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緑は、次々と不幸をもたらす息子の存在が悩みの種であった。
とはいえ、緑はもともと、呪いやら霊やらといった非科学的な事物は信じない性分であった。不可解な現象の連続はきっと何かちゃんとした理由があるのではないか、と考えていた。
しかし、緑には交友関係が乏しかった。まず緑の両親は既に他界しており、両親の友人に相談できるあてはなかった。しかも緑には兄弟もいなかった。離婚した理は音信不通であり、ましてや理の親族を当たることもできなかった。友人もあまり多くないが、一人だけ長年親しくしており、日頃から連絡も取っており、かつ気軽に相談できる友人がいた。
緑は、紫に悩みを聞いてもらおうと思った。紫は高校時代の同級生であった。当時から親友と言っていい仲であった。卒業して、紫は大学に、緑は短大に入ったために、進路が異なってしまったが、定期的に会っては、たわいもない会話をする関係がずっと続いた。やがて紫も緑も結婚した。緑は結婚してまもなく息子を授かったが、紫は残念ながら子供に恵まれなかった。それなりにお金をかけて不妊治療をいろいろ試してみたが、どれも効果がなかったそうだ。もともと生理不順と言うことは聞いていたが、どうやら一年間に数回しか排卵しない体質だったようだ。
緑は携帯電話を取り出し紫に電話をかけた。離婚してシングルマザーとなって以来、育児と仕事の両立で多忙を極めたため、紫に連絡を取るのは久しぶりだった。
紫は久しぶりの旧友からの電話を喜んだが、すぐに緑の身を案じてくれた。息子のことについて話したところ、研究員をしているという知人を紹介すると言った。某大学医学部と提携している研究所で、分子生物学を専門としているらしい。紫にそんな知り合いがあるとは正直ビックリしたが、電話して良かったと心から喜んだ。紫はその知人に連絡を取ってくれるそうだ。
その日の夜、さっそく紫は緑に電話をくれた。その知人は『どこまでご協力できるか分かりませんが、いつでもいらしてください』と快諾してくれたそうだ。実にありがたい話だ。
翌日、緑は教えてもらった連絡先に電話をかけた。緑自身、仕事が忙しいので、なかなかすぐにとは行かなかったが、何とか近日中にアポイントを取り付けた。幸い、研究所の方も学会発表が終わって、一段落ついたそうで、緑のためにまとまった時間を作ってくれるそうだ。
緑は、四歳になる息子を連れて、研究所に
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