超チート! 転生勇者が世界を救ってから四代目
はまち矢
プロローグ
拝啓、読者様ヘ。
この手記は、四世勇者アイサダ・ネフライテ・アンフィナーゼの見聞録を、最も身近な視点から記したものとなるはずである。
まずは、俺の手記を読んでくれる人に尋ねよう。果たして君は、転生チートなる物をご存知だろうか?
かく言うウチの家系が、そのものまさしくチートによって生まれた「勇者」の家系だ。
女神によって遣わされ、魔王を、そしてその奥に潜んでいた邪神の野望を打ち倒した、世界の英雄「アイサダ・タダヒト」。
別名タイラントスケコマシヌスである。
いやあそれはもう、ヤりもヤったりであろう。勇者の家系と言いながら、子世代の時点で既に腹違いの血が八系。
「獣人」「騎士」「忍」「神官」「魔導」「半魔」「龍人」「半神」と来たものだ。
お前、最後半神て。どう考えても女神様とイタしやがったなあん畜生。
まぁいいさ、この世界の神様事情がどうなろうと、俺の知ったこっちゃない。
番外として「王族」とか「巫女」とかもいるが、その辺は流石に国家の方を主として暮らしているのでそれも良い。
男としてはもちろん、美人揃いの夜の生活がどうだったか? とか、そもそも死ぬんじゃないか? とかの諸問題について気にはなるが……まぁ今は、話を進めよう。
十も二十も手に入れたチートを縦横無尽に振り回し、世界を救った勇者タダヒト。
彼のチートが、子世代に"受け継がれる"ものだったと言うのは、どうやら世界中の誰からしても大誤算だったらしい。
勿論、勇者の子供が皆、我らが曽祖父の誇る数々の【
だが、唯でさえ強い者同士が掛け合わさって生まれた血に、交配で受け継がれたチートなんてモンは、幾らなんでもこの世界の力関係から逸脱し過ぎていた。
しかもタダヒトの子たちがチートを覚醒させ始めたのは、奴がぽんぽん蒔いていった種が殆ど世に生まれてからだ。
その直前、勇者はこの世界から消息を絶ったってんだからとんだクズ野郎である。
それでまぁ、困ったのは世のお偉方と、親であるタダヒトや嫁達の何人か。
親が善人なら子も善人、なーんて話がうまく行けば良いのだが、そうなる保証はどこにも無い。
そうでなくとも、どんどん「混血」が進んでいって世界中みーんなチート持ちなんてなったら手に負えないのだ。
いや、そうなったらなったで楽しい社会が生まれそうだが、少なくとも当時を生きる人間たちには受け入れられなかった。
女神や龍と言ったスパンの長い連中からしても、いつかコロっとした出来心で生まれちまった子孫たちが、剣を抜いて殺しあう未来なんか御免だったのだろう。
……なまじ、そうなるまで生き残れるから余計にな。だから連中、慌てて連れていける親族皆を連れて引きこもった。
どこに? そう、それこそが俺達の故郷となる〈天空街〉。
その存在をお目こぼしして貰う代わりに、「世界を救う」責務を負った、くそったれどもの棲家である――
□■□
……ああ、それにしてもいい天気だ。
ゴツゴツとした樹の幹に身体を預け、ぼんやり口の中に広がるウェットシガー(薬巻たばこ:薬草、ドライピール、刻んだ桂皮などを巻いて乾かしたもの。火をつけないタイプを指す)の苦味を噛み締めていると、背の低い草を踏みしだく音がした。
「おじ様? アジンドおじ様?」
「んぉ」
知らず知らずの内に、手帳に書き込むのに夢中になっていたらしい。
いつの間にやら近づいてきていた「獣人」家の"はとこの子"が、不機嫌そうに頬を膨らませていた。
如何にも獣人メインの家系らしく、可愛らしい顔の上で耳がピコピコと揺れている。ありゃー確か、「かまえ」のサインだったか?
「おーう、帰ってきたか主人公様」
「主人公?」
不思議そうに首を傾げる仕草だけ見れば、ただの10代前半の可愛らしい犬耳少女。
だがこれでも、恐らく戦闘力は世界有数。英雄タダヒトの中核たる【
そのエリート度といや、矢弾を大体八割くらいの確率で当てられる【
「何か、お書き物の途中でしたか? おじ様は昔から、物語を書くのがお好きでした」
「ああ、そうさ、勇者アンフィナーゼ様の一代記だ。それも限りなく身近な視点から書かれたものだぜ。こういうのはな、コツコツやっときゃあその内高く売れるんだ。俺も印税で老後がウハウハって寸法よ」
「……おじ様、似たような事を私が5歳の頃におっしゃってました」
「そ、そうだっけか……分かった、そういうの思い出すの止めよう、心に来るから……」
やばいぞ、全然覚えてない。俺はもう、10年弱進歩が無いと言うことだろうか。
こいつが5歳の頃と言うと、俺がハイティーンくらいの時だ。
ちくしょう勇者め、どうせ完璧超人やるなら創作方面にも力を入れれば良い物を。残念ながら、クリエイト系のチートは【料理得意】くらいしか無いと来たもんだ。
ハーレム野郎のことだから、どうせしばらくしたら女性陣の手料理しか喰わなくなっていったんだろう。
中途半端なことしやがって。書きかけの絵日記のようなチートを持たされる身にもなってみろってんだ。
「おじ様から見て、私はどう映っているのでしょう? とても気になります!」
「あ、コラ!」
心の中でそんな悪態をついていたもんだから、ウキウキとした表情で手帳を引っ掴んでいくアニーゼを、俺は止めることが出来なかった。
反射速度とか、咄嗟の腕力とか、そういうのがもう全然敵わないんだよなぁ。
ガキの頃から相手していただけに、嫉妬とかはあんまり無いが……まぁ流石に、思うところはある。
今はそれより、みるみる滲んでいく怒りのオーラからどう身をかわすかの方が重要そうだ。ブンブンと振られていた尻尾が、高い位置で静止していく。
「……あなた」
にっこりと目を細め、犬歯を見せながら口角を歪める。
むすっと頬をふくらませるのが不機嫌なら、これは完全に怒りの表情だ。笑顔とはそもそもなんとやらと、昔の人はよく言ったものである。
俺はこっそりと足を半歩下げて、逃走の姿勢を取る。残念ながら、アニーゼの方が何倍も早いのだが。
「あなたったら! あなたったら! またひいお祖父様やご自分の家族の事を『くそったれ』なんて書き記して! ひいお祖父様は世界をお救い下さった、とても偉いお人なのですよ!」
「いてぇ! やめろ、大人のケツは叩くもんじゃない!」
「それに何ですかこれは! 私のことが、全然書いてありません!」
「まだそこまで進んで無いんだよ、掴みの段階なの!」
べしーんべしーんと、叩かれる俺の尻が良く音を立てて鳴った。
アニーゼ曰く「丁度叩きやすい位置にある」とのことだが、何が悲しゅうてガキに尻を叩かれなければならんのか。
まぁ勿論、この怪力娘に全力で引っ叩かれればこんなモンで済むはずが無い。これが俺達なりのじゃれ合い方と言われれば……いややっぱ否定したいな。
叩くならむしろ、上半身の板っぷりに比べ、すくすく育ったこいつの尻の方がよほど叩き心地が良いんじゃないかね?
んなこと言うと、叩かれるだけでは済みそうに無いので黙りますけども。くそ、どうせ叩くなら女神の尻(卑語の一種だ)にして欲しいもんだぜ。
「……では、私が『メイジオーガ』を討伐するところ、どうでしたか? おじ様、ちゃんと見ていて下さいました?」
「あー……うん。それはそのー、ねー……?」
そう言うとアニーゼは俺の尻を叩く手を一旦止めて、ジト目で見上げてきた。もちろん、ウェットシガーを湿らせてサボっていた俺がしっかり見ているはずもない。
【光刃貴剣】を発動させたアニーゼの剣ならまず一刀両断だろうし、見ても見なくても結果は変わらないんだもん。
流れる冷や汗をごまかしながら、俺は努めてにこやかに、彼女が褒められると喜ぶポイントをおさえて発言する。
「いやぁー、相変わらず可愛らしくて素敵だったぞ。
艶やかに流れる翡翠色の髪など、絹のように滑らかで、まるでバローニャ川のよう……あいてーッ!」
「あなたったら! あなたったら! やっぱりちゃんと見ていなかったのですね!
炎属性の呪文を操る『メイジオーガ』が相手でしたので、髪は纏めておりました!」
「えぇっ!? いや、だって、なら何で今は解いてんだ。面倒臭くねえの?」
腰にまで届く長い髪だ。その割によく手入れされてるとは思っていたが、こいつそんな事まで気にかけていたのか。
どうせ、【光刃貴剣】の勇者補正で、ちょっとした炎くらいなら弾いて消し飛ばせるだろうに。
なんともまぁ、年頃の乙女と言うのは大変なものだ。
「おじ様が昔、滑らかな髪が好きだと言ってくれたからですのに、もう」
「あー、そうだっけ……子供だってのにまぁ、色気づいちゃって……」
「子供とは何ですか! 私はもう、子供だって立派に産める歳です! そういうおじ様こそ、デリカシーの1つくらい覚えるべきでしょう!」
「はいはい、そーねー。獣人はその辺イロイロ早いんだったねー」
18になってやっと一人前な人間と違って、獣人系の血は14の頃には母になるのも珍しく無いのだったか。
まぁ、よその文化とは一線引かれた「勇者家」であるから、アニーゼも必ずしもそうなると言うわけでは無いけれど。
「あ、じゃあお嬢ももうちゅーとか済ませてんのかぁ。相手はどこのどいつか、おじさんにだけ教えてごら痛っだぁ!」
「あなたったら! あなたったら!」
「痛い! わかった! すみませんお嬢様!」
俺達、天空街から降り立った勇者様ご一行。
こんな道中だが、"世界救済"の旅の途中である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます