070_0900 3rd strifeⅥ ~風前之灯~
上はしっちゃかめっちゃか。
下もしっちゃかめっちゃか。
これなーんだ?
――答えはただの混乱。
△▼△▼△▼△▼
煙突効果 (仮称)で吹き飛ばされた際、壁や一緒に舞い上がったものに衝突したのは、コゼットも覚悟の上だった。そのまま交戦すれば被害が予想できない、学生たちが大量にいる屋内から戦場を移すためには、必要なダメージだ。
だが、その後が予想外すぎる。
(ヤベェ……! つーか――)
コゼットは
(なんで
よって戦闘機との空中戦は、分が悪い。
航空力学を無視した形の《
共に空へ打ち上げられた『羽須美』は、その背に立っていた。常人には絶対に不可能だが、風圧を防御して平然としている。
飛行中には無理なのかもしれないが、戦闘機のコクピットが空なのに、彼女は収まらず外に出ている。
またもコゼットの体に火器管制レーダーをまともに受けた。
彼女は装飾杖を一層の力を込めて握り、
外れた連射は六甲山系の山々に吸い込まれる。紅葉が始まりはじめた木が超低温で樹氷と化した。
(ハーグ陸戦条約無視すんじゃねぇ!? 生身相手にそれは違反だろぉがぁ!?)
三〇ミリ機関砲弾の直撃に耐えられる人間など存在しないし、弾体が速すぎ大きすぎるから
もっとも《
戦闘機の機動力は、『人間』というデリケートな部品を搭載していない無人の戦闘機とは比較にならない。『羽須美』が操っているのだろうから、振り落とされることも期待できない。
生半可な攻撃手段では、合金の塊を破壊できない。高出力の《魔法》で叩き潰すにしても、市街地上空でやると一般人の犠牲が出かねない。なんとか人家のない北部六甲山地に誘い込みたいが、『羽須美』も理解した機動を行う。
(だぁぁぁぁっ! もっと勉強しとくんだった! どうすりゃいいのか全然わかんねーですわ!)
軍事に関してはもっと詳しい部員がいるから、技術的なこと以外、完全に任せきりだった。
荒事でも後衛を担当するコゼットでは、高機動空中戦を続けるだけでダメージを受ける。高Gを受けるたびに全身が悲鳴を上げ、
逃げ続けるのが精一杯の
△▼△▼△▼△▼
コゼットはまだ、善戦しているほうだった。少なくともナージャに比べれば。
「中に避難してください! ガラスのない場所で身を屈めて伏せて!」
昼休憩の構内で突如始まった超人たちの戦闘に、学生たちは悲鳴を上げて逃げ
そして間合いを詰める『羽須美』に、切断能力を持たせていない《
しかし打ち据えることはできない。体に届く前に、彼女がまとう残滓のような《魔法》の光に触れると、漆黒の剣身が消え失せた。
空振りに終わりに、空中で無防備になったところに、『羽須美』の蹴りが炸裂した。《
何度も苦痛に
(《
行われているのは、特定空間内の《マナ》の占有だ。
《魔法》を実行させる《マナ》が、『羽須美』によって乗っ取られるから、ナージャの《魔法》が発動しない。
《魔法》による、《魔法》を阻む複合
だから『羽須美』は《魔法》らしい《魔法》を使っていない。体内での力学制御はまだしも、外部出力を必須とする高出力
(相性最悪です……!)
《魔法》で作り上げた効果を発射する遠距離攻撃ならば、無力化されないが、ナージャの《魔法》は白兵戦に特化されている。『羽須美』が発揮する《魔法》無効化範囲外からの攻撃手段は乏しい。
「ナトセさん!?」
同様に、ナージャが飛び込んだのとは反対側の窓を突き破り、講堂に突入してきた彼女も、苦戦していた。
△▼△▼△▼△▼
「ちっくしょ……!」
とはいえ今回は、様相も勝手もかなり違う。
「ジェットブラスト!」
背にしたナージャの求めに応じ、全身の熱力学ジェットエンジンを駆動させる。ちょうど講堂に窓から飛び込んできた、彼女が相手している『羽須美』に、暴風を浴びせて吹っ飛ばす。
同時に南十星は再び屋外に飛び出し、相手している別の『羽須美』に肉薄する。
行われているのは
距離を
銃弾を見切れる《
またも捉えられ、今度は校舎の壁に挟まれて、南十星の下半身は潰れた。
とはいえその程度では、彼女は死なない。すかさず巨腕に触れて高圧電流を流す。生体組織が焼かれる嫌な匂いが周囲に満ちたと同時、『羽須美』は己の腕を切り捨てた。 一気に死んで乾燥した細胞が、煙幕の周囲を一時隠すが、なにか起こるわけでもない。やがて晴れると、袖を失った学生服姿の『羽須美』が、余裕の薄ら笑いを向けてくる。
(ただでさえ避けられないのに――)
力学的ベクトル観測と部分的微速度撮影で、『羽須美』の拳撃は見切っているはず。いくら巨大な質量攻撃とはいえ、ダンプカーの突進だと思えば、南十星の機動力と度胸なら、避けられないものではない。
なのになぜか避けられない。避けたと思っても捉えられる。
加えて『羽須美』は、人外の大きさに育った両手には、無関係の学生たちをひとりづつ掴んでいる。《
(避けられない……!)
悲鳴を上げる学生たちが、またも南十星に向けて投げつけられる。『羽須美』が時折こうやって、無関係な学生たちを捕まえ道具にして、動きを制限してくる。
どこまで飛ばされ、どうなるかわかなない学生たちの腕を空中で掴み、ベクトルを殺して、南十星は手を離す。
建物二階ほどの高さから落とされたので、また新たな悲鳴が上がったが、南十星は構っていられない。その時には『羽須美』の巨腕が襲い来る。トンファーを構えて防御したとはいえ、外装が曲がるほどの衝撃に、成すすべなく殴り飛ばされる。
(ヤっベ……ジリ貧)
《ヘミテオス》の体は、生物の常識を超えた異常細胞増殖能力を持ち、更にそれを可能にするエネルギーを外部から無線供給できる。
人間の常識を超えていない肉体を、《魔法》でなんとかやりくりしている南十星とは、人外加減のレベルが違う。
《
それでも彼女は冷静さを努めて保つ。もしなにか転機が来れば、焦りで曇った戦術眼では見逃してしまうから。
巨大化した足が迫り来たので、それを足場に南十星は大きく飛び下がる。
「っと?」
そこへ、小柄な南十星よりもひと回り小さな体が飛んできたので、慌てて空中でキャッチする。
顔の穴という穴から血を流す野依崎だった。
△▼△▼△▼△▼
鼓膜を破壊されて耳は聞こえずとも、脳内センサーで音波を感知できる。
「あたしの経験上、
「なんの参考にもならない話、サンクスであります……!」
南十星にそんな意図があったか知らないが、非常時でも普段と大差ないアホの子言動に、野依崎は多少なりとも心を落ち着けて、血涙と鼻血を手で乱暴に拭う。
至近距離での大音響は、爆発の衝撃波と大差ない。軽減はできても無力化はできず、体内にダメージを受けた。呼吸をするだけで胸の奥が痛むことから、とても放置できる負傷ではない。
しかし今は。
野依崎は肉体を動かすのではなく、機能接続した
ちなみに肉体同様、《ハベトロット》も破損している。装甲が脱落し、人工筋肉の出力が上がらない。《
先ほど吹き飛ばされて強制的に離脱させられた、校舎の狭間に再び下降する。
そこで『羽須美』は無防備に立っている。
野依崎もまた一見無造作に急降下すると、『羽須美』が立つ周囲の地面が《魔法》の光を帯びてさざなみ立つと、迎撃のために伸び上がる。
(
野依崎の直接的な戦闘能力は、実はさほど高くない。彼女の持ち味は、観測から得た情報を基にした正確な予測と、
だからコゼットのような《
上下から襲いかかる土の津波は、周辺を焦土化するような破壊力でもなければ、なんとかできる質量ではない
その隙に《ピクシィ》に襲いかからせようと、『羽須美』は反応する。地面や校舎の壁から人の腕が出でて、金属の妖精を捕らえて離さない。
巨獣の顎のように覆いかぶる土を小さな体で受け止めて、全身の人工筋肉で潰されるのを阻むと、今度は土の口内に《
かなり無謀な戦い方だと、野依崎自身理解している。
だが壁一枚挟んだ向こう側――初等部校舎廊下では、多数の児童たちがいる。昼休憩時間、突如として超至近距離で超人同士の戦闘が始まったのだ。その場を動けない児童が多数いる。
なので強引でも『羽須美』の注意を惹きつけておかないと、なにをしでかすかわからない。
(こんなの、自分のスタイルじゃないであります……!)
丸焼きを電力変換で防御しながら、野依崎は耐える。
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