第十五章 天に唾を吐いて遊ぼう

第十五章 プロローグ

 夜。俺はあまり電灯をつけることはない。暗い部屋の方が落ち着くし、良い気分に浸れるからだ。真っ暗にしていようと、空中に浮かぶホログラフィーディスプレイは問題なく見ることができる。


 誰かが言った。暗い部屋でディスプレイを見ると、目が悪くなると。

 今、俺に向かって面と向かって言えよ。そいつの目玉を潰して、そんな心配などしなくて済むようにしてやろう。


 固い椅子に座り、机の上に投げ出した足を組み、闇の中で紫煙をくゆらせる。

 誰かが言った。煙草の煙を人前でふかす奴は死滅すればいいと。

 今、俺の目の前で同じことを言ってみてほしい。そいつの鼻の穴を灰皿代わりにしてやろう。


 煙草の火を指で揉み消し、親指で弾いて灰皿に捨てると、左手に持ったグラスを呷る。グラスの中のブランデーには氷も無い。水で割るなんてアホなことをするわけもない。

 誰かが言った。アルコール度数の高い酒を生で飲んでいる奴は、酒ではなく自分に酔っていると。

 今、俺の前でそんなセンスの無い戯言を口にしてみてくれ。顎が砕けるほど殴りつけてから、口から滴るそいつの血で、酒を割ってやろう。


 ディスプレイに書いた文章を見直す。自分の顔に血が上るのが分かる。恥ずかしさのあまり、苦笑いが浮かぶ。削除……と。

 嗚呼……我ながらひどい出来だ。駄目だ駄目だ。俺の方こそセンスが無い。柄じゃあない。詩を作るなんて、俺のキャラじゃない。わかりきっていたことだが。

 酔うとついつい頭の中で思い浮かべてしまうんだ。あいつに言われちまったせいで。あいつの影響で。くだらない詩ばかり考えてしまう。そして酔いが醒めるほどのひどい詩を書いてしまう。


 今、誰か俺に言ってくれ。それで詩のつもりなのかと、俺を嘲笑ってくれ。御礼にそいつの顔に唾を吐きかけた後、銃でドタマを吹っ飛ばしてやる。


 あいつは言った。詩を愛でる心の無い者など、人では無いし生きる資格も無いと。

 今、俺の前に現れて、もう一度言ってくれ。お前の唇にむしゃぶりつき、服を適度に引き裂いてから、俺の意識が飛ぶまで激しく交わってやる。


 うーん……恥ずかしい。削除、と。

 うん、やっぱり俺には詩なんて作るセンス無いな。頭の悪いチンピラがぼやいてるだけじゃねーか。


 そう……こいつはとてもシンプルな話。

 一人の女に出会い、惚れて、そいつを守ろうとするなんていう、どこにでもありふれた話。


 それが今から俺の語る話。

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