第四十七章 12

 前方から撃ってくる敵の前に、怜奈が身を晒して堂々と進み出た事に、ハリー、アドニス、カバディマンは驚いていた。


「ブルー・ハシビロコ、参上!」


 怜奈はいつの間にか衣装チェンジして、全身藍色のスーツに身を包み、ヘルムを被っている。その顔は嘴を模したバイザーで覆われていた。

 明らかに怜奈の体に弾が何発も当たっていると思われるが、怜奈は平然としている。


「ハシビロ魔眼!」


 怜奈が叫ぶと、ヘルムの目の部分が光り、銃撃が止んだ。光を見た襲撃者達は、体が硬直していた。


「ハシビロフライ!」


 助走も無ければ棒も使わず、軽々と3メートル以上跳躍する怜奈。


「ハシビロダイブ!」


 叫ぶと同時に滑空して、敵のいる後方へ飛んでいく怜奈。勢い余って飛び過ぎたのだ。


 地上での銃撃戦が展開しだす。敵の数は明らかに二倍以上いると思われたが、質の面では大したものではない。それなりに訓練はされているようであるし、一応はプロの殺し屋なのであろうが、相手が悪かった。


 ハリーもそれなりに荒事に長けているが、ここは始末屋達に任せて静観する。


「やるなあ……」


 感心するハリー。エンジェル、アドニス、カバディマンが銃で次々と敵を撃ち殺していく中、特に目を見張ったのはアドニスだ。三人の中で明らかに頭一つ抜けている。


 戦闘はあっさりと終わった。もちろんハリーの護衛達が、襲撃者を撃退して終わった。

 襲撃者のうち二人が逃げようとしたが、来夢の重力弾によって容赦なく潰され、うつ伏せにぺっちゃんこになって地面にへばりつくという、無残な屍を晒すに至った。


「余裕の勝利ですねー」


 歩いて戻ってきた怜奈が、ヘルムを脱いでにっこりと笑う。


「怜奈、やる気が無いなら帰っていいよ。荒事はもう頼まないから、ずっと事務だけしてて」

「うわ~ん、ごめんなさ~い」


 冷たい怒気を孕んだ来夢の言葉に、怜奈は半泣き顔で謝罪する。


「敵だった時には恐ろしかったけど、味方だと頼もしいよ」

 克彦がアドニスに声をかける。


「カバディ?」

「いや、あんたじゃなくてアドニスさんね……」


 自分を指すカバディマンに、克彦が手をぱたぱたと振る。そもそもカバディマンと敵対した事も無い。今回が初見だ。


「それを言うなら、敵だった際に恐ろしかったからこそ、味方になった時に頼もしいと言うべきかな」

「確かにね」


 むっつりとした顔のまま真面目に訂正するアドニスに、克彦は苦笑いを浮かべた。


『皆強いんだー。ハリーとどっちが強いかなー?』

(どう見てもこいつらの方が強いだろ。俺も多少は自信あるが、こいつらにはかなわんだろうさ)


 ケイシーの疑問に、ハリーは声に出さずに、心の中で言葉を紡ぐ。これでもケイシーには伝わる。


「その黒い手があれば、銃はほぼ無力化かねえ」


 ハリーが克彦を見て言う。


「そうでもないんだよね。ここにいるアドニスさんと戦って、俺は重傷を負ったから、あまりあてにしすぎるのも……」


 そう言って克彦が頭をかく。


「そっか。でもその黒い手でガードしてもらえりゃあ、ライブも専念できそうだと思ってな」


 防弾ガラス越しのライブも覚悟していたが、克彦がいれば防ぎきってくれるのではないかと、ハリーは期待していた。


***


 アジ・ダハーカに戻った純子達は、また一階酒場にいた。


「ハリーに悪い印象は無かった。噂じゃ極悪人のように伝えられているのにな」

 真が言う。


「確かにいい人っぽいけど、心に闇は抱えていると感じたよー」

 と、純子。


「ふわわぁ~、あたしはあの守護霊にびっくりしたよォ~。純姉には見えたァ?」

「ううん。見えてないっていうか、守護霊まで見ないように遮断してるよ」

「見ておくべきでしたね。でも強い霊気は感じなかったですか?」

「あ、それは何となく感じたかなあ。でもあまり気に留めなかったというか。そんなに面白い守護霊だったの?」

「あぶあぶあぶあぶ、御先祖様が好みそうな幼女だったわ。で、とにかく霊として強いんだわ。あんなのに護られていたら、不運なんて、そうそう寄りつかないんじゃないかと思うよォ~」


 みどり、純子、累が喋っていると、純子に電話がかかってきた。


「んー、ふみゅーちゃんだ」

 純子が電話を取る。


『ぐぴゅう。仕方ないから解放してやったぞ。でも君、あれだね。やることダサいぞ? 先生に言いつけてやる的に、あたしの面倒見てる人動かすとかさ。オアンネス使っていろいろしようと考えたてたのに、台無しだわ』


 恨みがましいネチネチした声で文句を言う史愉。


「それでも言うことにはちゃんと従ったんだー。ふみゅーちゃんにしては珍しいねえ」

『ぐぴゅぴゅぴゅぴゅぴゅ……。確かに解放はしたっス。街中にな。ここ数日、あたしがオアンネスの何匹か、脳みそいじくってここで暴れさせていたのをもう忘れたのかな? この町の奴等がオアンネスを見つけて、笑って見送ると思ってるのかなー? あたしは約束果たしたもんねーっ! その後のことはなーんも考えてなかった超お馬鹿さん、お疲れさままま~。わっはっはっはっはっ!』


 勝ち誇った笑い声でまくしたてられ、電話は切れた。


「脳をいじくって暴れさせたとかは知らなかったなー。ていうか、それ全員じゃないでしょー。私達がげっとした二人は、そんなことされてないみたいだったし」


 純子が息を吐き、肩をすくめる。


「ミルクや霧崎よりもどうしょうもない奴だな……」

 呆れる真。


「霧崎教授は変態ですけど、わりと常識的で義を重んじる人ですよ」


 累がフォローする。霧崎には累も昔いろいろと世話になっており、わりと好感を抱いている。


「知ってるよ。霧崎は良識という面では、雪岡やミルクよりはずっと安心できる」

 と、真。


「まあ、私の手落ちだったねえ。もう一度城の方に行ってみよう」

 純子が立ち上がる。


「急ぐなら車を貸すぞ。壊したら弁償だけどな」

「ありがとさままま」


 凶次の厚意に、純子が屈託の無い笑みを広げる。


 オアンネス二人も連れて、荷台が空のダンプカーで移動する。純子が運転し、真が助手席に座り、荷台には累とみどりとオアンネスらが乗った。


 そして純子があちこちぶつけながら車を走らせる。何度か人も轢きかけていた。


「うっひゃあっ!? 何だァ!? この乱暴な運転はァ!」

 みどりが荷台で叫ぶ。


「久しぶりだったから、こいつの運転の荒さを忘れていた……」


 凶次か別の誰かに運転を頼むべきだったと、真は後悔する。


『ヘーイ! ちょっと純姉、運転変わろうっ!』

「えー? どうしてー?」


 荷台から電話を入れて要求するみどりに、純子が不思議そうな顔をする。


「みどりの言うとおりにしろ……」

「んー……わかったよ。せっかく久しぶりにハンドル握ったのになあ」


 真が珍しく切実な声を出し、純子は残念そうに車を止める。


 みどりに交代してから、車は安全運転で無事、城前へと着いた。


 城前に着くとオアンネスが住人達とやりあっている最中だった。殺されたオアンネスと住人が、共に数人ほど死体となって転がっている。オアンネスはそれなりに戦闘力が高いようで、銃を持った住人達相手にそれなりに立ち回っている。


 しかも城前で仁王立ちした史愉が、住人を煽りまくっているように見える。


「わっはっはっはっはっ、のこのこ来やがったぞ。馬鹿共が。わっはっはっはっ」


 純子達がやってきたのを見て、大口を開けて高笑いをする史愉。


「ふぇぇ~……今時あんなわっはっはっとか笑う奴いるんだね~」

 苦笑するみどり。


「お前も人のこと言えないだろ。お前みたいな笑い方する奴どこにもいないし」

「みどりはどこにもいない笑い方、あいつは古典的な笑い方。比べるのはおかしいよォ~」


 突っ込む真に、みどりは反論した。

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