090_0710 招かざる来訪者は二日目来たるⅣ ~昇龍拳が出ない~
持ち株がかなり変わるデイトレードがひと段落し、口半開きのホゲ~っとした顔で宙を見つめていた野依崎は、突如我に返ったように、ネコみたいに拳で目をグシグシこする。
(『敵』も仕掛ける気マンマンでありますね……)
樹里が送ってきたデータを検証した結果、わかったことは大きくふたつ。
支援部と日本に集まる軍事組織が衝突するのは確定事項と世界は見ていること。
そして世界情勢をいち早く手に入れる上層の人々は、支援部が敗北すると見ていること。
データは主に株価変動だった。野依崎も今日ずっとやっていたことだが、それを全世界レベルのマクロ視点で見た内容だった。
ありていに言えば、株とはギャンブルだ。株価が上がる勝ち馬を予想して賭け、売り時を見極めて差額で儲ける。
ただ予想するための情報が曖昧で広範囲だ。ウマや選手の調子が上向き下向きで判断するレベルではない。
新商品が発表されたから会社の株価が上がる、紛争が起こればその地域企業の株価が下がる、なんてのはわかりやすい。中には『風が吹けば桶屋が儲かる』的に、全く関係ないとしか思えない売買もある。投資家たちがなにを想像して妄想して憶測して疑念したか、その結果が出るまで傍目にはわからない。
その『傍目にはわからない』部分を、野依崎が推測した結果がそれだ。
世界全体で見ると、防衛関連株や海運銘柄が買われ、日本に主工場を持つ企業の株が売られている。
日本で軍事的衝突が起こるという目論見は、野依崎も同じで売買に反映したが、内容がかなり違う。
(防衛産業銘柄が買われているだけでなく、XEANEの関連株が入っていて、GVが売られているということは、やはりそちらに近しい人間が多く、そちらが勝つという読みでありますか……)
曖昧な部分もあるが、《魔法》に関連するとすれば、素材メーカーや電子部品メーカー辺りだろう。ならば既存の軍事産業が伸びるということは、小数の《
しかも《
(しかも、支援部は超大穴扱いでありますね……)
ただ負けると予想されているだけでない。データを
現実に支援部と日本に集結している多国籍の軍事組織とで衝突する時、《
だからこそ、ヴィゴ・ラクルスは、支援部にこのデータを渡したのだろう。
(……ま。自分たちの行動は、変わらないでありますかね)
簡易的なレポートを脳内で作り上げ、データリンクで部員たちと共有したものの、それ以上はない。リンクを接続していない十路には誰か伝えるよう頼んだが、彼が知っても方針に変化はないだろう。
そして野依崎は気まぐれに、コンピュータールーム内を見渡す。
客の入りはまずまずといったところ。企画展示は模擬店と比べたら退屈で人が集まりにくいが、初等部五年一組の
3Dゲームなど、時間短縮のため生体コンピュータフル活用だったので、実物をそのまま3Dデータ化したグラフィックなど無駄にすごい仕上がりになってしまった。人間とは不思議なもので、リアルすぎるコンピュータグラフィックは、逆にウソっぽく感じるので調整が必要なのだが、それも面倒くさい。
なので落ち物・積み物パズルなどありふれた定番ゲームに、五年一組の児童作のグラフィックを被せたものも複数作り、誤魔化すことにした。
そんな感じで野依崎的にはテキトーな作品なのだが、来客は『今どきの小学生はこんなことも勉強するんだー』とスルー&受け入れられている。
デバッグにやや不安は残るが、再現性がなくて原因究明できないバグ以外は潰したので、トラブルらしいトラブルは起きていない。だから野依崎も別のことをしていられる。
ゲームは
しかし彼女が座る教員用デスクの前に誰かが立ったので、そちらに意識を向けざるをえない。
「《
少年が野依崎を見下ろしていた。と言っても野依崎よりも年
ただでさえ痩せているのに、不健康そうな白い肌とニキビ顔で、薄暗いプロジェクターの光の中では、より不健康そうに見える。手にしたチョコバナナやチュロスを全部食べられるのかと思ってしまう。
嵐の海で見た姿とは違って、寒くなっても半袖半パンという『こういう小学生ってどこの学校でもひとりくらいいるよね』と言いたくなる格好だった。いや、年齢は小学生相当なのだが。
《
「今日は
「さすが今日は」
多少の警戒はありつつも、野依崎に驚きはない。《
《
「で? なにしに来たでありますか?」
少なくとも《
「勝負しようよ。ゲームででも」
「お前、ブレないでありますね」
彼女たちが製造された
「ゲームって……ロシアンルーレットか
「《
なぜか呆れられた。野依崎は素で理解できない。《
ちなみに
「まさか、お前と仲良く普通にゲームを?」
「ここで他になにやるのさ?」
「なにか賭けるのでありますか?」
「いや、なにも?」
『ゲームセンター』と銘打っているのだから、《
「前に
「といっても、あの時はお前当人ではなかったでありますが」
以前、十路と野依崎が街に出たら、
あの時は直接的でなければ、生体コンピューターの演算能力も《魔法》もオープンだったので、ゲームセンターを荒らしたとも言う。
「別に《魔法》を封印して相手してやってもいいでありますが……」
野依崎はゲーマーではない。プログラマーとしてゲーム制作に
なので勝とうが負けようがどうでもいい。危険性は低くとも《
「なにで対戦を? まさかコレでありますか?」
スクリーンに映し出される対戦を下から指差すと、《
ちょうどジェットパックを背負いビームサーベルを発生させた
「……てか、コレなんだよ」
「クラスの児童出演の自作ゲームであります」
「いや、なんのために?」
「学院祭の展示物……あー? Research presentation(研究発表会)のデモゲームとでも言ったほうが理解できるでありますか?」
英語が示すスクール・フェスティバル、カルチャー・フェスティバルと、日本語が示す学園祭・文化祭は、行事の趣旨が異なる。加味して説明すると、通学経験がないはずの《
「《
「まぁ、これで対戦するなら、裏ボス『シズク・ノイザキ』の出番でありましたね」
「自分は強キャラかよ……」
「現実に即した調整をしただけであります」
武装した常人VS史上最強の生体万能戦略兵器。確かに現実に即したらそれくらいの戦力差になるだろう。ゲームなので、ギリ倒せる程度の調整をしていれば、むしろ弱体化してるとも言える。
それはさておき。
「なら、eスポーツタイトルでありますかね……安物PCだと動作が不安でありますが」
「
野依崎は教員用席から立ち上がり、学生用PCに移り、オンライン対戦ありのフル3Dゲームのウィンドウを消去し、PCゲームのダウンロード販売サイトに接続して、止まる。
eスポーツには複数のジャンルがあることに思い至り、どうしたものかと考えた野依崎は、筆記用具とルーズリーフを取り出す。
「最初はクジ引きで決めたジャンルでプレイ。後は負けたほうがジャンルを指定。ゲームは
「クジって、アナログだな……その程度ならスクリプト組んでもすぐ済むだろ」
「後でズルだなんだと文句言われたくないでありますから、あえてのアナログであります」
ルーズリーフを千切って『Shooter』『OCG』『Sports』などと書きこみながら、野依崎がルール設定すると、《
否、思い出したように、ひとつだけルールを付け加えた。
「
「賛成であります」
以前ゲームセンターで対戦し、ふたりともレバガチャボタンバンバンしかできず、コマンド入力も読み合いもろくにできないのが判明したので。
「お前。クジ引くであります」
ちょうど近くを通りかかったクラスメイトにクジを引かせることで、記憶しても無意味にし、完全ランダムで最初の対決ジャンルが決定される。
「スポーツ……ジャンルだからそうなるけど、広いだろ?」
「レースゲームも含まれるでありますが、最新のWCG採用タイトルだと、サッカーゲームでありますね」
怠惰な野良猫は怠惰な風情のまま、ゲームデータの購入手続きを行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます