76/こんな自分なりに

 ジョーの言葉と同時に、志麻のスマートフォンのメッセージ着信音が鳴った。送り主は、アスミしかあり得ない。


 超女王の言葉に揺さぶられていた気持ちが、収まっていく。志麻にある大事な二つの記憶のうちの一つ目。自身の手首を傷つけたあの日。病室にアスミがやってきて、アスミの秘匿をそっと打ち明けてくれた。心の奥に残留し続ける、アスミの言葉を思い出す。



――だから私は、自分の身体を傷つける人は、キライなの。



 その時、志麻の魂を規定した一つの気持ち。私は、アスミのような人間を守るように生きていきたい。例え、母親を許せないような醜い人間なりにでもだ。


「愛する人が病室のベッドで眠っている。お医者様からは、99パーセント目覚めないでしょうと告げられている。それでも、星に願い続ける。これから先の私の幸福の大部分を対価に差し出しても、愛する人に目覚めてほしいと」


 志麻は凛と、ジョーに答える。


「でも、決して愛する人は目覚めない。そういう街になってしまうということよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る