124/宣戦布告

 不思議な世界から帰還すると、水底にいた体は移動していた。宮澤ジョーは、S市一級河川の河川敷に。大地に立っていた。


 周囲は炎と赤い光の明滅。眼前の大巨神テンマは、『ハニヤ』の最後の光の抵抗によりアスミを握りつぶせないことに業を煮やし、いよいよアスミを握りしめたまま口元にもっていっていた。大きく口を開いている。気付いたのだ。この光とこの女をも捕食し、自分の力に取り込んでしまえばイイと。唇は溶岩のようで、あふれるマグマは唾液のようだった。


「俺の強さは『一』より、『二』でいくぜ」


 終末の光景を前に、ハシっと右手首を振って鳴らす。紫の存在変動律が、ジョーを中心に一定のリズムで伝播し始める。両足は地面を噛んで少し大股に開いて、右手をちょっと大げさに天に掲げた。ついでに一言言ってやる。


「テンマ・ソウイチロウ。お前は強いが、なんか醜い」


 そういやアスミ、こういう風にポーズ取ったりとかは中学生の時に卒業したとか、言ってやがったな。だがな、こういうの、カッコつけてるっていうか、儀式なんだよ。ダメな自分はここまでで、ここから先は大事な人を守ってみせる、そんな自分になってやるってな。だから敢えてやるぞ。


 天にかざした右手はあるいは宣戦布告だ。


 ジョーの背骨に、陸奥との繋がりであった紅い線のイメージとは異なる、もう一本の線、蒼い勇壮なる線のイメージが遠くから供給されてくる。


 右手を下しながら、一瞬胸元で両手を交差クロスして、バっと左右に広げる。今、ここにいる俺の元へ、彼方より何者か来たる。「構築物のコンストラク歴史テッド・図書館ヒストリア」とのリンク・二系統目がエンゲージengage。胸には何故かあったカァーリッジcourage。左手に狂おしいほどに握りしめているのは、誤謬の少女が置いていったリボン。これで全部だ。行くぜ、大巨神。否、行くぜ、世界。


 左腕を90度に曲げて、半身を左に振り抜いた。


 自分達の方が消え去る側だと知ってなお、前に進まなくてはならないのだとするならば、発することができる言葉はこれだけだ。物語の『続き』の言葉だ。決まってる。


 ジョーは叫んだ。


「『共存・コ・イグジス開始テンス・オン!』」

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