<魔王の城>顕現

 暗闇にボウッと核がひとつ浮かぶ。

 魔素をまとい始めたそれは魔の者となるのだ。

 通常魔族というものはある程度の魔素をまとうと実体化する。だが、これはいつまでも魔素を吸収し続けた。


 どれほど時間が経っただろうか。

 磨き上げられた鉱物のような黒玉こくぎょくがそこにあった。それは身震いでもするかのように一度ぐにゃりと震え、そしてまた何事もなかったかのように魔素を吸収し続けた。



 また時が経ち、それはようやく人の形を得た。

 見た目は三歳児くらいだろうか。

 だが魔物というにはあまりに大きい、もはや魔人をも凌駕する大きな力を持っていた。

 先に実体化していた魔人達はその子どもの前に膝をつく。


「魔王様、お待ちしておりました」


 三歳児の口から舌っ足らずな声が出た。それはすぐになめらかな言葉へと変わっていく。


「ようやく言葉を言えたか。この体は使い勝手が悪い。もう少し動きやすい体にならないのかな」


 居並ぶ魔人は頭を垂れたまま。


「魔力を使えばお好みの体に変えられますが……」


 体を浮かび上がらせた魔王は、言葉を切った魔人を見下ろす。


「早く言いなよ」

「まだ魔力が足りません。それに今のままでは発動と制御する力のバランスが悪いようです。全体的に魔力の底上げをしつつバランスよく配分なさるのがよろしいかと」

「うわ、面倒」


 魔人はまた思案しながら言う。


「魔王様の成長のためには、もっと多くの魔素を取り込んで魔力に変換する必要があります」


 苛つく魔王の視線を受けて魔人達の背は冷たい汗に濡れた。

 そもそも魔の者は魔素がこごったものであり、コストの低いものから実体化する。そして死ねば再び魔素に還元されるのだ。


「なら、魔物を消す」


 躊躇ちゅうちょなく言い切った魔王は城の大きな窓に視線を向ける。

 カタカタと窓が振動した。

 次の瞬間、バンッと音を立てながら次々とそれが開いていく。


「お待ちください」

「なんで止めるのさ」


 不機嫌そうな魔王の言葉に気圧されながらも魔人は言った。


「どうせ数を減らすなら人間にやらせましょう。魔物の一個体を強化し群れを従わせ、人間を襲わせるのです」

「人間がそれを排除できれば魔素は増え、できなければ人間が減る。手を下すのはそれからでもいいでしょう。どのみち魔王様に損はありません」


 それに、と魔人達は苦々しげに吐き出す。


「残念ながら勇者はすでに存在している様子」

「勇者の力を削げれば重畳ちょうじょう


 それを聞いて一気に魔王の機嫌が悪くなる。


「それは不愉快だな。確かにその力は削いでおいたほうがいい」


 魔王は真っ直ぐにその手を外に向ける。そこからどす黒い力が放たれ、四方に飛んでいった。


「そいつが僕の前に立つ前に潰してやりたいなあ。ああ、待てよ」


 魔王はくすくすと笑う。


「ここまで来てもいいな。それはそれで楽しみだ。っと、その前にこの体をもう少しなんとかしないとね」

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