第二話 『ニーナ・クリーステル』
※※※ ※※※ ※※※ ※※※
わたしが死を覚悟したとき
周りが紫色の光に満たされた
これはお爺さま魔法
時空転送の魔法
助かる
わたしたち助かるの?
顔を上げお爺さまを見ようとしたことまでは覚えている
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頭が痛い………。ガンガンする。どうしたんだ。ヤマゲンのせいか?
そういえば今朝、ヤマゲンにボディープレスくらったっけ。いつもあいつはほんとに。後先考えないやつだ。
( そ のひとは あなたの なに? )
ん、あ? ヤマゲンか? 同級生だ。知り合って間もないが、けっこう馴れ馴れしいやつで、毎日のように絡んでくる。
( いや なの? )
別に嫌じゃないけど、あいつ、いつも無茶やって、後で自分自身の行為を反省して落ち込んでるんだ。見てると、何故だがイライラする。
( どう して? )
いや、自分でもわからないんだけど。落ち込んでいるあいつを観ると、居心地が悪いんだ。
( ふーん )
ふーんってなんだよ。
( そ のひとに いつもどおりに あかるく いて ほしい のね )
え? そうなの? いや、そうか。そうかもな。
( なにも してやれない どう したら いい のか わからない から いや なんだ )
うーん。そうなのかな。
( そうよ )
なんでわかるんだ?そんなこと。
( だって わたし こころ の なか みえる ちから ある )
心の中観える力? なんだそれ? おまえ誰だ?
( わた し は ニーナ・・・ ニーナ・クリーステル )
ニーナ・クリーステル?
( はい アルカー・エクサーラおうこく だいいちおうじょ です )
えっと・・・なに? 夢なの? なんなの? 頭打っておかしくなったの? なに? アルカー・エクサーラ王国って。聞いたことねーよ。それに王女とか。
あはは。RPGのやりすぎかな。そんなにやっているつもりはないんだけど。
( いえ あなた は せいじょう です )
早く目を覚まさないとな。てか、なんで寝てるんだ?
( すみません わたしが あなたに ぶつかった せい です )
ぶつかった?
( わたしが ここに とばされて あなたに ぶつかりました )
えっと・・・
( わたしのしたじき に なって あたまを うたれた ようです )
下敷き?
ズキンッ!
急激な頭痛に襲われた。何かを思い出そうとしたときに、記憶喪失のときとかにあるあの頭痛なのか? そういうシーンってよくあるよね。実際に自分が体験するとは思ったことなかったけど。
何かが降って来たんだ。なんで思い出せないんだろう?
( あ それ は わたしが けしました )
消した? え? なんで?
( みられたくないもの でしたから )
観られたくないものってなに?
( ・・・ )
ん?
( ゆっくり と めを あけていきます )
すっと眼が開くと、まぶしい陽の光を感じた。しばらく眼を瞬いていると、人の顔、逆光の人の顔らしきシルエットが浮かび上がった。徐々に眼が慣れてくると、その顔立ちがうっすらと見えてきた。
髪は肩ぐらい。金髪。眼は碧くすごく綺麗だ。外国人? 顔立ちから推測するに、同い年ぐらい。上から見下されている。その子の顔の前にある2つの膨らみは大きかった。
ようやく意識がはっきりしてきた。たぶん、どうやら、おそらく、自分は仰向けに寝ているようだ。そして、視線の先には女の子の顔がすぐ近くでこっちを見下ろしている。うん。これは膝枕というやつか。
これはこのまま堪能したい気持ちもありながら、恥ずかしいのですぐに起きたい気持ちもある。この2つの感情の間で葛藤している間に、頭を膝の上からコンクリートの上に丁寧に降ろされた。
仕方がないので起きようとしたら、ズキンっ!とまた、頭痛がした。
( しばらくは ゆっくり うごいたほうが いい です )
おそらく目の前の女の子の言葉なんだろうけど、耳ではなくこころに直接語られているように感じた。
( はい そのとおりです あなたの こころに かたっています )
合ってたようだ。あ、いや。やっぱり頭打って幻聴が聞こえているのかもしれない。その可能性は捨てられない。
( げんちょう では ありません )
目の前の女の子は、真剣な表情でこちらを見つめていた。口は動かさずに。
( このせかいの ことばは まだ はなせません )
彼女は思案しているような感じで、恐る恐る伝えてきた。
( あなたの きおく から じょうほうを いただきながら いしの そつう を はかって います )
なんか難しい話になってきた。自分はこんな難しいことはわからない。だから、たぶん、これは夢ではなく、現実なんだろう。自分で創りだした夢が自分の理解を超えることは無い。と、思うから。
( わたしは ことばを つたえているのでは ありません )
彼女は、顔を近づけて
( わたしは おもいを あなたの こころに つたえています )
やっぱり、さっぱりわからない。一瞬告白かと勘違いしそうになった。が、どう考えても告白の文脈じゃない。それに、いきなり合ったばっかりの外国人の女の子に自分が告白されるなんてことは、到底有り得ない。
( はい )
肯定された・・・
や、まあ、そうだろうけどさ。
頭痛がだいぶ収まったので、立ち上がろうとすると、この女の子と手を繋いでいる事に気づいた。いままでずっと手を繋いでいたのか? 恥ずかしくなってとっさに繋いでいた手を離す。
と、慌てて彼女は手を強引に繋ぎなおした。
え? なに? なんなの? もしかして?
( ちがいます )
否定された・・・
( しんたいに ふれてないと この コミュニケーション が せいりつ しません )
どうもそういうことらしい。つまり、身体に触れていれば、口で喋らなくても意志が疎通できるということ。
ことここに至って、いま起きている事柄は、現実なんだと認識しようと思う。まあ、幻覚でもいいんだけどね。それはそれで面白そうだし。
そういえば、今何時だ?! やべ! 確か、昼休みだったけ? どのぐらい時間たったのさ?
腕時計をさっと観る。午後の授業はすでに20分ぐらい始まっていた。
「ごめん。授業始まってるし、もう行くわ。」
さくっと別れを告げて立ち去ろうとしたが、彼女はその手を離さず付いてきた。
えっと、こういう場合はどうすれば? とりあえず本人に聞いてみよう。そうしよう。
「えっと、自分に何か用ですか?」
うーん。なんか場違いのセリフのような、すごく突き放したような、すごく冷たいような言い方に聞こえてしまいそうな。ちょっと自分の発言が不安になったので、彼女の様子を窺った。
彼女のその顔は疲労によってひどくやつれていて、碧い瞳は恐れと怯えの色をして震えていた。
そして、その掴んだ腕をギュッと握りしめ………
声を押し殺して泣き始めた。
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