第76話 その後の食糧事情
「何だあれ……」
その姿は青空広がる空を覆う巨大な戦艦の姿だった。
バルバトの街を覆う巨大な影は天高く飛び、ゆっくりバルバトの空を旋回している。
誰もが口をあんぐりと開けその戦艦を見上げている中、一足先に我に返ったプレイヤー達は一斉にカメラにこの光景を写真に撮り、怒鳴るような声で知り合い連絡をしていた。
「事前に通達は済んでいるとはいえ周辺への混乱は避けられるか」
艦橋部ではひと際目立つ位置に存在する場所に座るケォル艦長がやれやれと言った様子で目頭を手で押さえていた。
妖精大陸から丸一日、数日前からリア王国は勿論バルバトの行政区からそこに住む人々まで細かく通達はされていた。その為SNSなどでは新イベントか?なんて噂も出ていたが実際は現在深刻化している食糧不足の解決のためだ。
飛行船が来るというのは通達されていたのでどのような姿をしているのかと言った話は多く議論されていた。シュタイナーからもその飛行船がバルバトへ到着する予定時刻に合わせて見学しないかと誘われたがその飛行船に現在乗っているので丁重にお断りさせてもらった。
ただシュタイナー以外にもナミザさんを含めたクランチャットでもちょっとしたお祭り騒ぎになっており、ブリッジに備え付けられているモニターを見るに皆驚いている様子をちゃんと確認できた。
「まずは混乱の収拾からだ、ベテランを中心にした奴らから先に降ろして警備させろ」
ケォル艦長艦長がそう指示するとすぐさまに艦内放送で降下準備の通達がされる。一部の人はブリッジから退出しそれらの準備をしに行くようだ。
「サーリナ爵殿も御一緒に降下なされますかな?であれば部下に人気の無い場所に誘導させますが」
「そうですね、お願いします」
折角のご厚意なのでその提案を受けさせてもらう、当分騒ぎは収まりそうにないので自分はバルバトの街から離れた近くの森に小型船に乗り込んで約一週間ぶりのバルバトの地へと戻ってきたのだった。
「うぉ、凄い人だかりだ」
バルバトの街の正門から入れば、すでに道には多くの人だかりが出来ていた。
皆がバルバトの空に浮かぶ戦艦を見つめており、港の方では上陸した妖精兵士たちに興味深々なようだった。
中には双眼鏡の様な物を持参してまで見ている辺りその注目度が分かるという物だ。
バルバトの港区画まで足を運ぶと、その見学者はより一層多くなった。
港付近には造船プロジェクトの際にも使われた巨大な倉庫街が存在し大量の物資を運ぶ道路も整備されている。
周辺を囲む見学者越しにも見える巨大な木箱が浮遊の魔法によって倉庫へと運ばれていく
その際に護衛につく妖精王国の兵士たちが現れると周辺からおぉ、と感嘆の声があがる。
「ロリだ」
「あぁ......ショタもいるぞ」
丁度自分の横で同じく見学していたプレイヤーの一人がその妖精王国の兵士たちの姿を見てそう話していた。
男女のペアである二人組のプレイヤーは男性は公務員みたいな人と呼べるようなお堅い恰好をした男性、女性の方は身長が高く姉御と言った感じの人だ。
そんな人たちからまさかの言葉に横で聞こえてはいる物の、自分は関係ないと聞かないふりをしていた。
ただロリだのショタと言った感想は他のプレイヤーも同じ感想を抱いたらしく、困惑と一緒に何故か歓声も聞こえてきていた。
(まぁ見た目も綺麗だしなぁ)
肌色こそカラフルな色合いをしているが、その顔の造形は美少女美少年と言える姿をしていた。
妖精王国では性差による身体能力の差は無いに等しいので、軍人であっても男女どちらも半数ずつになっている。
流石に男性女性で配備される区画は違うようだが心なしか女性軍人が働いている場所に集うプレイヤーの数が多い気がした。
【運営のてこ入れ?バルバトに謎の巨大戦艦とロリショタ妖精軍人】
騒ぎがある程度収まった夕方、それでも未だ倉庫街では厳重な警備が行われている。今回が初めてという事もあって幾つかの業務に遅延が生じているそうだがそれでも日程が延長するレベルではなく微々たるものだという事だ。
明日にはバルバトの冒険者ギルドの職員がこの倉庫街へ赴き、バルバトを含めた第一大陸で起こっている深刻な食糧不足について検討がなされるとの事
ただ深刻な食糧不足が起きてはいるが、単純にNPCが運営する食材店が国から販売停止命令を受けているだけなので一番被害を被っているのは自分たちプレイヤーしかもリーフ周辺に拠点を置くファンタジーワールドを始めたばかりの新米冒険者達だ。
その為、今回の件は深刻な食糧不足によるテコ入れの為に運営が用意したイベントなのでは?と各ゲーム情報サイトでは噂されていた。
なぜ第7サーバーのみに出現したのかは不明との事だが、各オークション市場を通じてモォリオの出品が行われているそうなので今回の問題も次第に沈静化するのではないかとの事だそうだ。
航空戦艦ドミニオン、その三番艦のカシウスが第7サーバーのバルバトの街に出現したの第7サーバーは一時期満員状態になってしまった。
その為、夕食を食べる為にログアウトした際に普段使っている第7サーバーにログインできなかった。
ただチャットやメールなどの機能はは別のサーバーからでも
第7サーバーに飛ばせるので連絡は問題なかったが、夕食後は大人しく普段は混雑している第1サーバーにお邪魔して個室工房にてルーン文字の練習を行った。
「またか」
VRを装着して、サーバーを選ぶ画面では相変わらずの第7サーバーは満員となっていた。聞けばナミザさんや猫さんたちもログインできない様なので別のサーバーでそれぞれの知り合いと遊んでいるそうだ。
クランの拠点はサーバー固定なので拠点に行くことが出来ないというのも悲しいがいざ第7サーバーにログインしようとしたら3000人待ちとか途方もない数字が表示されたので大人しく機能と同じように第1サーバーへログインした。
「やはり品ぞろえは第1サーバーか」
ファンタジーワールドの各種UIを開き、オークション画面を表示する。毎秒数百と言ったアイテムが出品される巨大なマーケットは各サーバーごとに特徴がある。
第1サーバーは一番という数字を関する為かプレイヤーの質も出品されるアイテムの量も他のサーバーの追随を許さない程の活発さを誇る。
レベルの高いプレイヤーが多い為、総じてオークション市場に出品されるアイテムは希少度の高いアイテムが多い、また装備面も同じで森の雫が新拠点とした第13サーバーと同じぐらい武器や防具の出品が多いのが特徴だ。
その逆を言えば初心者が多い第4第5サーバーでは型落ちした二級装備が多く出品されていた。第一線級ではないものの他のサーバーに比べたら幾分安く手に入り、他のサーバーでプレイしているプレイヤー達も態々この第4第5サーバーに赴いて買いに来るほどだ。
空間に表示されるオークション画面を指で操作し、ズラリと並べられている出品物を確認していく、基本的に第7サーバーのオークション市場しか見たことが無いので普段見かけない様なアイテムが出品されていたりと真新しさを感じる。
数日たてば祭りの様な騒ぎは落ち着くもので、第7サーバーのバルバトの街に浮かんでいる戦艦カシウスを見学しに多少のプレイヤーはまだいつつも数分待つ程度ではサーバーにログインできるぐらいには落ち着いた。
ケォル艦長も街の有権者や王都から派遣された内政官のNPCと連絡を取ったようで明日には本国へ帰還するとの事
モォリオも順次市場に流され物珍しさも相まって多くのプレイヤーに買われているが買い占めようとしても難しいぐらいには大量に作ってきたので問題無いはずだ。
来週には定期便が順次このバルバトへ向けて来るはずなので今回の騒動も落ち着くだろう
モォリオの登場で食材市場の値は未だ高値が付いている物の、一番高かった時期に比べたら半分の値段まで落ち着いている。
その理由の一番はモォリオの登場だろうが、話を聞けばアップデートから約一週間を目途に買いあさった食べ物の消費期限が迫っているようだった。
消費期限を過ぎてしまったら食材が消滅はしないものの、腐ったという名前がアイテム名の前に付き、それで製作した料理は評価が1に固定されるという結果が生まれている。
ただ一部食材ギルドの方では農作物の肥料として買われているようだが、それでも値段は安くなる。その為腐る前に売ってしまおう、そういう動きが市場で見られる様子だ。
ただ今は謎の超技術を持つロリショタの種族からジャガイモの様な作物が届けられたことで、モォリオという食材は何か特別な意味があるんじゃないかと推測が出回ったせいかモォリオと言う食材が一番ホットな研究対象となっていた。
(別に特別な物じゃないんだけどなぁ)
〈モォリオ〉
種類 食材アイテム
【妖精王国で食べられる芋、豊かな土壌で良く育ち腹持ちが良い
ただ発芽した部分には微弱な毒性を持ち生食は出来ないので注意が必要】
右手に持つのは紫色を帯びたジャガイモ、ちょっと不気味な色合いではある物のじゃがバターにしてみると美味しい
その為か乳製品を開発したクランはモォリオを使ったバター製品が飛ぶように売れているのだとか
食料問題が改善されつつある状況の中、それでも研究逞しいプレイヤー達はバターの様な乳製品を生み出す他にもこの世界で作られた植物油や各種調味料など独創性は無いにしても現実世界にある物たちを再現しようという機運が高まっていた。
時間が経てばトウカさんの様なお菓子も作られ始めるのかななんて思いつつも、トウカさんはトウカさん自身で宝石飴と悪魔飴の研究を行っていたそうだ。
バリエーションも幾つか増え、ただステータスを上昇させるだけの飴やクラスによっては重要じゃない死にステータスと呼ばれる部分に強烈なデメリットを付与し、その分主要なステータスを大幅に上げる悪魔飴の改良版の開発など勤しんでいるようだった。
ただ開発は難航しているようでメールでは遠回しで宝石果実の追加を強請っているような文章もあった。
宝石果実は自分しか仕入れることが出来ないせいか、トウカさんは当分他の人にはこの飴を見せないと言われた。
聞くには自分に対して義理もあると言っていたのだが、そんなの気にしなくていいと伝えても仕入れ先が多いと何かと口出しされるのが嫌なようで当分はお願いしたいとの事
当然適正価格ではあるものの、仕入れた食材分の料金は貰う約束だ。自分としても彼女の研究には興味があるので他人であれば宝石果実なんて売らないし、売っても吹っ掛ける予定だがここは友情価格という事にしておこう。
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