死後に青春はやって来た
秋鹿 慧
プロローグ
いきなりの質問になるが、死後の世界という存在はいくつあると思うだろうか。
某西洋の死後の世界ならば、天使のいる天国、そして悪魔のいる地獄。
某アジアの死後の世界ならば、極楽浄土に地獄。
言い方は異なるが、どの宗教も天界と言われる善人しかいない世界と、冥界と言われる悪人しかいない世界のどちらかに限られるわけだ。
そして全てに共通するのは永遠を死後の世界で生きるということ。
そんな世界は嫌だというどっかのお偉いさんが輪廻転生なんて言葉を生み出してはいるが、本当にそうなのか疑問でしかない。
だが、もしも死後の世界なのにも関わらず、その命が無限ではなく、有限だとしたら……。
あなたはどう生きていきますか?
———楽しい記憶は覚えていない。
ただ学校へ行き、勉強し、帰って寝る。こんな事が何年も続いている。
いや、これからも続くのだろう。社会人になってもこの連鎖は続いて行ってしまうと確信まである。
そんなつまらない生活に飽き飽きしながらも、
いつもの時間に家を出て、いつもの道を歩いて、いつもの時間に出発する電車に乗る。そんな毎日に嫌気が差ていたのかもしれない。電車に揺れる早人の目には死んだ魚のように生気を感じることが出来なかった。
学校の近くの駅に到着するとぞろぞろと同じ制服の生徒が降りていく。早人の生徒に混ざって電車から降りた。
しかし、ホームから出て改札に向かう訳ではない。立ち止まって数分間線路を凝視しているだけ。
しばらくして急行の電車が通り過ぎようとしたその時。早人は線路のある方へ飛び降りた。
反対のホームに並んでいた少女と目があう。早人を凝視していたが、驚きもする暇を与えなかったのか、無表情で少女は早人を見つめていた。
その刹那、鈍い音が辺りに鳴った。
一瞬の出来事で何が起きたのか分らなかったが、肉片らしき塊が辺り周辺に飛び散っていて、とある肉は反対のホームに飛ばされていた。
そう、飯綱 早人は死んだ。
最初に忠告しておくが、飯綱 早人は学校で虐められていた訳でも、家で家庭内暴力があって彼の精神がボロボロになっている訳でもない。普通の友達のいなかった男子高校二年生だった。
ただ、彼は早く終わらせたかっただけだった。このつまらない連鎖の世界に生きていく事を。そして連鎖を止めるという望みを叶えたのだった。
彼は即死だったのかもしれない。だが、醜い半分だけの首となった早人だった物は疲れのない、ほっとしたような顔で目を瞑っていた。
ホームでは恐怖の悲鳴がいまだに鳴り響いていた。ある者は叫び、またある者は口から汚物を吐き出していた。
早人と目があった少女はなんの反応もみせていない。
それどころか、少女の口元は笑っていた。
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