3. 蛇の呪縛
相澤太一……本作「ルミナス・コード」第二期の助監督として急遽任命された男である。
まあ一期が竜崎悟朗単独の監督作だったので、二期におけるサブ脚本家、神代未玲とともに今回は監督、脚本ともにいわゆるダブルスープ方式を取っているのは、やはり単なるテコ入れ以上の意味合いがあるということだろうか。そんな考察が、その後アニメ業界やらファンの間で、まことしやかに噂されたりした。
しかし、これは助監本人に関する実情を知る者だけが無駄に知り得たであろう詳細情報だが、相澤は神代とともに元オタだった。今や万人が総オタク状態となってもおかしくない現状なので面白くも何ともない話かもしれないが――、その実、相澤は神代未玲とその昔、顔見知りの間柄だったとか。勿論これはファンはおろか業界内でも、ほとんど知られていない事実だった。
でも――あたしは知ってる。未玲がどんなに
あの夏の日、コミフェの同じスペースで……、アイツはあたしたちの隣のサークルにいたヤツだった。今でこそ女性向けと男性向けは別の日程を組まれ開催されているオタクの祭典コミック・フェスタであるが、その当時はまだイベントとしての規模もそれほどでもなかったということもあって、男女混合のオタが会場に犇めきごった返していた。
『ふん……やおい、ねぇ。気色ワリ』
不意に漏らされた隣のスペースでのその呟きを未玲は聞き逃さなかった。が、その時は別段気にする事もなく、適当に受け流していた。そういう
確かアイツの所は結構有名な人気作家を数名抱えるサークルで、あたしたちみたいな名もない弱小サークルにとっては、まったく世界の異なる目障りな、どうでもいい存在だったかもしれない。そうだよ。だいたい、あくまでアマがアマとして楽しむのが信条のコミフェ市場で、何をプロ気取ってんだか。そもそもそういうやつらには、あたしたちは金輪際関わりたくなかったし、それに関わるつもりもなかったから、その時までは特別気にも留めていなかった。
それは、そのうち午後早くに、隣のスペースで俄かにパチパチと大きな拍手が巻き起こった瞬間だった。
『おー完売、完売!おめっとさん、今回もいい成績残せたわ』
そいつのそんなあからさまな台詞が嫌でも耳に入ってくる。普通ならサークル間の交流ということもあって、同様に拍手とおめでとうの一言くらいかけてあげたいところだが……。満面の笑みで勝利を祝う隣のサークルとは対照的に、あたしたちのスペースは人影もまばら、見事に閑古鳥が鳴いていた。
『あれ? お宅たち随分と苦戦してるねぇ――』
うるさい余計なお世話だ、くらい言ってやりたそうな未玲の表情。でも相手は構わず続ける。
『第一あれじゃん、男×男なんてジャンル、萌えに比べて同じエロでもあんまり普通じゃないってーかさ、要するにオタの面汚し』
ピキ、その瞬間未玲のこめかみが、そんな音を立てたような気がした。み、未玲、相手にしちゃダメだよ……耳元に囁くそんなあたしの言葉も、今の彼女の耳には入らないようだった。そして――それはとうとう爆発し決壊した。
『もういっぺん言ってみろよ!』
瞬間、その一角の空気が瞬時に凍りつき、皆が振り返る。
『あーこれだから女オタは怖々っ……そりゃ俺たちも立派なオタだけどさ、まったく冗談の通じない相手っつーのも辛いわ』
未玲……、寸でのところであたしが止めたせいもあって、その場は何とか収まった。でも、その年の冬もアイツらのサークルは相変わらず大手並の幅をきかせており、あたしたちは結局、毎年同じしこりを残すことになった。何せ相澤は、たとえ同じスペースでなくても各サークルを周るついでに、何かに付けてあたしたちのサークルにねちねちとした攻撃を繰り返したからだ。
あんなのは男じゃない、女の腐ったやつだ。未玲は毎期ごとに苦々しくそう言っていた。でもコミフェに当選する度に、そんな話をしなきゃならないなんて、どう考えても癪に障るから、あたしたちはあえて何も考えないことにした。そして完全スルーを決め込むことにした。
今だってネットの荒らしには、まずそういう対処の仕方が一番の鉄則なのだ。まったくいつの時代にも、同じような鼻つまみものの輩はいるものである。ほんと、あたしとしても未玲としても、単にそんな風に簡単に片付けられたらよかったんだろうけど。
「相澤……なんでアイツまで……っ」
偶然にしては、あまりに上手すぎる話だ。まぁオタ市場なんてそんなものなのだろうか、世間は広いようで狭いって言うけど――、確かにそんな風に片付けられそうなハナシではあったが、相手が相手だけにあたしたちにとっては、やはり人事ではなかった。第一、一体どういう経緯で? まずそれがよくわからない。それ自体あたしたちのケースを取ってみても怪しい話だったし、本当に何かが気持ち悪かった。そんなあたしたちは、このルミナス・コードに纏わる“闇”について、やはりまだ何も知らなかった。
一体、男向けエロが健全で女性向けが不健全、だなんて誰が決めたんだろう。確かにそれを言ったら、一般女性向けBL市場としては元も子もないけど。腐は文字通り腐ってるけど、それは腐である彼女たち自身がそうと自認したからだ。そして萌え同様に“その世界”を誰に憚ることなく華々しく謳歌する。結局そういう女側の腐りきった主義主張が男どもは、その身の毛もよだつビジュアルイメージとともに心底気に入らないのかもしれない。
まさか男尊女卑? 冗談じゃあない、一体いつの時代だと思ってんのさ。けど、それは確かに、この日本文化そのものに深く根付いた悪習だった。未だに相撲の土俵には女性はあがれないし、女人禁制の慣習が残っている伝統文化は数多くある。やまとなでしこ、女はおとなしく男の後についていればよい、そういう意識は未だ世間に根強い。
でも、時代は変わった。女も男同様に同じステイタスに立ち、社会で活躍できるようになった。
何よりこのオタ文化、オタ世界においても同様の変革が起きている。それが世に言う腐女子という存在とBL市場の登場だ。もっとも基よりやおい、つまりボーイズラブは当たり前にリアルに存在した。(実際、飛躍しすぎな話だが)仏教の伝来とともに広まった平安時代より続く衆道、が何よりの証拠だが、むしろ二次元の世界であるBLは、その美的構造を高め、より普通に女性の感性に訴えるよう古くから完成されてきた。確かに一昔も二昔も前から、少女漫画の世界では当たり前に存在する、この女性的な男同士が繰り広げる恋愛BL
男は単純、女は繊細、決してそんなレッテルを貼るつもりはないけど。それにしても腐女子に対する腐男子、なんていう存在も実際いたりするもんだから、今にしてみれば実に解せぬ話である。要するに女性向けオタ文化であるBLが、極々少数だが男にも受け入れられたという証拠なのか。まあそんなことは、どうでもいいけど。
それにしても、なぜアマテラスは女神でありながら
古代、女は女神だった。それは原初の生命誕生の海と繋がる子宮を持つ、すべての命の源だからだろうか。それなのにいつの日も、この国で女は虐げられてきた。それは"穢れ"を持つがゆえだ。だけど誰もがその穢れた血の海から、こうして産まれてきたというのに、どうして女ばかりが一方的に犯され、男の欲情を満たしてその精を受け入れなければならないのだろう。単なる染色体の違いで、こんなにも扱いが異なる。無論男は皆、母である女から生まれてきた。
そのせめてもの
ルミナスが太陽でツクヨミが月。けれど、どちらもが男――いや、元々性別なんか関係ないのかもしれない。そういう瑣末な事にこだわるから、人は本質を見失う。要するに母なるアマテラスは、あたしたち腐女子なんだ。それこそが原始の日神の特権。太陽も月もない。男も女もない。だから男同士の恋愛劇を好んで世に
でも、そう考えると、ルミナスが反乱を起こしたのって……。
それに思いもかけず、この相澤が監督の片腕とも称される助監督として本作に迎えられたのは。なんだか嫌な予感がする。……もっとも、元々がいい予感なんて何一つなかったんだけど。あたしたちはもう、オタというオブラートにくるまれて純粋培養されてる場合じゃなくなった。少なくとも、そう、あたしと未玲は――。
*
その週の土曜日、いきなりあたしは、例によって再び前触れもなく呼び出された。
『あ――伊勢崎さん、今日お休み? ならちょうどいいわ、少しだけ時間貰ってもいいかしら?』
やっぱり携帯番号なんか教えるんじゃなかった。今更のように、あたしはどっぷりとした後悔の念に襲われた。が、それも既にあとの祭りというやつである。円城寺は、あたしにとある駅前を指定し、その場所で午後三時に待っているようにと伝えた。勿論、当然しらばっくれることも出来たのだが、これまで同様、あたしはその指示になぜだか逆らう事が出来なかった。
もう春……四月初旬、それもそのはず、だ。本来の予定なら既にルミナス・コードは春の新番組として放送にかかっていなければならなかった。でも、今からあたしが会う相手が、まさかここでこんなことをしていようとは。たとえどんなルミナスフリークであろうと、決して窺い知ることなどできなかっただろう。
やはり未玲に一言報告しておくべきだったろうか。でも、ただでさえ忙しいのに迷惑かけられないような気がした。って言ったら、彼女は怒るかな。それに……。
などと一人駅前の雑踏の中で思案していると、一台の車のクラクションが唐突に派手に鳴った。思わずその音に振り返る。するとロータリーの舗道に突っ立っているあたしの目の前に、その黒い車が滑り込んできて静かに停止した。
「――君、伊勢崎ナミさん?」
運転席側のウィンドウが音もなく降りると、その向こうで眼光ばかりが鋭く強い光を放つ、浅黒い精悍な顔つきの男がニヤリと笑った。あたしは思わずギクッとする。一人膠着しているあたしを余所に、男は車内から一枚の名刺を差し出すと名乗った。
「――はじめまして。私がルミナス・コードの監督を務めている、竜崎悟朗です」
要するに、キミの
本音を言うと心臓バクバク、絶えずあたしの心の中のオタマインドが、わーわー、これがあの竜崎悟朗監督その人なのですかぁ! などと一人盛大に騒いでいたのだが、それはここだけの秘密(まあ確かに、いわゆる雲の上の憧れの人だしねぇ)。
そんなことより、当面今問題なのは、一体これから監督とどこへ向かうのだろうかということだった。ただ促されるままに助手席に座ってしまったのだが、本心としては、どこかとても怖かった。だって相手は実際会ったこともない、自分には縁もゆかりもない業界の見知らぬ男性である。……ま、竜崎悟朗その人だということは勿論知ってはいたんだけど。
そんなあたしの緊張を察したのか、さっそく竜崎氏は、
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。まさか取って食おうってわけじゃないから」
あ、あたし、そんなこと思ってましたん? 確かによく知りもしない
現在、ルミナス・コードの制作は急ピッチで作業中、本来ならば監督自ら、脚本やコンテは基より原画や動画のチェック、そういった画面造形そのもののクオリティの維持は勿論、最終段階のアフレコ音響作業にも参加しなければならないし、そればかりか全体のセクションの進行具合を常に入念に監視していなければならない。まったくアニメーションの監督業というのは(勿論、監督ばかりではないが)昼も夜もない、決して楽なものではないのだ。ま、それもこれも、急遽助監督として抜擢した相澤君が自分に替わり、現場に立ち会って文字通りの監督指揮を執っていてくれるから、今頃こんなところで油を売っていられるんだがね。
相澤太一――監督自身の口に上ったその名に、思わず耳がピクッと動いたような気がした。でも、それにしても……それだけの大役をそこらのぽっと出の新人が普通、務め上げられるものだろうか? ふと、そんな素朴な疑問も浮上したりする。
が、そんなことを呟きながら、それもこれも本来のシリーズ構成・脚本担当であり、監督自身の片腕ともいえるコーディネーター役を買って出てくれている円城寺君のおかげだよ、と竜崎氏は続けた。やっぱり相澤をスカウトしたのは円城寺女史なのか。
……円城寺冬華、やはり只者じゃないのか。まあ元々やり手コンビとは前々から各所で評されてたみたいだけど。さすがに御本人の口から、そういった話を聞くと説得力がある(実際の制作現場では監督はアニメスタジオからのプロデューサーと陰になり日向になりコンビを組むものだが、ネプチューンは若干違っていた。つまり円城寺はそのプロデューサー的役割も担っていたということだ)。だけど……。
あたしは不意に思い出した。ダメだ、こんなにリラックスしてちゃ。だって、どう考えたって怪しいことが多すぎる。そもそも最初の話からして、どうしてリーヤ円城寺は、あのイベントであたしのことを知っていたんだろう。読心術、というのは確かにあまりに嘘臭い話だ。それに未玲とあたし、さらに相澤太一までが、どうして今ここでこうして一堂に会しているのか。それぞれがそれぞれに曲がりなりにも、このルミナス・コードという人気作の第二期制作スタッフの一人として。スタッフ?あたし自身に関して言えば、やっぱりどう考えても、おかしすぎる。
そんなことをつらつら考えていると、どうしても緊張がピークに達してしまう。そしていつ竜崎の口からその経緯や理由が伝えられるのかと、あたしは膠着しつつ身構えた。しかしそれなのに終ぞそんな話もなく、竜崎は絶えずそんなあたしに対して、あくまで紳士的に振舞い、笑い話などを交えながら緊張を解きほぐす手助けをするだけだった。
あーもー、何やってんだろ、あたし。監督は結構優しいし、でもそんな相手のペースに乗せられちゃあダメだってのは、勿論解ってはいるんだけど。これじゃほんとマジで未玲に叱られるよ。第一さっきからずっと気になっている、その本題。あの、今日は一体どこへ行かれるんですか。だがしかし、なかなか肝心のその質問を切り出すタイミングが掴めない。
「あ、あのぅ……」
しかし竜崎氏は、構わず続けた。
「伊勢崎さん、君はこっちはいける方?」
そう言って、くいっと一杯やる手振りをして見せる。
「――なんていうオヤジっぽいアプローチは一切しないつもりだから、安心してくれ」
かと思うと、穏やかな低音でそう告げる。それでも、くくっと笑ってみせる竜崎氏に、あたしは内心穏やかではない。そして、案の定。
「オタクっていうから、どんなあばずれが来るのかと思っていたら……案外君、かわいいね」
ええ、よく言われます。ってそうじゃなくって――ちらと少なからず品定めするようなその視線に、思わず頭の先から爪先まで全身が緊張する。う、もしかして典型的セクハラ親父。まるで蛇に睨まれたカエルにでもなったみたいだ。しかし、そんなことは顧みず竜崎は言った。
「いや、かわいいってのはその……、つまり君は神代君とは違うって意味だよ」
未玲とは違う。まあ確かに。それは今更他人に指摘されるまでもないことだった。だから、あたしと未玲は……まさか。この人はまさか今になってもあたしたちの間に見えない透明な壁が存在していることを実は知っているんだろうか。未玲もあたしも、お互いそんな素振りは少しも見せないけど。でも、そんなはず……。この人はただ見たままのことを言ったまでだ。だけど少しだけ円城寺の読心術とやらが、脳裏をかすめた。
「まぁ神代君は神代君で――腐女子、ねぇ。実に言い得て妙だな」
竜崎氏は、いかにも面白そうにそう指摘した。
「お宅も結構、その腐ってるお友達の一人だったりするのかい? ふ、何が面白いんだか、っていうのは余計なお世話かな」
――えっえっ? まさかのルミナス・コード監督の台詞が飛び出す。これって思わぬ本音が飛び出したってやつ?
半ば腐女子を商売相手にしている人の発言としては、それなりに問題かもしれないが、案外実情は、そういうものなのかもしれない。そうだよね、何だかんだいって結局「
創作物には、それを作った人の心が表れるというけど。だから本音を言えば、あたしは今目の前にいるこの人を本当は信じたかった。だって――竜崎悟朗。そう、体温。確かにこの人の作品には"心"があった。人の心を掴む力……それを人心掌握術と呼ぶのだとは知ってはいたけど。
その時、何を思ったか、不意に竜崎は車を車道脇に寄せてエンジンをかけたまま停車させた。
「だが……それもこれも一興。そして君と俺がここで出遭ったのも何かの縁。君自身がオタクを返上していいかどうかはともかく」
――カッチン、カッチンというウインカーの単調な音がやけに耳障りに響く。竜崎の眼の奥が、その時一瞬光ったような気がした。
「君、もしかして――」
え。
「……男と寝た経験なかったりしてっ」
その瞬間、あたしは耳元までカァッと赤くなって凍りついたように沈黙した。そして、今目の前にいる相手が何者であるかを思い出した。決して男嫌いというわけじゃない。そんなカマトトぶったような真似が今更できる歳じゃない事もわかってた。だけど、だけど。狭い車の中、今目の前にいるのは。
四十代。正真正銘の大人の男。そして――あたしは。
「たとえば、こんな風に……」
突然、近づいてくる車内の人影。苦味を帯びた煙草の薫りがふいに目と鼻の先に漂う。ドクン、ドクン……鼓動が激しく高鳴り、頭の中が真白になる。怖い……。何の予告もなく、唐突に覆い被さろうとする眼前の男を、だけど我知らずあたしは――。そう自分の意思とは反して、まるで神様が操るように、勝手にあたし自身の右手が動いた気がした。
――パシン!「い、っ」
唐突に車内に響く乾いた音。
瞬間、自分でも何が起こったのか全く解らなかった。でも、確かに……。う、わあぁ。やっべ殴った、殴っちゃったよっ!希代のアニメ監督、あの竜崎悟朗カントクをっっ! ご、ごめんなさい!あたしはただ我を忘れて一人テンパるばかりだった。要するに、当たり前に防衛本能が働いた、ということなのだろうか。それにしたって。ううう。
「ふ……上等だ」
顔を上げた相手の口元が、不敵にニヤッと笑ったのに気付き、あたしの恐怖は、その瞬間MAXに達したのだった。
*
「冗談でなく枕営業でもしなきゃならないとか思っただろう?」
数分後、屈託もなく竜崎はくつくつと笑っていた。結局、あまり気にしていないようだ。というより、その程度のことは氏自身、日常茶飯事のようなものだったのだが。だが、竜崎は突然黙り込むと次の瞬間、意外な言葉を告げた。それはまるですべてを見極めた上で話す本音のように。その声色に滲む真剣な響きにあたしは思わず両目を見開く。
「嫌なら今のうちに降りてもいいんだぞ――決して無理強いはしないつもりだ」
嘘だ。この人は嘘をついている。決して逃がさないつもりでいる癖に……そう、狙った獲物を。どうしてそう思ったんだろう、要するにさっきみたいな“草食動物”としての野生の勘が働いたのだろうか。相手が仮に肉食動物なのだとしたら、つまりあたしはそういうことになる。本能としての逃げ足の速さとともに、いざとなると角も出る。確かに動物占いこじかだけどね。
「まったく蛇ってのは怖いよな……心理学では男根に例えられるらしいしね、要するに諸悪の根源ってわけだ」
は、蛇? ダンコン?……やっぱりただのセクハラ親父じゃないか。って、そうじゃなくって。やっぱり蛇は肉食動物なのか?
「君の思ってることはもっともだよ、俺だってイッパシの男だ――やることはヤってるしね」
一体この人は何の話をしてるんだろう。未玲だったら、きっと走ってても無理やりドアをこじ開けて車から飛び降りるだろうな。しかし、竜崎氏は特別気にも留めないという風に言った。
「だから、そんなに警戒しなさんな。ま、別段あんたに全く魅力がないってわけじゃないがね」
あの、カントク。貴方を前にして、心底安心しろという方が何か無理ですって。それでもあたしは、何だかこの人が悪になりきれないダークヒーローに思えてしかたなかった。手負いの野獣。きっと本当は嘘をつくのが苦手な人だ。でも、それはあたし自身の甘さから来る油断だったのだろうか。
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