真逆の回廊
夢幻一夜
第一部 魔女の語る交響詩
第前話「魔女の語る交響詩」
「いつのことだったかしら。あれはもう――随分昔の事だったと思うのだけれど。
世界は氷で覆われていたのよ。え?嘘だろうって? そう思うのも無理はないわよね。
だって、あまりに荒唐無稽なんだもの。
けれどね、これはホントウの事なのよ。歴史書には記されていないけれど、それは本当に起こった事だわ。だって、私はその時見ていたんだもの。
そんなわけないだろうって? そんなことあるわ。だって、私は魔女だもの。時間ぐらい簡単に飛び越えられるし、不老不死だって夢じゃない。だからこそ、今私はここにいる。」
楡の木に背を預け、深い深い緑の長髪を一つにまとめて前に垂らした女が懐かしそうに微笑む。
「あの頃はいつも誰かと一緒になって色んなところを駆けずり回ったわ。いまでこそ『魔女』だなんて言われているけれど、あの人たちと比べたら、私なんてただの長く生きた器用なだけの『ただの人間』よ。それぐらい、あの人たちは苛烈だったわ。輝いていたもの。 まるで物語の中に出てくる〝英雄〟だったわね。きっと本人たちが聞いたらお腹を抱えて大爆笑する事でしょうけれど。」
「それで?その〝英雄さん〟達はなにをしたというのでしょうか? できればお聞かせいただければ幸いです。」
「うんっ! ボクも興味あるかな。その人たちは頑張って、その後どうなったのっ?」
声をかけたのは、彼女を円形に囲っていた子供たちよりも後ろにたたずんだ、亜麻色の長髪をストレートに伸ばしたエルフの美青年と、彼の腕に自分のそれを絡めた黒い綺麗な髪を後ろで外跳ねにした吸血鬼の美女のカップルだった。
「―――ああ、それでね……」
魔女は語る。
かつてあった戦いの物語を。
少年と少女が辿った険しく儚い道程の物語を。
後世、彼女の語った物語は吟遊詩人がメロディと共に奏で受け継ぎ、紙上にて世を駆け回り、電子の世界にて再生される事となる。
それは、誰にも記憶されていない、物語という形に押し込められた真実の欠片。
それをして、人は云う。
「今は昔の夢物語」と。
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