080_0920 月曜どうでしょうⅢ~開戦話~


 さすがに教室でできる話ではないため、十路とおじは一度電話を切って支援部部室に移動した。

 盗聴を警戒するには、学院内ではここが一番になる。休憩時間も残り少ないが、午後の授業はサボってもいい。こっちの用件が遙かに重大だ。


「で? オッサン。いつどこだ?」

『可愛げのねェクソガキだなァ……』


 折り返しのわずかワンコールで電話に出たリヒト・ゲイブルズの不機嫌声に、十路は気にせずいつものように応じた。


「アンタ俺の可愛かわいげ見たいのか? 木次いもうとの真似でもして甘えてやろうか?」

『よし。今すぐブチ殺されるのがお望みみてェだなテメェ』


 殺意そのものは本気に違いあるまいが、行動予定は本気ではないと、リヒトはすぐに調子を戻した。


『今夜ウチのガレージに来い。その後淡路島でやる』

「よくまぁ、そんな戦場スタジアム貸切にできたもんだ。《ヘミテオスアンタら》の影響力ってのは、ほんとデカいんだな……このこと、誰が知ってる?」

『島に立ち入る名目上は実験ッつーことになッてらァ。表向きの話はどうしても必要だから、そこそこの人間が知るだろォ。だが真相は……小僧の知ってる範囲だと、せいぜいユーアとツバメくらいか」

「理事長もかよ……そんな態度全然出してなかったけど」


 軽口を叩きながら、新たに与えられた情報を加えて予定を頭の中で組み立てて……大問題に気づいた。


「邪魔が入るかもな……」

『ア? 誰がだ?』


 『アンタの義妹いもうとに決まってるだろ』と言いたいが、この重症患者シスコンに説明したら面倒くさいことになる。特に今朝の出来事とか。

 更にリヒトは支援部に詳しくはない。となる野依崎以外は、データ上・書面上でしか部員を知らないはず。

 他はどう行動するか十路にも読めないが、南十星が知れば確実に介入してくるなど、わかりはしない。


 今回は十路個人の問題だ。これまでの部活では単独対処を考えた末になぁなぁで他部員たちも参戦してきたが、徹頭徹尾、十路ひとりで対処しなければならない。


「いや。それはこっちでなんとかする。とにかく九時までにはガレージに行く」


 了承を端的に伝えて電話を切り、十路は首筋をなでながら、頭の中で対策を組み立てる。


(なんとか今夜一晩マンションに閉じ込めておけば大丈夫だと思うんだが……なとせのヤツ、こういう時には悪い意味で期待どおりだからな……しかも他の連中にも、違和感持たれたら絶対バレる)


 超能力じみた勘を発揮する南十星に加え、元諜報員ナージャハッカーのいざき相手に、情報を守れる自信はない。違う目線の対策が必要になる。


(それに、問題は木次か……)


 義兄リヒトり合うと知れば、彼女は止めに入るに違いない。

 それはダメだ。今回の交戦は避けてはならない、一種のケジメだ。結果がどうなろうと。


(いや……『部活』にすれば、もしもバレても邪魔されずに済む? 荒療治になるけど、パラメータ低下も……ガチだとそれはそれでヤバいんだが……)


 偶然に頼った穴だらけ不安だらけの急造作戦だが、これまでの戦闘ぶかつでは常にやってること。最悪でも今より悪化しないと踏んで、決行を決意した。

 つばめとの口裏合わせが必須だが、授業をサボって理事長室に押しかければいい。それより昼休憩時間が終わる前に結に電話をかける。普通なら後輩の友人に繋がりはないだろうが、樹里の家出騒動の際に連絡先を交換している。


『さっきぶりです。どしました?』

「さっきの続きだ。木次が近くにいるか? いるなら聞かれない場所まで移動してほしい」

『大丈夫ですけど』


 どれだけ離れているのか知らないが、樹里の鋭敏聴覚を考えると不安がある。だが《ヘミテオス》を知らない結に説明するのは難しく、話に聞く今日の彼女なら大丈夫かと本題を切り出す。


「木次のポンコツなんとかしろって話、やっぱ俺には無理だ」

『え、ちょ』

「だからさわたちに頼みたい。いつものメンバーで木次の家に押しかけて、今晩パジャマパーティーでもやって、愚痴聞いてやってくれないか?」

『あの、明日普通に学校なんですけど……』

支援部おれたちのマンション、学校の真下だぞ。夜通し騒いで少々寝坊しても間に合う」

『先輩たちのマンションって、セキュリティ厳しくて、部外者入れないって話じゃ……?』

理事長せきにんしゃに話通して問題ないようにする」

『だからって、いきなり言われても……』

「必要経費は全部俺持ち。ひとり頭一万円」

『ゴチになります!』


 ほんは早かった。やはり普通の女子高生なら破格であろう、現ナマの魔力は強い。


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