第二十章 エピローグ
腕斬り童子と足斬り童子の村から戻った麗魅は、夕方近くまで寝た後、夜に銀嵐館へと訪れた。
客室にて、シルヴィアと朽縄正和の二人を前にして、麗魅は状況を全て説明する。
「白狐家にも相談しないといけないが、な。足斬りと腕斬りが降伏したなら、その指導者の左京に全ての責任を被せる形にして、残った指導者の青葉と八重は、朽縄と白狐への服従を代償として、足斬りと腕斬りの処遇も不問にするのがいいか、な」
正和が出した結論は、以上のようなものであった。
「麗魅達が失敗したら、軍を動かすことも一応は考えていたらしいぜ」
シルヴィアが笑いながら言う。
「軍の協力を乞う筋書きは我等にとっては途轍もなく屈辱であったし、我々霊的国防を担う者の屋台骨すら、揺るがしかねなかったから、な。以前、薄幸のメガロドンのテロの件で、協力要請されても、うちらが動かなかったせいで、防衛省とはギクシャクしてしまっていたし、な」
腕組みしてふんぞり返り、どうでもよさそうに語る正和。
「その宗教テロの時に動けばよかったじゃねーかよ」
シルヴィアが指摘する。
「教祖が相当な力を持つ、過ぎたる命を持つ者だと判明していたから、な。本気でぶつかれば、今回の騒動以上の犠牲が出る事も、わかっていたんだ、な。そして今回の騒動は、放置しておけばあの時以上に危険だったかもしれないから、な」
(その教祖が現地にいたとも知らないで)
そう思うと笑みがこみ上げてくる麗魅。
「実際は大したこと無かったようだぜ。獣之帝の復活も失敗していたわけだし」
「それは事前に判別つかなかったし、な。仮に完全に復活したとしたら、そして獣之帝の伝承が真実であれば、誇張抜きに国家存亡の危機だし、な」
麗魅の報告を受けて、正和が言うが、シルヴィアにも麗魅にも、言うことがブレていて言い訳じみているように聞こえた。
***
喫茶店『キーウィ』にて、真とみどりは向かい合い、純子には聞かせられない会話をしていた。
「累曰く、あの獣之帝はどうしょうもない劣化コピーらしいが、どう思う?」
パフェにスプーンを突っ込みながら真が問う。
「雷落とすってだけでもかなりとんでもない能力だと、あたしは思ったけどねー。能力に限らず、いろいろと劣化要素はあるでしょーよ」
自分の考えを述べ、ブラックコーヒーをすするみどり。
「でもクローンであるからこそ、多少は力を引き出せたわけだろう? 少なくとも今の僕の体よりは有効に使えていた」
「クローンだからある程度は適合していたし、クローンとはいっても鍛えられていないから、あの程度って話だわさ。で、真兄の狙いは何よ?」
口で聞かなくても、真と精神を繋げているみどりは、知ろうと思えばいくらでも知る事ができるが、それでは味気無いので、会話が可能な時は会話するよう心がけている。
「あいつの体に僕の霊魂を入れただろう? 僕があいつの体の主導権を奪うこともできるのなら、あいつの体を使って、獣之帝の力を僕が操ることもできるんじゃないかと考えた」
「へーい、真兄は努力無しのタナボタチートパワーアップは嫌いじゃなかったのぉ~?」
「嫌いだよ。考えてみただけで、実行したいとは言ってない。実行するにもいろいろと面倒だし。でも……どうしても力が必要になった際は、そのためのストックとして、勘定しておいてもいいだろう?」
ケースにもよるが、明彦は協力してくれるだろうと、真は見ている。もしどうしても必要な状況があるとしたら、それは絶対に真の我欲のためではない。
「ありとあらゆる事態を想定して、使えるものは確保しておく。お前もそれを頭の中に入れておいてくれ」
「なるほど……。でもそれって、緊急時に使えるものじゃないし、使いかっても悪そうじゃない? 明彦は朽縄の一族の所で働くことになったんでしょ?」
「確かにそうだな。復讐に使うつもりもないしな。本当に獣之帝を蘇らせるとしたら、僕が相応しい器になる事が理想だ」
そのための修行を純子に悟られないようにこっそりしている真とみどりであるが、まだ先は長いとみどりは見ているし、真にもそれは言ってある。
「あれー、二人してこんな所でお茶~?」
店内に入ってきた純子が、真とみどりに声をかけてくる。
(真兄、盗聴器とか仕掛けられてない?)
あまりにいいタイミングすぎて、みどりはそう疑い、念話で尋ねる。
(服はいつもチェックしているが、体の中はどうしょうもないし、そこまでは疑いたくないな)
隣に座ってくる純子を意識しつつ、真が答えた。
***
美香の事務所。
妖怪達の村から戻った二日後、八重から美香に連絡が有り、村のその後を聞いた。
「村は全面降伏という形で、朽縄の一族と白狐家の管理下におかれたらしい! あの村で奴隷扱いされていた人達の生き残りも、解放される形だそうだ! 解放されたからといって、村を出るとは思えんがな!」
クローン四名に報告する美香。
「寛子さんと明彦は?」
読書していた十一号が栞を挟んで本を閉じ、一番気になっている事を尋ねる。
「朽縄寛子は、村で面倒をみてもらうことになった! 朽縄明彦は朽縄本家で働くことになったそうだ! 親の財産は当面の生活費を差し引いて、全て寄付したらしい!」
「明彦に何の罰もねーの?」
ネットを閲覧していた二号が美香の方を向き、珍しく真剣な面持ちで問う。
「明彦の処罰は、妖怪が絡んでいる時点で、法の裁きに委ねるのは難しい! 本人に罪の意識を芽生えさせ、本人の判断で罪を償わせるしかない! その意識を芽生えさせる役目は、十一号が果たした!」
美香に自分の功績扱いされ、十一号は複雑な気分になる。
「それで罪の償いと呼べるかどうか、怪しい所だがな! 十一号には悪いが、私はすっきりしない!」
「私もそれで済まされる事はどーかと思う」
美香の言葉に二号も同意する。
「彼が罪悪感を抱き、どんな形にせよ償う意識があれば、もうそれでいい。多分、私が一番彼の気持ちをわかっているし、同情もしているの。それに、彼を殺してしまった方がよっぽど彼には救いになるしね」
正直十一号は、いつか明彦を完全に許してやりたいとすら思っている。殺された博もきっとそう望んでいると思う。
「罪の意識を持たせてずっと生かしていた方が、より残酷ってかー? 十一号も陰険だね。いひひひ」
「そういう言い方はよせ!」
真顔からいつもの顔に戻って茶化す二号と、それを叱る美香。
「ていうか、あいつ十一号に惚れてたみたいだけど、十一号は奴隷時代にあいつに奴隷扱いされて、ひどい扱いはされてないの? おら、とっととしゃぶれーとか」
「貴女と一緒にしないでくれる?」
なおもろくでもないことを口にする二号に、冷たい視線をぶつける十一号。
「うひひひ、あたしはお前等と違って処女ですからー。新品ですからー」
勝ち誇ったように笑う二号。
「私も未経験だ!」
思わず口走ってから、余計なことを言ったと思う美香。
「うっそだー。芸能人なんて皆、女は枕でガバガバ、男も尻の穴ユルユルだって、うちのおじいちゃんが言ってたゾ。うへへへ」
「そのおじいちゃん連れて来い! 死なない程度に殴ってやる!」
「うひっ、残念、もう死んでっから。墓暴いて遺骨でも殴ればぁ~?」
「こいつ……! 故人までネタにするとは! もう許さん! 代わりにお前を死なない程度に殴ってやる!」
「ギャー! 暴力反対!」
言い合いの果てにブチキレた美香が二号に襲い掛かり、マウントを取って上からガンガン拳で殴りかかる。二号は腕で必死に頭部をガードしつつ泣き喚く。十三号はそれを横目に見ながらお茶をいれ、十一号は読書に戻り、七号は窓から空を見てぶつぶつと呟き続けていた。
第二十章 自分のクローンと遊ぼう 終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます