040_1820 紫電の雪降る夜、学舎にて狩人たちはⅦ~大いなる砲火~
「ローストビーフの気分ですわ……!」
毒づきながらコゼットは、エマージェンシーブランケットを被り、荷物を抱えて物陰に隠れて進む。
彼女がいるのは、一二号館――主に大学部教員の個人研究室が入る棟の屋上だった。先ほどまで戦ってい校舎よりも、正面駐車場近い上に、視界に収めることができる。
つまり、《ズメイ・ゴリニチ》が発生する《
だから彼女は災害時や遭難時、毛布代わりにできるエマージェンシーブランケットを頭から被っていた。ポリエステルのシートに蒸着されたアルミが、強電磁波を防いでいるため、これがなければ電子レンジ内の食品と同じ状況に
不意にシャンパンのコルクを抜いたような音が届く。そしてしばらく後、駐車場に炎が生まれる。戦闘開始直前、《魔法》で作った車止めに囲まれた、《
コゼットが日中、校舎の屋上各所に用意した数十の仕掛け――様々な学校備品を利用した
砲弾として装填したのは、邪魔になる部品を取り外した消火器だった。ただし底部には瞬間接着剤で、燃料タンク代わり固定している。
そして容器とペットボトルには、校用車など、校内にあった車から抜いたガソリンを入れた。
更には発射システムも作っているため、無人のままに発射できる。
屋上に固定した、金属箔で覆ったパラボラアンテナや、小間を薄い金属に変えた傘からコードを伸ばしている。それで《
常温にあったため、ペットボトル内でガソリンは気化する。そこへニクロム線が容器を溶かして侵入すれば、その熱が、あるいは《マナ》の放電が火種となり、爆発を起こして消火器を飛ばす。
放出されるのがランダムなエネルギーなため、ズレが生じ、一斉発射は無理があった。しかし原始的な仕組みは、電子機器が破壊される《
(さすがにあの相手じゃ、直撃させても効き目薄そうですわね……)
そうこうしている間に、二度三度と迫撃砲が発射され、撒かれた燃料に《マナ》の放電で着火され、駐車場を夜から浮き上がる。
その中で《
発射したのは、言ってしまえばただの火炎瓶でしかない。長時間炎に
もっとも、効かないのは織り込み済みだが。
戦車や装甲車に比べれば劣るとしても、装甲を持つ戦闘車両である《
迫撃砲による攻撃は、牽制や目くらまし。《ズメイ・ゴリニチ》を破損できれば儲けもの。
本命の攻撃は、これから。コゼットはそのための準備をする。
屋上に置いていた長いパイプに、ボーリング玉と大差ない鉄球を入れ、別の金属の塊を入れて、また鉄球と、交互に別のものを入れていく。
キャスター付きの台車に乗せ、片方の端にはいつもの消火器改造簡易ロケットを突っ込む。
元々は実験装置だがインテリアとしても置かれる、『ニュートンのゆりかご』というオブジェがある。静止した状態では接するように、複数の金属球を紐で吊した物体を、きっと誰もがなにかしらで見たことがあるだろう。
端の球を動かせば、金属球の列に衝突し、ほぼ同じ勢いで列先頭の球が動き、全体で振り子のように周期運動を行う。一見奇妙な動きに見えるが、ニュートン力学の三法則に
しかし金属球列の間に強力な磁石を挟むと、これが変化する。もちろん物理法則に
これをガウス加速器という。
大砲の代役にできるほどの破壊力は発揮しない。しかし消火器ロケットを撃鉄にし、物を飛ばす程度ならば利用できる。
そして抱えて持ってきた、金属シートを剥いだ砲弾を、パイプの先端から慎重に装填する。消火器の金属容器が電磁波を弾くとわかっていても、こればかりは厳重な封印を
コゼットが用意したのは、燃焼加速剤と火薬を詰めた、簡易的な榴弾なのだから。
学校の理科室でも、硝酸や硫酸といった劇物や危険物がある。大学部の専門学科を持つ修交館学院の場合ならば、総ざらいすれば相応の量がある。《魔法》があるなら化合物から分解して精製することだってできる。
ちゃんとした信管は用意していないが、一応は起爆は問題ない。黒色火薬で作った導火線を、容器に穴を空けて内部にまで通している。
「さぁて――」
昼間はまだ監視があったので、試射は行っていない。《
向ける方向は当然、校門近くの《ズメイ・ゴリニチ》へ。台車の車輪に板を挟んで、分度器と糸に垂らした重りで角度を確認して微調整する。
そして伸ばした導火線のアルミホイルの封印を解くと、《マナ》の静電気によって自然着火した。
「頼みますわよ!」
彼女は
しかし今だけは都合よく、神という名の不確定要素に祈り、コゼットは消火器の
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