070_0910 3rd strifeⅦ ~一陽来復~
(さすがに私が『雷使い』だって知ってるか……)
戦闘機型 《
無闇な放電なら光速で直撃させられるが、航空機には落雷対策が標準装備されているから、少々のことではダメージにならない。ならば指向性エネルギー攻撃を行うしかないが、《
樹里は《
起き上がりもせず電磁加速を発動させ、金属製の長杖に引っ張られて、ありえない姿勢のままその場を離れる。
上空で反転する異形の戦闘機は、失速して急旋回し、トップアタックを仕掛けてくる。樹里が倒れていた空間に、《魔法》が付与された機関砲弾が打ち込まれ、爆撃されたように盛大に土を掘り返した。
(
斜面を駆けながら確かめると、違う人物が目についた。
「
樹里が山中ですれ違った時にはギリースーツを身につけていたが、今はそれを脱いでいる。ボロ布で隠した小銃を背負う、片腕にギプスをついたままの、ラフな格好をした
「せんぱ――」
樹里の言葉が完成するよりも前に、茂みから飛び出した人影が高速接近する。常人のものではない、《魔法》の身体能力全開の速度だ。
「小僧ォォォォッッ!」
鉈を振りかざすリヒトだった。
「ちょ――」
『十路』が慌てて示現流も真っ青な
(あぁ、うん……まぁいいや)
潜伏中、強襲していたリヒトを引き離す際、ついでに十路の骨折も治療した。
そして彼がそれに気付かないはずはない。鋭いようで鈍いが、こと戦闘に関しては、クセの強い支援部員たちが全幅の信頼を寄せているのだ。そこそこの時間が過ぎているのに、十全の力が振るえるか、セルフチェックできていないとは思えない。
なのに十路がギプスをつけた姿で現れたのだから、化けた『羽須美』に違いないと判断した。
樹里はそういったことを反射的に口走ろうとしたが、それよりも前にリヒトが相手し始めてしまった。油断を誘おうとしたのかもしれないが、彼には意味がない。
数時間前に十路の腕を治療した事実はまだしも、義妹に近しい男に殺意をぶつける
「ア゛ァン!? テメェ
「気付いてなかったの!?」
「やることは変わらねェ!
学校敷地内で、それも複数個所で戦闘が起こっているの見て取れる。コゼットなど上空で別の戦闘機から逃げ回っているのが直に見える。
どうやら部員たちは全員戦闘を行い、苦戦しているらしいことが、断片的に飛び交う無線で判断できる。
上空を通過する戦闘機の裏側を、梢の間から見上げる。いたぶるつもりなのか、人間相手にはそのほうが都合いいのか。機関砲が使われているので、ハードポイントの爆装はいまだ健在だ。
こういう時に頼りなる十路はいない。山に潜んでいるなら、この交戦状態を知らないはずはないのに、無線も彼からのものは一切ない。
なにを考えているのか知らないが、彼は部員たちのピンチを静観しているのか。
当てにできないのならば、自分がやるしかない。
『――傾聴!』
樹里は支援部が使っている周波数帯無線を放つ。普段は控えめな彼女が、しかも家出して幽霊部員化している現在、絶対に行わないような強い調子だ。
『私に周辺情報を送ってください――!』
自分でしてみて、十路は常にこんな決断をしていたのかと驚き、ゾッとする。
たった一言が、他人の命運を握ってしまう。しかも導き出されるその結果は、最適解以外は許されない。
現場で事態に目の当たりにする実働員は、指示を出す指令役を
軍隊のような規律などなく、明確な上下関係のない、他の部員たちが従ってくれるかどうかすら、不安になる必要もない。
『二発! それでなんとかしてください!』
△▼△▼△▼△▼
(気楽に無茶言ってくれやがりますわねぇ!?)
『羽須美』を背に乗せた戦闘機に追われ、装飾杖に掴まって飛ぶコゼットは、舌打ちする。
日頃そういった無茶というか理不尽を言うのは、彼女だというのは棚に上げて。
△▼△▼△▼△▼
(具体的に言わないの――
無効化されるから《魔法》を使わず格闘戦に持ち込めば、『羽須美』は《魔法》を使ってくる。
ナージャが《魔法》を使って強行すれば、彼女は《魔法》を無効化して格闘戦を仕掛けてくる。
物理的にも精神的にも削られる一方の展開に、ナージャも危機感を通り越した嫌気を抱いていたので、転換が望めるなら臨むべくもない。
△▼△▼△▼△▼
「ふんっ……」
血みどろの南十星は、小さく鼻を鳴らしただけ。
△▼△▼△▼△▼
「ぐっ……」
壊れかけた野依崎は、『遅い』と言わんばかりに、小さく呻いただけ。
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