小説を書くように頼んだら、美少女の後輩の所有物にされましたが何か?
秋月
プロローグ 半年ぶりの君
「久しぶりだな」
夕暮れに染まる放課後の屋上。
俺は
「先輩……」
振り返った水名瀬。
その姿は俺の知る半年前の彼女よりも大人に、高校生らしく成長していた。
「大きくなったな」
「……変態」
「いや、そういうのじゃねぇから」
久しぶりに会っても何ら代わりのない後輩に苦笑する。
こういう所は昔のままで、そんな彼女が俺は嫌いじゃなかった。
目の前の彼女が、柔らかく微笑む。
「それで、先輩は私を人気のない所に呼び出して、一体なにをするつもりなんですか?まっ、まさかエr」
「いや違うっつーの」
俺は言葉を被せて即座に否定した。
え?何でこいつ、こんなに残念なの?
いい笑顔で何を口にしてるんだか。思わず苦笑が漏れる。
水名瀬玲那。
2年B組に在籍する女子生徒。
成績優秀。
美少女。
長い黒髪をシュシュで括っている少女。
俺の一つ下の後輩。
運動神経はあまり良くないけれどそれすら可愛さに変える女の子。
実はオタク趣味のある女の子。
というか俺がそれを植え付けた。
実は小説を書いていて書籍化もしてたりする少女。
そして、俺に対してだけ異様に生意気であざとい後輩。
そんな水名瀬と俺が出会ったのは約半年前。
俺がいつも通り屋上でぼっち飯をしようとしていた所にいじめられて泣いているコイツに遭遇した。
その後コイツの話を聞かされながら飯を食って、何故か次の日もその次の日もそのまた次の日も一緒に飯を食って。
そして、少しばかりの喧嘩をして。
彼女はここに来なくなった。
「お前に頼みたいことがあってな」
できるだけ率直に、俺は切り出した。言い訳がましく何かを口にすることはできたかもしれないけれど、なぜだか俺はそうしなかった。
「知ってますよ。ラブレターには頼みごとがあると書いてありましたし。……それで、頼みごととは何ですか?」
首をこてんと倒す水名瀬。
それが狙っているのか素なのかは怪しいところではあるが、かなり可愛い。
だけど。
……良かった。
最悪の場合、罵詈雑言の嵐の末にぶん殴られて断られる可能性だってあった。
むしろ半年前の喧嘩のことを考えるとそれでもおかしくなかった。
だから本当に良かった。
……後、別にラブレターではない。
「俺が文芸部なのは知ってるよな?」
安堵に揺れる心の中で、俺は彼女の発言に一度ツッコミを入れて、話を続けた。
「えぇ。確か幽霊を除いた実質部員一名の、先輩しかいない部活でしたっけ? まだ潰れて無かったんですか?」
酷い言い草だが、否定できる要素がないのがつらい。実際、俺以外は幽霊だもんなぁ。
「あぁ。それでだ。顧問の先生から、文化祭の時に部誌を発行するように言われているんだ。だけどうちにはまともに活動してる部員がほとんどいない。だから」
その言葉は目の前にいる後輩に引き継がれた。
「部誌に寄稿して欲しい、と。別にいいですよ」
「ほんとか?」
反射的に水名瀬の肩を抱いた。
俺が悪かったからそんな顔赤くして怒らないで!痛い!痛いよれなれな!
コホンと可愛く咳をして、彼女は続けた。
「えぇ。その代わり一つだけ条件があります」
ゴクリ。俺は水名瀬の目をじっと見た。
そして、彼女の口が開く。
「私が小説を書き終えるまで、先輩は私の所有物です」
半年前より色気を帯びた少女は、最高の笑顔でそう言った。
その笑顔は、今も昔も変わらず可愛かった。
って……。
「はぁ?」
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