深緋の恵投(ふかきあけのけいとう)
銀鏡 怜尚
序章
序章
いま目の前を流れていくものの色を形容する言葉として、これ以上に適切なものはないのでは、といつも私は思う。そして、それを示すもののもう一方と、
多くの場合、それは名も知らない第三者への奉仕的行為として
ところが、私に限って言えば、上記のいずれでもない。特定されたただ一名の第三者へ向けてなのだ。名前こそ知ってはいるが顔は知らない。正確に言えば、会ったことはあるが、時が経過しすぎて分からなくなっていると思われるのだ。もちろん著名人でも偉人でもない。しかも、それがその使命の通りに活用されるかどうかはまったく予知できないが、どうやら他ならぬ私にしかできないということだ。一億人以上の日本国民からたった一人、私が選定された。
と言っても、別に宝くじのような報酬がある訳でも、ニュースとなって国民からよくやったと賞賛を浴びる訳でもない。むしろ、できることなら感じたくない痛みと、その後の
私は決してマゾヒストではない。慈善にも取り立てて興味はない。しかし、なぜ私はこの空間にいるのか。それは他ならぬ使命感であろう。
あのとき、フジイと名乗るその女性が突然家に来たことに最初はかなり
あれから十余年。その女性に逢うことはもう叶わない。それでも、私の心に深く刻まれた情熱は
ようやく、所定の十五分余りが過ぎようとしたころ、おのれの深緋の分身の一部を眺めてそんなことを考えていた。
一杯の水を身体に流し込みながら十分間ほど待機した後、私は閉ざされた空間から開かれた空間に出た。フェニックスの並木が海風で揺らめいていた。
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