44/攻防

「陸奥は熊を!」

「はいな!」


 陸奥は立体魔法陣から飛び出した勢いのまま駆けだして、正面から大熊に向かって行く。


 突然に現れたこの小さな標的に対して、大熊は体全体をスイングするようにして、右腕の一撃を振りぬいてくる。人間など一撃で引き裂くような爪を兼ね備えたその速く重量が乗った一撃を、陸奥は跳躍でかわすと、そのまま空中で前転し、右足を突きだして落下していく。変則の踵落かかとおとしが大熊の脳天に突きささる。


 すぐに左足をバネに変えて、大熊の肩口を踏み台にし、今度は後方回転で大熊の間合いから陸奥は離脱する。綺麗に決まったものの、間をおかずむくりと頭を上げる大熊を見て、空中から地面に着地した陸奥が一言。


「この熊、タフですっ」


 一方で、ジョーは志麻に包丁を投擲したもう一方の敵と対峙していた。石垣の上から降りてきたこの男は、頭にトックをかぶって、エプロンを身に着けているという姿である。料理人、特に洋食のレストランか何かのシェフを連想させた。


 怪しく発光する両目に、一定の波動を発している存在変動律。様子の異変に気付いたジョーはアスミに確認する。


「その『超女王』って敵は、人間も操れるのか?」

「能力の詳しい部分は不明だけど、ここ数か月、『超女王』が使役したと思われる人たちによる事件が街で起きてるの。加えてこの男から発生している存在変動律。できるって考えた方が無難でしょうね」


 縁側からジョーの隣に降り立ったアスミはそう解説を加える。


「操られてるだけならあんまり傷つけてもダメだな。アスミ、昨日の火球のやつで援護してくれ」


 ジョーなりに昨日の牛人との戦いを見て、アスミは距離を取って戦うタイプなのだと判断していた。遠距離から援護を貰いながら、こちらのシェフの男は組み伏せられまいか。


「火は山だからちょっとね。って、まさにちょうど追い風!」


 山川家の庭に一陣の風が吹いた瞬間を捉えるように、アスミは右手を横に突きだした。


「『八百万やおよろずのロックンロール』」


 アスミが本質能力を発動させるや否や、風がアスミの右手に集まり始める。その様相は、小さな竜巻を、アスミが右腕でコントロールしているが如くであった。


 アスミが何かをやろうとしているのを察したジョーは時間稼ぎに、シェフの男との攻防に入る。


 昨日の恐ろしい牛人に比べて、このシェフの男からは、そこまでの脅威を感じない。言うなれば、素人よりはマシな程度の男が刃物を振り回しているだけのような。


 投擲したものとは別の包丁をもう片手に持って、大振りで切り付けてくる男を、間合いをはかりながらいなす。


 このくらいの大振りならば、短刀取りの技術が使えるかもしれない。そう考え始めた時、二度目の大振りを避けられたシェフの男が、ポツリとつぶやいた。


「スベテ・支配シハイ・シタイ」

「どういうことだ?」


 光る両目の異常に、バランスを欠いた動作、男の意識は何らかの形で奪われていると予想されるが、だとしたらこの言葉は誰のものなのだろう。


「ジョー君、離れて」


 シェフの男の挙動も気になったが、アスミから合図が届いたので、ジョーはバックステップで男から間合いを離す。


「『風のイェスペルセン』」


 アスミが掌を開いて右手を突きだすと、複数の風の刃が放射状に男に向かって飛翔していく。形容するなら、ビーム状のかまいたちである。


 風はジョーの横を吹き抜け、シェフの男を直撃する。風圧を伴った風の刃は男を吹き飛ばし、背後の庭の石垣に激しく叩きつける。一度大きく痙攣し、首をうなだれた男は意識を失ったようだった。かまいたちで切り刻まれた衣服が、アスミの技の威力を物語る。まずは、こちらの男は片付いたようだ。

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