第六十九話:マルニィ3
そのまま、そこで待っているように、マルニィが下から叫んだ。
しばらく待っていると、小屋の扉を開いてマルニィが入って来た。
「マルニィ、ここは何処? なに?」
マルニィは、にやにや笑いながら、
「わたしの隠れ家だよ。」
そう云って、後ろ手に扉を閉めてた。
「ようこそ! わたしの隠れ家へ!」
大袈裟に、声を張り上げて、両手を精一杯開いて歓迎を示すマルニィの姿に、私は知らず感動を覚えた。疑うところなど微塵も無く、彼女は私を歓迎しているのだ。
彼女はいそいそと隅っこに片付けてあったテーブルやら椅子やらをセッティングした。座るように促されたので大人しく座る。テーブルと椅子は木製で、手造りだった。
ほいっと、テーブルの上にひしゃげたホールケーキが置かれた。手造りで造られたであろうそのホールケーキは、どんっと落したように縦に潰れていた。
マルニィは頭を掻きながら、申し訳なさそうに謝った。
「あのね、朝はちゃんと無事だったの。ちゃんと綺麗に出来上がったんだよ。ほんとだよ。」
顔を真っ赤に染めながら、彼女は手をばたつかせて弁解していた。
「朝、ここに運ぶ時にね、飛ばしたんだけど、テーブル片付けてたのうっかり忘れちゃってて……その、そのまま落下させちゃったの。」
この後、詳しく説明されたけど、彼女の能力は手に触れたものを瞬時に別の場所に移動させるものらしい。さっきは、私をこの小屋までそれで飛ばしたとのことだった。この小屋は、大木の上の方にある枝を土台に創ったらしく、地上からだいぶん上の方にある。私は飛ばされたから解らなかったが、ここまで来るのに、彼女は設置されている縄梯子を使って登り降りをしているそうだ。彼女自身は自分を飛ばす事が出来ないかららしい。
潰れたケーキを見つめながら、、私が優しく、マルニィらしくて良いと云ったら、彼女は安心した表情を浮かべた。
マルニィは潰れたケーキをいそいそとと6つに切り分けお皿に一つ乗せると、私に差し出した。
「お誕生日おめでとう!!」
まったく、マルニィらしいなあ。このタイミングでそれを云うの。まあ、本当はちゃんとしたケーキを出したタイミングで言いたかったのだろうなあ。私はまた、ぷっと吹き出してしまった。
「あれ? もしかして、今日じゃなかった? あれ?」
マルニィは、また顔を真っ赤に染めて慌て始めた。
「ううん。合ってますよ。今日は、私の誕生日です。」
私は立ち上がり、マルニィの両手をしっかりと握って
「マルニィ、ありがとう。今までで一番幸せな誕生日です。」
そう告げた。
マルニィは、うんうんと頷きながら、よかったよかったと呟いた。
その後ふたりでケーキを食べた。
そろそろ陽が沈みかける頃、マルニィは立ち上がり、窓の方に来るように促した。
「さあ、ここからがメインイベントだよ。」
そう云ってにまにまと笑っていた。
窓から外を観ると、沈みかけの陽が湖に映り込んでいた。水平線が黄金に輝き、拡がっていた。空には薄く小さい雲が幾つか浮かんで、雲の下方から綺麗な赤紫色にグラデーションになって染まった。神の国があるとしたら、こんなところだろうかと思わせる光景だった。陽が沈み切るまでずっと眺めていた。陽の沈みに合わせて、黄金に輝いていた水平線が徐々に縮んでいき、やがて消失していった。黄金の消失に伴い、辺りが薄っすらと暗くなっているのが際立った。空と湖に映った空が繋がり、境界が曖昧になった。無数の星が瞬き始める頃になるとそれは、この世界が星の海に呑まれてしまったように思えた。私の居るこの小屋以外、周りは星の海。そんな思いに駆られた。
なんて素敵な光景なんだろう。私は今までこんなすごいものを見たことが無かった。
「ここは、わたしの一番の場所なの。そして、ここは、わたししか知らない場所。そして、今日からは、わたしとニーナちゃんだけが知ってる場所。」
マルニィはそう自慢気に語った。
「今日からは、ここはわたしとニーナちゃんの隠れ家だよ。自由に出入りしていいからね。」
「ありがとう。マルニィ。」
こんな素敵な誕生日プレゼントは生まれて始めてだ。
「でも、マルニィ? あなたみんなと仲良しなのに、ここは私だけにしか教えてないの?」
素朴な疑問をぶつけずにはいられなかった。マルニィは、みんなと仲がいい。最近は、私のところによく来るようになったとはいえ、たくさんの友人は居るように見える。だからこその疑問だった。
「うーん。あれは仲良しじゃなくて、仲良くしているの。」
どう違うのは今ひとつわからなかった。
「偽ってる訳じゃないよ。仲良くはしたいと思うからそうしてるの。」
理解出来ていない顔をマルニィに晒していると、彼女はさらに続けた。
「あの人たちの事は嫌いじゃないけど、それほど深入りしたいとは思わないの。けど。」
私の方を、私の眼をじっと見て。
「わたしは、自分を偽らない人が好き。だから、わたしは、ニーナちゃんが好き。」
そう彼女は真剣な眼差しでこたえた。
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