• 非幸福者同盟

  • 第四話「サヨナラの色」(前編)
  • 84/優れた人間

84/優れた人間

 陸奥が戦艦という一体の強固な存在と、無数の生物群という構図の戦いを行っている間、ジョーの方では一人の生物と一人の生物の戦いが開始されようとしていた。


天魔てんま総一郎そういちろうだ」


 ネクタイを外して宙に放った「この街で最も優れた男」が自身の名を名乗る。ジョーは違和感を覚えた。超女王の能力によって使役されている男の中にも、一定の自分の意志を保ったままの者もいるのか?


 男、天魔が取った構えは、ボクシングスタイルであった。


 ジョーは中断の構えのまま、天魔に向かって一歩間合いをつめる。この街で一位の男ということだが、それは経済力・権力・名声、そういったものを含めてのことであるはずだ。単純な戦闘においては、これでもジョーは柔道で全国大会まで出場した身である。金持ちが健康維持を目的に時々ジム通いをしている程度の戦闘技術の相手ならば、遅れを取るはずはない。ボクシングスタイルなら、組み伏せて寝技に持ち込めば勝てる。


 そんな、ジョーなりに冷静な戦力分析を思考している最中だった。


 天魔が一歩前に出た。


 しかし、ジョーに知覚できたのはそこまでで、気が付けば視界が歪み、並行感覚を失っていた。


 そのまま、床に片膝をついてしまう。


 天魔が放ったのは、左のジャブだった。鋭く、無駄なく、シャープにジョーの顎を捉えていた。高いレベルで洗練されたジャブは、人間の反応速度を超えるという話を、ジョーも知識としては知っていたが。


 何か、気付いてはならないことに気付いてしまったような、焦燥がジョーの内側に湧き起ってくる。


 超女王の艶やかな声が、遠くに聴こえてくる。


「一定のレベルを超えた『優れた人間』とは、それより下層の人間の努力や克己を、やすやすと凌駕するのです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!