第六十三話: Reunion

 赤部の予想通り、ニーナは観季にトレーニングをしていたらしい。午後7時半位に帰宅した。事前に家に電話があり、遅くなるとの連絡が母宛にあった様だ。

「なにも、電話切ることないだろう。」

 携帯に掛けたとき、プチッっと切られたのがショックだったので、ニーナに愚痴った。ニーナ曰く、訓練中だったから邪魔だった。ごめんなさいと、素直に謝った。素直に謝られると調子が狂う。実際、そんなに腹を立てている訳では無く、ショックだっだけだ。理由が解れば何てことない話なのだ。

「別に、怒ってねえよ。理由が知りたかっただけだ。」

 それだけ云うと、急に照れ臭くなったので、とっとと部屋に引き上げた。

 あ、そういえば、トレーニングどうだったのかな? 上手くいったのだろうか? 観季は大丈夫だったのかな? まあ、明日にでもニーナに聞けばいいか。今は、顔合わせ辛いからな。


 コンコン


 ドアがノックされた。ニーナに違いない。顔合わせ辛いってーのに。しゃーねーなーっとドアを開ける。やはりニーナだった。彼女は眼を合わせずに

「報告。訓練は順調。まだしばらく毎日続けるから。じゃあ。」

 それだけ云うと、トトトと自分の部屋に帰って行った。

 なんだあれは。取り敢えずこちらに報告しとかないといけないと思ったのだろうか? まあいいや。

 ニーナが部屋に入るのを見届けて、自分も部屋に戻る。ニーナの奴、振り返らなかったなあ。



 ※※※



 凄く気分が悪い・・・


 まるで鉛の海で溺れた様な。口の中が鉛っぽかった。

 鉛というか、鉄か。

 血は鉄分を含んでるんだっけ?

 じゃあ、これは血の味かなのかな?


 この感覚は初めてじゃない。

 今までに何度もあった。

 そしてそのときは必ず・・・・・・


 勉強机に突っ伏して寝ていたみたい。

 体を起こして机を観る。


 やっぱりだ。


 いつもこれが起きるときは、決まってこれが在る。


 机の上のノートにびっしりと文字が書かれている。

 自分が書いた覚えはない。


 しかし今回一点だけ違った事がある。


 ノートとは別に、一枚だけ千切られた紙が置かれていた。


 その千切れた紙を手に取ってみると、こう書かれていた。


「ごめんなさい

 

 お願いします。


     琴之葉 美霧」




  ※※※  ※※※  ※※※



 ニーナによるトレーニングは、ここ数日続いてる様だ。ニーナはともかくとして、観季がよく付き合ってるなあっと不思議に思う。断り切れなかったって感じなんじゃねえかなあっとちょっと心配になったが、あまりこっちからごちゃごちゃ云うのも憚られたのでそっとしておいた。あれから赤部は何も云って来ない。観季と話したのかさえ定かではない。こちらも訊きづらいので訊く機会を逸してしまっていた。そして、赤部は、こちらの問い掛けに応えずにいた。その事もずっと気になっていた。

 そんな事を考えながら、1時間目の終了後トイレに用を足しに向かった。トイレ掃除のおばちゃんが居て掃除してた。引き返すのもバツが悪いので、気にしてないフリをして、そのまま小便器に向かう。こうゆうのはちょっとやめて欲しいと思うのだが。おばちゃんとはいえ女性である。その側で用を足すのは、やっぱり抵抗がある。やっぱり清掃するときは、清掃中って看板出して入れない様にして欲しい。っていうか授業中にやってよおお。もう。


「ほう・・・・・・なかなか立派じゃないか?」


 用足し中に、いつの間にか後に立っていた掃除のおばちゃんが腰を掴んで覗き込んでいた。


「ちょっ・・・なに?!」

 咄嗟の事に、言葉が出ない。ん? この声は? もしやと思って、掃除のおばちゃんの顔を覗きこむと、そこには、ニヤニヤと笑うnullさんの顔があった。


「感動的な再会だろう?」

 nullさんは、そういってクククと笑う。


「なにが感動的なんですか! 最悪な再会です。っていうかいつまで見てるんですか?」

「やー、なかなかお前が自信があるのか、隠さないものだからな。つい見惚れてしまった。」

 出してる最中に引っ込めたり隠したり出来ないよ。まったくこの人は本当に・・・・・・


「さて、再会も済んだことだし、わたしは去るよ。」

「何しに来たんですか?」

「ん? お前に逢いに来てやったのに、何しにとはつれない奴だなあ。」

 絶対嘘だ。この人、まさか、からかう為だけに来たんじゃないだろうな。

「おっと、長居は無用。学校側からはマークされてる身だからな。では、後は頼んだぞ。じゃあな。」

「頼むって何を?」

 こちらの言葉も聞かず、さっとトイレを出て行った。慌てて、追いかけ様として、チャックを閉めてないことに気づき、閉めていた分出遅れた。そのせいか、廊下に出た時もうその姿は何処にも無かった。

 頼むってなんだよ。意味がわからない。


 教室に戻ろうとして、手を洗ってない事に気づいた。おっといけない。さすがに手は洗わないとな。すぐにトイレに引き返し、手を洗う。後ポケットい入れているハンカチを取ろうとして違和感に気付いた。

 なんかカサカサする。ハンカチを引っ張り出すと、ハンカチと一緒にメモ書きされた紙片が出てきた。

 ん? なんだこれ? よく見ると紙片には文字が書かれていた。凄く急いで書いたのか、乱雑に殴り書きしたような字体で、「ユニークってなんだろうな」っとだけ書かれていた。

「後は頼んだぞ。」

 nullさんの言葉が蘇る。もしかしてこれの事? nullさんの事だ。さっき後から覗き込んだときにこれをポケットに入れたんだろうな。それに、他の誰かに観られても解らないような表現をしているんだろう。そこから類推すると、これは、ユニーク枠について調べろ、何かあるぞ、って事かな?


 でも、もし、そうだとした・・・・・・

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