があっても、絶対大丈夫だよ。そんな包容力ある態度で志麻に笑いかけながら、答えてくれた。
「私? 最近のコンセプトは、ファンに逢いに来てくれる
/第五話「彼の地よりきたる」・了
第六話へ続く
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