第四十五話︰Don't be so careless

 目の前に立っているnullさんは、初めて逢ったときと同じ、女子生徒の制服を着ていた。そして、胸がでかかった。


「ああ、この胸か? 急に成長してな。びっくりだ。」


 ええええ?!


「もちろん、冗談だが。お前が、巨乳好きだと思ってな。再会を祝うサービスにと思ってな。(にやにや)」


「そんなサービスは要りません。」


「おしゃべりは後だな。こいつを屋上全体撒け。」


 nullさんから渡されたのは、タンクとそれに繋がっているホースだった。


「おい、そこでハルバード振り回している金太郎みたいな奴!」


 あ、やっぱり、みんなそう思うよね。


「き、金太郎!?」


 麗美香はそう思って無かったみたいだな。


「今から液体を撒くが、人体には影響無いから気にせずに続けろ。それと、後だな少しだけ時間を稼いでくれ。」


「時間稼ぐってどのくらいよ! まじでそろそろやばいんだけどぉ!」


 最後の力を振り絞るようにハルバードを横一線、廻りにいた怪物どもの首が飛ぶ。見事なもんだな。


「そうだな。後3分といったところか。」


「上等ううぅぅぅ!」


 麗美香は少し元気を取り戻した様だった。


 ホースの先に付いているスィッチを押すと、タンクの中の液体が噴出された。消火器みたいなもんだなと思った。


 nullさんも同じ様にホースから液体を撒いていた。


「使い切るまで全体に撒け。」


 液体のせいで、麗美香の手が滑らないか気になったが、問題なく彼女は闘っている様だった。

 こちら側に行こうとする怪物どもを的確に倒したり、奥へふっ飛ばしたりしていた。


「nullさん! 全部使い切りました!」


「よし、おい! ニーナまだか!?」


 え? ニーナ? あいつは帰ったんじゃ?


 紅いタンクを2つ抱えて、ニーナが屋上にヨロヨロと現れた。


「重い……」


 ニーナはタンクを降ろして、その場に倒れた。


「よし、次はあのタンクで撒くぞ。急げ。」


 ニーナの持って来た紅いタンクの1つを担ぐ。


「いいか、こいつは、今いる場所より後ろには撒くなよ。そして、今の場所より前には絶対に出るな。わかったな!」


 nullさんの真剣な声に、ビビりながら頷く。


「おい! 金太郎! 今から撒く液体には掛かるなよ。動けなくなるぞ。闘いながらこっちに戻って来い。」


「なに、無茶言ってんのよ!」


「怪物どもと一晩過ごしたいなら止めはせんが?(にやにや)」


「勝手云ってくれちゃって! 覚えとけよおぉぉ!」


 麗美香は叫びながら、闘う位置取りを変え、徐々にこちらに近づいて来た。


「金太郎の廻りは、わたしが撒く。おまえは、それ以外を頼む。」


 紅いタンクの液体を撒く。麗美香に掛からないように注意しながら。

 暫くすると、怪物どもの動きがおかしくなってきた。脚に地面から離れなくなったようだ。これは?


「よし、固まり始めたな。まあ、あれだ。その、とりもちみたいな物だ。2つの液体を混ぜると固まる様に創ったんだ。どうだ? いけてるだろ?」


 とりもちって云うと、ネズミとか捕まえるやつだったっけ。

 ゴキブリホイホイみたいな感じか。


「これ創るのに、数ヶ月時間が掛かってしまってな。でもまあ、間に合って良かったよ。おまえってやつは本当に性急に過ぎる。もう少し時間をくれてもいいだろうに。」


「今までずっとこれ創ってたんですか?」


「そうだ。中々上手くいかなくってな。」


 なんで、こんな物を? というか、


「こうなる事が、わかってたんですか?」


「ん? まさか。可能性はあると思っただけだ。そのときに、どうすればいいか、あらかじめ考えて用意しておいた。それだけだ。」


 nullさんは、さも当たり前の事だろう? と云わんばかりだった。


 怪物どもの動きが完全に止まった。いや、止まったというより、動けなくなって藻掻いていた。


「ちょっとぉ〜、しゃべくってないで、手を貸してくれない?」


 麗美香の方を見ると、こちらに戻り切れず、途中で脚が、地面に引っ付いてしまったようだった。

 3メートルぐらい先。こちらも手が届かない。


「靴脱いで、こっち迄跳べるか?」


「こんな距離跳べるわけないでしょ!」


 怒られた。あ、そうだ。


「そのハルバードを使って、棒高跳びみたいにやればいけんじゃないか?」


「おー」


 麗美香は、やる気になった様だ。まあ、麗美香なら、出来そうだしな。


 麗美香は靴を脱いでその上に立ち、ハルバードを構えた。助走が付けられないから、スカートが地面に付かない様に注意しながら、ぐっとかがみ、跳び上がってハルバードの柄を地面に突き立てて、こっちに向かって来た。


 ハルバードから手を離すとき、ふんっとさらに飛び跳ねた。

 麗美香を受け止める。

 どんっと受け止めると、勢いで後ろに数歩下がった。


 1日に2回も、こいつをお姫様抱っこするとは思わなかった。


「あんたにお姫様抱っこされるなんて、最悪ぅ〜。」


「いや、2回だし。」


「えっ?! いつ?! うそ!」


 麗美香は、腕の中でジタバタと暴れた。


「ほら、あいつに倒された時に……」


 メイの方を見上げると、まだ儀式を続けていた。


 しまった! まだ歪は閉じてないんだ!


 新たに落ちてきた一体が、動けなくて藻掻いている怪物の上に着地した。

 そして、こっちに飛び掛かろうとしゃがみこんだ。


 怪物の上に落ちたから、こいつは動ける。ここ迄跳んで来れるのか?


 麗美香のハルバードは、さっきの棒高跳びでとりもちの中だ。恐らく取り出せない。


 そして怪物は、こちらに向かって跳躍した。

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