荒廃した新大陸
第77話 韓国版リリースと乗船チケット
※不定期更新ですが、新章始まります
10月の半ば、多少リリース日はずれたものの遂に日本以外の海外でファンタジーワールドが発売された。
その場所は隣国である韓国、聞けば韓国はVR先進国であり、eスポーツと呼ばれる幾つもの対戦型ゲームで競い合う種目に置いて優れた成績を収めるゲーム強国の一つだそうだ。
欧州もその対戦型ゲームに強いとされているが、向こうはVR関係の法整備が微々として進まないようで未だVRの普及は遅いとの事、その為かファンタジーワールドの海外進出の予定は中国とアメリカが先んじて発表されその次に東南アジアを中心とした国々、欧州は未だ未定との事だ。
そしてその韓国発売と同時期にバルバトを含めた第一大陸の食糧問題が解決したことによってバルバトの街の成長が遂に三段階目に突入した。
事前に街の成長関係の話を聞いていたシュタイナーやネネさんと言った上層部は、すでに交易所に出向いて明日出航予定のチケットを購入しているとの事
その動きがその他プレイヤー達に広まり我先にと新大陸への乗船チケットの争奪戦が始まっていた。
悲しい事にそれらを使った詐欺も幾つか見つかっているそうだ。
「ペガサス君はチケット取れた?」
「いえ、一応待機はしていたんですが一瞬で完売しました……この様子だと当分は無理そうですね」
バルバトの工業区の路地裏にあるクラン拠点でのんびりしているナミザさんは最近の話題に次いで話を始めた。
「僕も取れなかった!」
タイミングよく切り出した言葉の先には丁度ドアを開けて拠点に戻ってきた猫男爵くんが、その後ろには何やら大荷物を持つサラちゃんの姿も見えた。
「運営のお知らせには順次便を増やしていくそうですが、いつになるか分かりませんね」
よいしょと大きな荷物を置いたサラちゃんは額に浮かんだ汗を拭いながらそう言った。サラちゃんが言った通り、運営のお知らせには新大陸への便を順次増やすと書かれている。
少なくとも一週間後から再開される新大陸行きの乗船チケットは増えるそうなので今後に期待と言ったところだろう
「ただどうかなぁ、バルバトに到着したプレイヤーも多くなってきたし後ろには韓国の人たちも凄い勢いで攻略を進めているからねぇ」
ナミザさんが言う通り、第二陣でファンタジーワールドに参加したプレイヤーも次々とバルバトへと到達していた。その他にも日本版をプレイしていた韓国勢のプレイヤー達が攻略Wikiを書き込み、それを元手に凄い勢いで韓国勢による攻略が進んでいるそうだ。
面白いのがそれまでごっちゃになっていたサーバーや経済が明確に国別に分かれ、新規に追加された第15~20サーバーは完全に韓国人プレイヤーで占められていた。
とあるサイトの統計によるとそれららのサーバーの割合は韓国人が全体の8割を占め、独自の経済網を形成しているとの事
年末には未プレイの人を対象に第一大陸の黒龍イベントの復刻も告知されており、それに向けて一層力が入っている様子だった。
韓国でも期待されていたファンタジーワールドは大盛況でSNSは勿論韓国のストリーマーから芸能界まで幅広い層から支持されている。
ただ不思議なのがその韓国版ファンタジーワールドの運営元は日本運営と同じ開発元であるナイヴラボがやっているとの事、実際に韓国支部も開設しているようで、韓国のゲーム企業に代わってもらう事はせず一括で運営すると発表があった。
そして年明けには中国とアメリカのリリースも予定されている。詳細な日程は未だ不明ではあるもののこちらも大きな反響があった。
日本では各サーバーの強化がなされ最大収容人数が1サーバー辺り15万人まで拡張され、未だプレイできていない人たちも続々と参加している。
高価なVR機が不足する事態なので世間はこれまでにない仮想世界ブームと言った感じだ。周囲はおろかテレビは勿論時の政治家すら仮想世界について言及することが増え、目敏い若者向けの政治家たちはファンタジーワールドを始めたといったツイートが散見された。
「新田お前はチケット取れたか?」
「いえ……堀先輩はもう新大陸へ?」
「あたりめぇよ!何とか争奪戦に勝ち残って明後日の便で新大陸に行くぜ」
堀先輩はそう言うとジョッキに入ったレモンサワーを一気に飲み干しドン!と大きな音をたててテーブルに置く
おぉ、と言った様子で自分と同じ席についていた霧島先輩や田中先輩が歓声を上げる。
「すげぇな、俺と田中はやっとバルバトに着いたところなのに」
「お前はコマの割り振り下手くそで休み明け地獄だったじゃねぇか」
はははと乾いた笑い声と共に自分はまだ20歳を迎えていないので大人しく烏龍茶を一口飲む、霧島先輩はすでにバルバトへ到着しておりこの前一緒に周辺のクエストを攻略した。
ただ田中先輩は大学に缶詰め状態だったようで昨日やっとの思いでキルザ山脈のダンジョンを突破したそうだ。
大学のある市内の繁華街、その中にある居酒屋に備え付けられた天井からぶら下げ式のテレビには相変わらずファンタジーワールド関連のニュースが流れる。
「すげぇよな、昔よりゲームやる奴は増えたけどファンタジーワールドは今までの比じゃねぇここんとこ半年の間、社会現象が起きている」
「確かにな、俺も霧島もVRやったことねぇし新田だってVRがファンタジーワールド初だろ?」
「はい、一応前は別のゲームをやってはいたんですけど」
田中先輩がそう言うので一応ゲーム経験があった事は伝える。聞けば堀先輩以外はみなファンタジーワールドが初めてのVRゲームだ。
それは他の人たちも同じようで、ファンタジーワールドをプレイしている人間の約7割はそれまでVRゲーム未経験者だ。
中にはファンタジーワールドが初めてプレイしたゲームと言う人も居るようで、新規開拓が進んでいるとも言われている。
「でも霧島先輩の彼女さんも始めてませんでしたか?」
自分がそう言うとなぜそれを知っているといった具合に少し驚いた表情をしていた。ただその後は若干気まずそうな様子でポツリと話始める。
「確かにそうなんだが……杏は俺と違って元々ゲーマーだったからな、一緒にやるゲーム友達が居るのは当たり前なんだろうが、その中には男もいて少しな」
「「あー」」
ぽりぽりと頬を指でかきながら気まずそうに話し始めた霧島先輩の言葉に自分を含めた周りの一同は皆その気まずさに納得する。
「そりゃあな、ただのテレビゲームならまだしも仮想世界だとな」
仮想空間ではある物の実際に顔を合わせて別の男と彼女が遊んでいるとなると複雑な気持ちだ。聞けば大人数のグループで遊んでいるそうなのだが、彼氏としてはやはりどこか内心モヤッとするするものだ。
「ただいまぁ~」
久しぶりに堀先輩達とご飯を食べに行き、気が付けば日付が変わりそうな時間にまでなっていた。お酒は飲んでいない物のどこか酔った気がする。お酒の席だったので気分的な物なのだろうが
真っ暗なワンルームの我が家には外出する前に洗濯物や汚れた食器などは予め片付けてあったので綺麗だ。ただどこか汗臭いので服を洗濯機の中に突っ込み風呂に入る。
(みんなそれぞれ楽しんでいるんだなぁ)
堀先輩は勿論、田中先輩や霧島先輩だってそれぞれファンタジーワールドで出来た仲間と一緒に冒険をしているそうだ。
ゲーム自体をやってこなかった田中先輩ですら先日バルバトまで到着したし、堀先輩に至っては倍率の凄い初週の乗船チケットも確保している。
自分はテレポート機能が使えるので行こうと思えばSNSでは新大陸と呼ばれている第二大陸へ一瞬で飛ぶことも出来る。
ただそれをするつもりはなかった。面倒ではあるものの仮想世界での船旅を経験して見たかったという気持ちもある。
第二大陸は不毛な荒野の地だ。大陸全体の約8割が更地となっており補給できる拠点が全くと言っていい程無い
遊牧民の様な存在はあるものの、それらと接触する機会なんてまず無いし、手探りの状態で荒野を彷徨い歩くことになる。
そして極めつけは食糧問題だ。
回復アイテムでさえ枯渇しかねなかった程厳しい幻想世界の第二大陸の現状に加えて食料問題も気になる。
シュタイナーも新大陸へ横断中だそうだ。メールには船旅の様子が映っているし、何故か同じクランの男連中と横一列に並んで釣りをしている様子だった。
何とも呑気な様子で楽しそうに船旅をしているようで良かった。
聞けば三日ぐらいは移動にかかるだろうとの事だそうだ。ただ船では宿屋と同じ機能を持ったログアウト場所も存在するし、人によっては新大陸に到着する前に仕事関係を終わらせておくなんて人も居るそうだ。
他にもシュタイナーから送られてきた写真には数隻同じような船が並んでおり、船団を組んで新大陸へ目指しているそうだ。
船は先月完成したキャラベル船よりも大きく、クルーズ客船に近い様子だった。
「今日は……やめておくか明日休みだし用事もないから」
ベッドの枕元に置いてあるヘルメットの形をした機械は幻想世界の運営から頂いた優先チケットで購入した第5世代のVR機だ。
後々調べてみると、この第5世代は未だ一般発売されていないようで、その業界関係者にしか配られていない物の一部だそうだ。
自分の場合は個人利用が目的なので結構な金額がかかったが、ひとつ前の第4世代のVR機が未だ20万ぐらいするのであれば妥当な範囲か?
第5世代ではよりコンパクトになり脳波への伝達機能が強化されているそうだ。
そこら辺の知識は持ち合わせていないが、聞けば仮想空間で若干反応が良くなる程度の物らしい、対して効果は無さそうだが一部ゲーマーからすれば垂涎ものらしく、実際に搭載されていない機能が噂に尾ひれがついて自分の知らない機能が搭載されているそうだ。なんて根拠のない情報も散見された。
枕元に置かれていたそのVR機を手に持ち乾いたタオルで軽く拭く、乱雑になっていた各種コード類も纏めパソコンが置いてある机に置いた。
明日は何やろうか、そう思いながらぼんやりとした意識のままベッドへとダイブして眠った。
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