81/暗い眼光

 旋風のごとく場に吹き荒れる陸奥だが、その風を抜けて、何人かの使役された男がジョーにも向かってくる。


 猛牛の勢いでジョーに突進してきた男は、薄いシャツの下に明らかに一般人とは違う強度の筋肉を隠していた。何らかのアスリートなのは明らかだ。タックルというよりは力任せに抱き着いてきたその男に、ジョーは既知の感覚を覚える。つまり、単純な強さにおいて、相手の方が上だという直覚である。数瞬、敵わないという感覚がジョーの心にフラッシュバックする。フィジカルで負けてる相手に、一対一ワン・オン・ワンで勝てるものか、と。


 だが、ごちゃごちゃ考えるよりも先にジョーの身体はある方向性に向かって動いていた。つまりは、ジャンルの変更。あるいはルールをズラす。抱き着いてきた敵の左脇に自分の左腕を絡め、相手の突進に逆らわないまま、弧を描いて男の肩に飛びつく。そのまま、動力に任せて首を刈り、一回転。男が地面に仰向けになった時には、関節が逆十字に決まり、骨が折れる鈍い音が響いた。変則の首刈十字固めである。これは実戦だ。相手の土俵に自分が合わせることはない。


 パチ、パチ、パチ。


 ジョーが骨折で無力化された男をそのままに素早く立ち上がると、戦場にはそぐわない、ゆっくりとしたテンポの拍手が聴こえてきた。手を叩いているのは、依然椅子に座って戦闘を観察しているかのような超女王である。


「百二十三位、です」

「何がだ?」


 超女王は、宙に手をかざし、彼女の能力の一つ『生物のクイーンズ・宝物庫トレジャーズ』でたった今ジョーが腕を叩き折った男の映像を宙に映す。


「今の男が、『この街で』百二十三番目に優れた男です」


 超女王の声は、熟練の語り手スピーカーのようにこの混乱の中でも通るな。そんなことをジョーが考えた時、いつの間にか陸奥を超えて、一人のスーツ姿の男がジョーの数メートル手前に立っていた。


 歳は三十代半ばくらい。長身で引き締まった身体。暗い眼光。殺気。ゆっくりと片手でネクタイを外す仕草が様になっている。最初にこの多目的ホールに入った時に、セミナーの檀上にいた男であった。


「一位です」


 超女王が厳粛にその男に関する事実を告げてくる。


「彼が、『この街で最も優れた男』です。相手をしてみますか?」


 超女王は、これから起こるであろう惨劇に対する、鑑賞者の態度を取っている。


 アスリートの男の腕を折った、野蛮な興奮が残っていたのもある。


「やってやるさ」


 ジョーは態勢を低くし、左手をやや前方に突き出し、組技にも寝技にもいける独自の戦闘の構えをとった。

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