第十一章 マッドサイエンティストの恋人で遊ぼう

第十一章 プロローグ

 赤い瞳の少女の腕の中で、一つの命が消えようとしている。


「泣き顔は似合いませんね……。最期まで、貴女の笑顔を見ていたかった」


 血まみれの灰色のローブを纏った長い金髪の男は、同じ色の瞳で少女を見上げ、無理して微笑みを浮かべ、少女の頬の涙を血のついた指でぬぐう。少女の頬に血の痕が少しつく。


「誰も恨むことはありません。悲しむこともありません。魂は縁で結ばれています。また会えますから」


 彼が口にしたその言葉は、少女の魂に刻み付けられる事となった。


「私の夢はここで費えてしまいましたが、貴女がそれを引き継いでくれるなら……嬉しいですね。いや、他にやりたいことがあれば、そんなものに縛られることなく、自由にしてくれていいのですけれど」

「マスターの夢は私の夢でもあるから……私が実現してみせるよ。この世界の全ての謎を解明してみせるから」


 涙をぬぐい、笑顔を作ってみせながら、少し鼻声ではあるがそれでも明るい声を出す少女。

 弟子の笑顔を見て、男は安堵したかのように目を閉じる。少女はいよいよ別れの時が来たかと思い、作った笑顔が崩れた。


「生まれ変わって、いつか必ず貴女に会いに行いきます。転生して記憶が消されようと、想いだけは忘れない。いや、会ったらきっと思い出します。……とはいっても、その時に貴女は別の男とくっついているかもですが。まあそれで幸せならいいですけれどね」

「大丈夫だよー。マスターとの物語の続きができるようにしておくよ。ずっと待ってるから」


 男の命が尽きるまではまだ数分の猶予があったが、それが最後の会話となった。男の心臓の鼓動が止まるまで、少女はただ男を抱きしめ続け、想い続けていた。


 それが1000年くらい前の話。

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