050_1630 書き綴ろう、無価値にして無謀なる戦記をⅣ~天と地と~
夜空は暗いままなのだから、本当に昼間になったわけではない。光に照らされているのは公園とその周囲だけ。とはいえ屋外ならば破格の、野球場を上回るだろう光量だった。
それは《魔法》によるものではない。少なくとも直接的には使っていない。
上空三五〇キロで、舞台に参加していない支援部員が、『照明係』として動いた結果だった。
△▼△▼△▼△▼
Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun(太陽放射加速惑星間凧宇宙船)――略称
宇宙空間に浮遊する少女が展開したのは、それを改変した簡易模型だった。機構的なシステムはそのままだが、複雑な機器は搭載していない。代わりというわけではないが、
昨夜、宇宙に飛び立つ準備のために愛知へと向かう少女に、今作戦の段取りが伝えられた際、『せっかく宇宙まで行くんだから、そこから劇の演出できないか? こっちネタ切れ』というブレインストーミングというか投げ
少女自身にはアイディアはなかったが、義兄に相談すると、この超大型簡易照明が《魔法》で作られたため、合わせて宇宙空間まで持ち運ぶことになった。
人間と大差ない大きさに折りたたまれた人工衛星は、展開すれば建造物に匹敵する巨大な
だから衛星を鏡として宇宙空間に設置し、反射収束した太陽光をピンポイントに送り込むことができる。
「なっちゃん、このくらいで大丈夫?」
『――おっけー。もーちょい光をシューソクさせてもいいくらい』
「や、これ以上の微調整は無理かも……ってゆーか、虫メガネの実験みたいに火事が起こりそうで怖いんだけど……」
『――んじゃ、しゃーないか。あんがとー』
相手が地上では時間差が生まれる無線会話を終え、少女は銀色のマントを
照明係としての役割を終えた少女は、
(……さすがにここからじゃ見えないか)
日本列島の輪郭は照明により、闇に浮かび上がっている。だが明かりの集合体に紛れてしまって、部員たちが今なにをしているのか、宇宙から確認できはしない。仮に昼間でも観測できるか、怪しい距離ではあるが。
地上での不安を考えていると、少女の脳に無線音声が飛び込んできた。先ほどの鏡設置時にやり取りした指向性通信とは異なり、帯域全域にコールサインを呼び出し、会話の指示をする内容だった。
そのコールサインは、少女に割り当てられたものであるため、指示通りの方法で無線回線を確立させる。
「こちら修交館学院総合生活支援部です。どうぞ」
『あー、ジュリちゃん。日本上空にいるなら、ちょーっとお願いしたいんだけど』
聞こえてきたのは、部の最高責任者たる女性の声だった。
「つばめ先生……会話が終わったなら、ちゃんと『了解』か『どうぞ』をつけてもらえません? どうぞ」
『いつもみんなと無線会話するときつけてないでしょ!? どーぞー』
「や、部員同士だと、なんとなくタイミングわかるんですけど……それより用件はなんです? どうぞ」
電話のような同時通話ができない
『高知県の室戸岬沖五〇キロくらいの位置、宇宙から見える? 肉眼で探してたら時間かかると思うから、工夫してね。どうぞ』
言われるがままに、望遠したままの視界を向ける。漁船だろう、海上にも明かりが存在するが、他は黒いだけで異変は見えない。
可視光線以外の視界に切り替えると、言われた場所付近に異変を発見した。周囲に照明がなく、人間よりも段違いに大きい物体のため、見つけることができた。
「編隊を組んだ戦闘機……みたいなもの? を見つけました。どうぞ」
さすがに夜中に、ミリオタでもない普通の少女が、数百キロの距離を
『それ、そこから狙撃してくれない?
「はい?」
『空母から発進したアメリカ海軍の戦闘機なんだよ。キミたちの作戦を邪魔されたくないし、引っ込んでて欲しいんだけど、聞きはしないんだよ。日本の領海内じゃないし、自衛隊が手出しするわけにもいかないし』
「や、私が追い払うのも問題ありそうな気が……どうぞ」
『とにかく、お願い。こっちも切羽詰ってるから』
「ちょっと!? つばめ先生!」
本当に切羽詰っているのか、呼びかけても応答がなくなった。
「あぁ、もう……!」
事情はあまり理解していないが、こうなれば仕方ない。命中させなくていいのであれば、さほど気にしなくて済む。
責任者としての彼女の戦いは、既に始まっているのだから、手伝うより他ない。
少女は両手に構えた
「《
今日一日でどれほど小さな歴史を塗り替えるだろう。人類が生身で行うには最長となる、超遠距離狙撃を放った。
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夜空を見上げれば、
そんな最中に彼女は登場した。
『おやや。
『森が
青白いプラズマの
赤い髪と対を成す服装は、劇に合わせた変化はない。むしろ子供サイズのグローブとブーツを追加した完全装備をしている。ノズルとなっていた外部出力デバイスが格納された薄型ランドセルユニット、装甲を兼ねたパーツをつけた装束は、ファンタジー世界観に沿っているようで異形にも思える。
『お前が人間の王……のようだな』
妖精女王は魔術師女王に視線を向け、返事を期待していない呟きを漏らす。
いつも変わらない普段のローテンションぶりを考えると、とても演技派に見えないため、部員たちは彼女の演技に不安を抱いていた。さすがに普段のエセ軍人語尾でしゃべらないと、少女のものにしては低い声は、幼い見た目とは裏腹な、奇妙な貫禄を発揮する。
偽造戸籍による名前だろうと、パンフレットでそう紹介した。
そしてこれまで表立つことがなかった彼女が、初めて人の目に触れる場に立った。
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