秘密基地クラブ

菊月太朗

第1話





« Il n'y a rien au monde qui n'ait un moment décisif. この世には決定的瞬間を持たないものはない»

de Cardinal de Retzレス枢機卿




「お尻?」

 清和せいわけいの目の前に、体育館裏に廃棄された机の山の奥へと進んでゆくプリーツスカートが見えた。

 お尻が左右に振られ、躙りながら進んでゆく。

 スカートからは白い太腿がチラチラと覘き、ふくはぎも細身だが柔らかな女の子らしいラインを紺色のハイソックスが彩っている。

 それを見て啓は自然と脇を締め、コンパクトデジタルカメラを構えていた。そして、写真を撮った。スナップ写真である。そんな彼の趣味は勿論、写真、である。

 そして、撮れた写真を液晶モニタで確認しながら、これは何か事情がありそうだと思ったが、とりあえず追求せずに、その場を後にした。啓は基本的に面倒事には極力関わりたくなかったからである。しかし、啓は、一瞬だけ(何だろう?)と啓は考えた。だが、さっぱり意味など分からない。とりあえず、明日以降、現場検証をしてみようか、と考えているうちに、新しい被写体を発見した。猫だ。

 裏山から出てきたと覚しき猫は、官能的な体のラインをしており、(これを撮らないなんて……有り得ない!)と、啓はカメラを構えた。そして数ショット撮って満足して、また校内の散策を始めた。

 そもそも啓は神来かみき高校入学式の後、新しく通う校舎を探検がてら趣味の写真を撮っていたのである。

 元々この高校は、とある山城の下館として建てられた敷地と建築物の一部を使用しており――ゆえに直ぐ裏がもう山である――、大部分の建築物は市が観光用に利用している。

 山城は高校の裏山の天辺に建っており、市の観光の財源の一つである。

 この下館にも、七間濠と高い野面積みの石垣といった城の名残がそのまま残っており、ねり塀と楼閣は観光用の入り口として解放している為、学生達は違う入り口から学校に入る。

 つまり、実にフォトジェニックな建物なので、カメラに収め甲斐がある、と啓はそこが気に入ってこの学校に入学した。

啓の家は写真館である。高校から歩いて三十分の距離にある神来商店街の中の一店舗だ。

 といっても、店の主である啓の父は写真家ではあるが、自然写真をメインで撮っており、街の写真師であった啓の祖父と違い、普段街の営業写真館としての営業は殆ど行っていない。そして、啓の母も主にアウトドア雑誌に寄稿するフリーライターである。ちなみに、啓の両親は登山雑誌の企画で仕事を共にした事が縁で夫婦になった。彼らは今も仕事を続けている為、両親が揃って家に居る日など年に数える程しか無い。

 啓は数点、学校内外で写真を撮り、満足したので、次は帰宅がてら、市内を撮って回る事にした。啓は腕時計を確認し、ニッコリとした。なぜなら、午前中に式典が全て終わった為、散策する時間は、たっぷりとあるからだ。

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