070_1730 5th showdownⅣ ~漢ノ浪漫~
ブエルとは、
ライオンの頭部からヤギの脚を放射状に五本生やし、回転しながら移動するという、人外の悪魔であることを考慮しても破格のインパクトを持つ。
持つ能力は、見た目からは絶対に想像できない。
なんと癒し。薬草に精通し、触れるだけであらゆる傷病を治す。あの魔術師アレイスター・クロウリーも、友人の病を治すために、この悪魔を召喚したと伝えられる。
「いくらなんでも非常識すぎね?」
真価を発揮した同名の『
単純に一番近い形状は水車だが、モノホイールと思うべきだろうか。SFよりもスチームパンク世界のフィクションで見かける、巨大な車輪の中に搭乗する一輪オートバイだ。
搭乗しているのは、手と足と唇だ。そうとしか説明できない。顔や体もあるのかもしれないが、極端にデフォルメされていて確認できない。しかも手足はそれぞれ一本ずつ。
糸車と、糸紡ぎを繰り返すことで異形となってしまった三人女の特徴を合体させた形なのだろう。
ちょっとした観覧車が事故で脱輪(?)し、追われているような気分だ。結構な急斜面も登るのだから、それ以上か。
しかも森の中で。体当たりだけなら対処は簡単だが、枝が張り出した倒木に巻き込まれかけるので、ギリギリで回避して反撃する余裕はない。
「うおっと?」
急に開けた場所に出た。なだらかな斜面に、和墓だけでなく神戸らしい洋風墓も混じり、何基も並んでいる。
広大な墓地――市営長尾山霊園だった。
ここなら倒木に巻き込まれる心配はないが、戦場にするのは気が引ける。かといって他を探す余裕はない。
「生きてる人間のためなんで、バチ当たりはカンベンしてつかーさい!」
あまり真剣には聞こえないが、合掌して死者への敬意と謝意を示した南十星は、墓地の中で待ち受ける。
するとほとんど間を置くことなく、斜面を乗り越えた『
「んげ」
己に向けて落下しようとしているだけではない。真正面からまともに見て、初めて気付いた。
移動に使っている車輪には、放射状に砲口が並んでいた。車輪の
「ぶっ!?」
砲弾が撃ち下ろされる。熱力学推進で南十星は直撃を避けたが、吹き飛ばされた墓石が襲い来る。御影石に刻まれた『家ノ墓』を視界いっぱいに捉えたと同時に首の骨が折れた。
『どうする!? どうする!?』
「ロケットパンチ・気弾・自爆の、
着地した『
髪を掴んで頭の位置を直し、骨折を修復させた南十星は、ステップしてその進路から外れる。
その程度では、『
「だったら男のロマンで勝ちゃいーじゃん」
小柄な体を覆う《
『ギャアアアアアァァァァッッ!!』
直後に南十星を掴もうとした巨大な手は血煙と化す。『
頭から返り血を浴びたが、南十星は表情を変えずに手を突き出す。推進力を吐き出して、すれ違った『
巨大な車輪のすぐ脇を駆けて、跳ぶ。横に移動しながら単純な回し蹴りを放つ。
ただし距離を
光輪を叩きつけると、
自転車で快調に走っている最中、パンクした上にホイールが曲がったら、どうなるだろう。
二輪の上に人間が足を突けば、転倒は
巨大な車輪は横倒しになり、墓石をなぎ倒しながら地面を滑った。
『ちっ……しょ』
すぐさま『
まともに取り合う気などない南十星は、推進力と併せて高々と跳んで、射線から逃れた。
最高到達点で意味なくムーンサルトを決める。そして腰元までスリットが入るジャンパースカートを割って、足を突き出す。
「男のロマンは数あれど、つまるところたった三つ!」
彼女が先ほどから行っているのは、学院を襲撃された時に樹里が見せた、《雷獣烈爪》の小規模再現だ。繰り出した蹴り足に巻きつくように形成した、二重
それでも戦術兵器としては破格で、現状打破には充分だ。
「
ここで決める。立ち直る
「
二重螺旋内部で金属粒子が周回する高周波音、《
「
半端に起きあがろうとしていた『
破壊の渦は構わず削った。車輪も
霊園を無残に掘り返して《魔法》の効果が消滅したと同時に、真っ二つに削り割られた巨大な車輪の半分が、地面に落下して地響きを立てた。
「ぶへっ! ぺっ、ぺっ! いくら墓場だからって、生き埋めはカンベン……」
勢い余って地面に突っ込んだ南十星は、這い出てネコのように首を振って土を落とす。
『
ひと心地つくと、
「まだ生きてる?」
大きな断片が崩壊した小さな断片のひとつが、生身の『
ただし四肢は半ばから朽ち、腹部には大穴が空いている。再生するどころか、体を維持するほどのエネルギーも残っていないのか。南十星を力なく見上げ、わずかに表情を変える以外のリアクションはない。
「んで、まだ
浮かべた表情は、憎悪。まだ『
ならば。
ギリギリとはいえ《比翼》《連理》のバッテリーはまだ残っている。《躯砲》はまだ維持している。そして南側を陣取っている。
《塔》から外部電力供給が行われたとしても、マイクロ波ビームを
南十星は熱力学推進プロトコルを起動させ、右腕の《
自分の手も破壊されるのを構わずに、砲撃と化した拳撃を叩きつけて『
「なに? 邪魔する気?」
だが、拳を振り上げて止まる。止めざるを得ない。
『
人の身を上回る体高と、千の獣の特徴を持つ巨獣だった。
本当にそれほど数えるわけではないが、毛皮の色や柄が部分部分で異なり、しかも哺乳類なのに鎧のような外骨格を身にまとい、更に一本一本が異なる尻尾を複数生やしている。
ただ一点、場違いに赤い
南十星も以前、遠目には見たことがある。
《
『彼女』の、『麻美』の
幾多の角と爬虫類の金瞳、尻尾の一本となっている無目の大蛇を向ける巨体が、小さく雷光を
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