82/戦争において重要な要素

 ジョーがこの街の一位の男と戦闘に入る頃、志麻は詠唱を終え、研ぎ澄まされた意識を超女王に向けた。相変わらず椅子に座したまま、ともすれば優雅な姿が志麻を苛立たせた。いつからか胸に湧き起る暗い衝動が志麻を支配する。当たり前のように自分の上位で固定されている存在を、めちゃくちゃにしてやりたいというような気持ちだ。


「『機構的なリ・エンゲージ再契約メント』」


 志麻の言葉と同時に、ホール中央の鉄柱から光の粒子が発生する。


「アイアンマンさん、アイアンマンさん、世界を壊す第二歩、貫いてみましょう鉄の意志」


 志麻が広げていた両手を前方に勢いよく突き出すと、鉄柱の中心部がくり抜かれた。ホール全体を支えていた一番の支柱でもある。自然、ホールの建物自体が揺れる。


 鉄柱からくり抜かれた鉄塊は空中で姿を換え、鋼鉄の人間として現出する。志麻の能力の中規模行使、鉄人間アイアンマンであった。


 着地した鉄人間は、陸上の競技者のように走り出し、俊足で超女王に向かって行く。勢いはアクセルを全開にした自動車と遜色がない。つまり、鉄の塊がそのまま激突すれば、超女王は肉塊と果てる。そう思われた。


 しかし、くり出された鉄人間の鉄拳は、超女王の眼前に現れた、白色の存在によって受け止められた。


 志麻は、何が起こったのかと、超女王の前方に現れた白い存在を目を細めて確認する。そうしている間にも、白い存在は周囲から絶えず超女王の元に集まっていき、その大きさを拡大している。現在、既に二メートル四方ほどの大きさに成長している。


「言葉遊びに適した言語の国でしたね。さしずめ……」


 淡々と述べる超女王が、白い存在に手をかざすと、存在は変形し、一つのカタチを表現する。白い存在は、巨大な紋白蝶もんしろちょうであった。


「群体の軍隊、といった所でしょうか」


 志麻の鉄人間が単一の強力な個体なのに対して、超女王が作り出した大紋白蝶は、一匹一匹の使役された紋白蝶が無数に集まり、一つの大紋白蝶として群体として存在している。そして、計り知れないのは、刻一刻と蝶は集まり、大紋白蝶は巨大化している点である。


 その有様を理解した時、急速な危機感が志麻の胸に過った。つまり、この超女王という敵は、能力がどうこうというよりも、戦闘、否、戦争において一番重要な要素を、自分たちよりも遥かに高いレベルで押さえているのだ。


 それはつまり、「物量リソース」である。

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