第6話 母
「光莉、良かったよ。目が覚めて。お母さんもう心配しちゃった。」光莉の母は泣いていた。
「お母さん、ごめんなさい。心配かけて。でも、もう大丈夫。ありがとう。」俺はそう言った。
「ねぇ、お母さん。私、思い出せない事があるの。私以外の家族の名前教えてくれない?」
俺は続けてそう質問した。家族の名前まで覚えてはいなかったのだ。いくら、かつて仲の良かった女友達のお母さんとはいえ、まだ幼かったので把握しきれていなかった。
「光莉、記憶が無いの?」
「ごめん。でも名前だけ思い出せなくて、他の記憶はあるんだけど。」
「じゃあ、言うよ。お母さんの名前は、真理絵で、お父さんの名前が敏吾。そして兄の名前が、裕樹。」
「ありがとう。お母さん。お兄ちゃんとお父さんは何処に居るの?」
「お父さんは仕事に行ってるよ。月影駐屯地の司令やってる。なかなか忙しいのよね。お兄ちゃんは何時ものように大学よ。」
医師がやってきた。
「お話中失礼します。どうも古辺です。月野さんとそのお母様、本当に運が良かったですね。この手の心停止は死亡率がとても高いので、奇跡が起こったと言ってよろしいでしょう。」
「ありがとうございました。古辺先生。」俺は、母が言う前に自分から感謝を述べた。
「月野さん。これからは無理しないで下さいね。退院おめでとうございます。」
「分かりました。先生、本当にありがとうございました。」
母がそう言った。
俺は退院することになった。
「お母さん。トイレ行ってきていい?」
「うん。行ってらっしゃい。」
海櫻女子高校の制服を着ている。
光莉、お前は何て頭の良い高校に通っているんだ。
偏差値65の進学校に通っているなんて羨ましい。
だけどさ、『偏差値48の俺が嘗ての恋人に転生して、偏差値65のお嬢様高校に通うことになって超ヤバイ』なんてラノベ的展開はやめてくれよ。授業分かるわけねぇじゃん。人生詰んだわ。
トイレに行こうとした。一瞬、青いマークに行こうとしちゃった。そして、未知なる赤マークの部屋に入った。
皆、個室なんだな。トイレでよく混んでるのを見ると本当に不自由な物だと思ってたけど、大丈夫かな?これから。
洋式のトイレに入って用を足した。聞き慣れない音だが、いつか慣れるんだろうな。
紙で拭くことは分かってたけど、どうやるんだろうか。
こればかりは誰にも聞けないな。
下手に拭くと傷つけるとエロい男子に聞いたことがある。
だから優しく拭いた。
下着を元に戻してタイツを履き、スカートを履いて、個室を出た。人が居なくなると自動で水を流してくれるシステムだ。
手を洗う為に、洗面所の鏡を見た。
こんなに可愛い顔になったんだ。光莉。俺はお前と付き合いたいよ。あぁ!今頃、自分の体は葬式になっているんだろうな。
「お前と青春したかった。」そう言って涙を流しそうになった。
多分、月島雄雅の八箕山自治区に居るはずだ。
もし、俺が生きているとしたら。そしたら、入れ替わりなんだろうか?それともこれが夢になるのか。
「光莉、大丈夫?」お母さんの声が聞こえる。急がなきゃ。
「お母さん。今行くよ。」
彼女は足早にトイレを後にした。
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