第三十八話︰SEARCH

 屋上は閉鎖されている。そう言っても、麗美香は、いいからいいからと聞きやしなかった。

 途中、麗美香は自分の教室に寄り、例の長物を取って来た。


 おいおい、それ教室に置いてたんだ。よく置いて置けたな。


 それにしても、それを持ち出すということは、それぐらい危険があると言うことか?


 お昼休みが残り少ない事もあってか、麗美香はダッシュでエレベータに向かった。あいつ、足、はええな。引き離されない様にするのがやっとだった。後ろに居るニーナに振り向くと、ニーナは余裕で付いて来ている感じだった。そうだ、ニーナも足速いんだったな。


 三人でエレベータに乗って屋上へ向う。


 屋上への扉は、前に見た通り、重い鎖と、鍵で厳重に閉ざされていた。


 ほらね。って感じで、麗美香に合図するが、麗美香は徐ろに扉に近づいて、胸元に手を突っ込んで鍵を取り出し、鍵をガチャリと開けた。


 お、おい。なんで、おまえが、鍵持ってるんだ。


 そして、重い鎖を紐を解くように軽々と扱い、ポイッと脇へ投げた。

 ドシャっと重苦しい音をたてて、鎖が転がった。


 なんというパワーなんだ、こいつ。


「ポチは、この扉の所で待機、ニーナちゃんは、階段の下で待機してて。」

「ポチじゃねえ。」

「ええっと、なんだっけ? モウちゃんだっけ?」

「ちがう、コウちゃんだ。」


 自分で、ついコウちゃんとか、言っちまったじゃねえか。


「そうだそうだ、コウちゃんだ。」


 麗美香は、うんうんと頷く。


「もし、わたしに何かあったら、この扉をすぐに閉めてね♪ よろしく。」

「なんかあったら、ってなんだよ? それに、閉めたら、おまえはどうなるんだよ?」

「大丈夫。たぶんなにもないよ。万が一のためだから。それに、なんかあったときは、もうわたしは終わってるはずだから、気にする必要はないよ。」


 ちょっ、どういうことだよ、と聞く声を無視して、麗美香は扉を開けて屋上へ出て行った。


 追いかけようとしたとき、いつの間にかカバーを外した例の長物の切っ先が鋭く鼻先に光った。


「そこを動くと、斬っちゃうぞ♪」


 満面の笑顔で云われた。でも、冗談ではなく、本気であることが彼女の放つオーラからわかった。


 麗美香は、長物を軽やかに、舞を踊るかのように振り回しながら、屋上をぐるぐると回っていた。


 何をしているのかさっぱりだ。


 後ろからニーナが、ひょっこりと顔を出して屋上の様子を覗いた

 おいおい、ニーナさんよ、持ち場離れたら、ザックリ斬られるよ?

 まあ、あいつが、ニーナを斬るとは思えないが。


「ねえ、麗美香さんは、何をしているの?」


 聞かれても困る。

 わからないという、ジェスチャーで応える。


 屋上は、特に異常は無い様に見える。掃除されてないせいか、結構汚れていた。

 まあ、何ヶ月も放置状態だったからな。


 しばらく舞を眺めていたが、麗美香は踊りを止めてこちらに戻って来た。


「ニーナちゃん、いけない子。こっち来たらダメでしよ。」


 子供を諭すようなふりで、おどけてみせる。

 随分態度がちがうよな、おまえ。


「そろそろ、お昼休み終わっちゃうから、ニーナちゃんは、もう戻って。」


 おお、もうそんな時間か。

 教室に戻ろうとすると、制服の袖を摘まれた。


「ポチは、ステイ。」


 ポチじゃねえと、突っ込む気力が失せた。それよりも、


「ステイってなんだよ!」

「英語で、留まれって意味だよ。ごめん、英語苦手だった?」

「ちがうわ!」


 あーもう、めんどくせえ。


「まだ、なんかここでやるってんだな。で、ここにまだ居て、見張ってろと。」

「すごーい。ひょっとして、頭良かった?」


 あかん、まともに相手してたら、こいつのペースに飲まれる。


 ニーナも残ると言い出したが、さすがに初登校初日からサボりはまずいだろうと説得して、引き上げさせた。


「あ、でも、おまえも初日だろ? いいのか?」


 麗美香も、登校初日だ。まあ、気にしてやることもないのかもだけど、一応な。


「別に、いいよ。勉強嫌いだから。」


 おい、そこは、こっちが優先だとか言っとけよ。


「そっか、まあいいや。で、何をするんだ? また、舞を続けるのか?」


 麗美香は、違うと首をふるふるとふり、ちょっと瞑想するから、今度は、何かあったら、大声で呼んで欲しいと言った。瞑想中は、周り事が分からなくなるらしい。


「なあ、いったい何をしてるんだ?」


 応えないとわかっていても、聞かずにはいられなかった。


「なに? 気になっちゃう? だぁーめ。乙女の秘密だよ♪」


 予想通り、いや、予想より、いろいろ余計なものが付いて返ってきた。

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