43/故あって

 しまった。と志麻は反省する。つけられていたのに気づかなかったアスミも悪いが、宮澤ジョーに気を取られるあまり、大天寺山の結界に意識を向けていなかった自分にも落ち度がある。敵に自陣を特定され、侵入まで許したとなると後々厄介である。


 ともあれ、まずは目の前の脅威、あの大熊を何とかしなければ。


「術者が連れてきたのかしらね。それとも、大天寺山って、野良熊とかいるのかしらね」


 アスミがそんな言葉をもらしているが、志麻はそこは今、重要じゃない、と心の中で親友を叱咤し、すぐに迎撃体勢に入る。


「『機構的なリ・エンゲー再契約ジメント』」


 今度はテーブルの上の湯呑を解体し、数本の投擲用ナイフに再構築する。


「行け!」


 志麻の能力は、「機構的なもの」の解体・再構築、そしてそれらの一定の操作である。志麻の号令と共に大熊に向かって行った投擲用ナイフは見事に大熊の体表に命中する。


 だがしかし、大熊は幾ばくかの流血を見せつつも、何事もなかったように前進を開始する。


 このくらいでは、仕留められないか。志麻が大熊を睨みつけながら、思考の全てを大熊の対処に集中したその時だった。志麻の首元めがけて、風切り音が向かってきていた。


 気づくのが遅れた志麻は、振り向きざま、自分に向かって飛んでくる鋭利な包丁を知覚しながら、同時に身体が硬直するのを自覚した。


 大きな熊はおとりで、もう一人が遠距離攻撃で自分を狙ってくる。こんな単純な敵側の戦術、いつもの自分なら見抜けたはずなのに。


 能力による防御が間に合わない。動かない体で、ただ迫ってくる自分を刺し殺す存在を見つめている。こんな所で。許せないことを、野放しにしたまま自分は。


 志麻の脳裏に絶望がよぎった刹那、しかし向かってきた包丁の刃は、志麻の喉元まで1メートルという所で、叩き落とされていた。


 和室の畳に突き刺さった包丁と、空間からにゅっと手刀が伸び出ているのを認識したのは同時。


 何?


「『共存コ・イグジス・開始テンス・オン!』」


 縁側から庭に向かって跳躍した宮澤ジョーが叫ぶや否や、手刀の根本に浮遊していた紫の光が、立体魔法陣へと変幻する。


「陸奥っ」


 強い存在変動律。これは、私やアスミと同等。あるいは、それ以上の。


 志麻が、しばし大熊からも、新たに現れた包丁を投擲してきた存在からも意識を外して見とれてしまったのは、立体魔法陣から現れた、赤い和装の可憐な、そして鮮烈な少女に対してである。


「志麻さんとは初めまして。遠い所から参りましたは、戦艦陸奥。故あってお助け申し上げますっ」

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