唄うビブリオドール
霧ヶ原 悠
この世界とビブリオドールができたときのお話
蒼き命の始まりに世界は歌う
麗しの
漣がはるかな旅路へ誘い
夢の城は鍵無くその門を開くでしょう
荒野に一雫の彩りを
慈しむ祈りの声は遠く天球の彼方まで至り
あの日の場所へ、必ず届くでしょう
さあ、
理を
愛しき福音の奏
それが世界の鼓動であるように……
この世界とビブリオドールができたときのお話
昔々、ひとりの寂しがりやの神さまがいました。
神さまはとても寂しくて、自分の体をちょっとずつ削ってもうひとり神さまを創り、友だちになりました。
しばらくは二人で楽しく過ごしていました。それでも、神さまはやっぱりまだ寂しいと思いました。
すると、友だちの神さまが言いました。
「もっとたくさん色んな友達を創ろうよ。そしていっぱいおもちゃを創ろうよ。そしたらみんなで一緒に遊ぼう!」
神さまは友だちの神さまと一緒にたくさんの友達を創りました。
これがみなさんもご存知のプラシーヌやヴェネト、コッシヌなどです。
そしておもちゃで遊ぶための箱庭も創りました。それがこの世界なのです。
神さまはたくさんの友達とたくさんのおもちゃで、ずっとずっと遊んでいました。
ところがある日、神さまと友達が遊び疲れて眠っている間に、おもちゃたちは自分で動き出してしまいました。
木々は実をつけ、花は育ち芽吹き、人は子を産み、全てのおもちゃが数を増やしていきました。
神さまと友達は慌てました。なぜなら、おもちゃはなかなか壊れないように創っていたからです。これでは箱庭からすぐに
そこで神さまと友達は相談して、おもちゃにどれだけ長くても百年で壊れるという寿命をつけることにしました。
そして、もうこんなことが起こらないように、箱庭とおもちゃを管理するための
その
プラシーヌは大地の恵みを、ヴェネトは学問と知識を、コッシヌは勝利を司るなどというように。
決めることを全て決め、ようやく神さまと友達は落ち着きを取り戻しました。
今もそれぞれの役目をこなしつつ、のんびりと箱庭の中を眺めながら、お茶会でもしていることでしょう。
* * *
友だちの神さまが司るのは、おもちゃの出会いと別れ。すなわち、「縁を切り結ぶこと」でした。
ですが、時の流れに当然寄り添うそれを司るものがいるなど、誰が知るでしょうか。
おもちゃも、友達も、神さまも、世界中の全てが、友だちの神さまのことをだんだん忘れていきました。
友だちの神さまは寂しくても、ひっそりと佇んで、司る役目を果たしていました。
ある日、箱庭に吹いた風が、海の満ち引きが、山の噴火が、大地の揺れが、箱庭のほんの一部の土を削り取りました。
削り取られた土はゆっくりと元の大地を離れ、海をゆらゆらと漂い始めてしまいました。
そこには何種類ものおもちゃがいましたが、あまりにわずかであったため、神さまと友達は誰ひとり、その小さな小さな島に気がつきませんでした。
全てのおもちゃはなすすべもなく、壊れてしまいました。
大地の恵みを失い、神さまにも忘れられた島は、箱庭の隅で波に削られ消えるときを待つだけとなってしまいました。
ところがあるとき、神さまの爪の先の先の先ほどにまで小さくなってしまった島に、海を越えてひとりの死にかけた若者がたどり着きました。
ほんの偶然でした。虚ろな若者の目と、愛しさと悲しさがまざった友だちの神さまの目が合ったのは。
自分の視線の先にいるのは神なのだということに若者は気がつきました。それも、自分たちの知らない、忘れてしまった神なのだと。
若者は妙に枯れた声で詠いあげました。
慈愛の大母
汝、虚空に座す者よ
我が声を聴きませ
愛途絶え、光失くしたこの地に立つ我を憐れみませ
我、他に頼る者もなく
汝、他に行く場所もなし
母なる者よ
願わくは、我が眠りに安らぎを与えませ
死にゆく大地とともに逝く、我の孤独な魂を
正しき場所へと導きませ
友だちの神さまは、死んでもなお死にきれぬ若者の孤独と不安を知りました。
そして決めました。
自分はこれから、孤独と不安によって死と生の狭間を彷徨うこの若者のような魂を救おうと。
彼らを還るべき場所へ、神さまと友達が暮らすローゼノーラの地へ
ですが、それは自分に与えられた役目を越えた行為であり、もしかしたら箱庭のバランスを崩してしまうかもしれません。
そこで友だちの神さまは、自分の代わりに魂を
こうして生まれたのがビブリオドールなのです。
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