ドッペルベビー
「依頼の主はここにいる」
ついたのは少し大きめの民家だった。
ひとねがインターホンを押すと小型カメラが起動し、スピーカーから上品な女性の声がした。
『はい、どちらさまですか?』
「依頼された怪奇探偵だ」
『お待ちしておりました、少々お待ちください』
「えっ……」
『怪事件限定のシャーロックホームズ』の名前はどうしたんだよ……
そんな疑問とツッコミは俺の胸の中にしまいこまれ、俺たちは出てきた女性に通されて家へと上がった。
*
リビングでお茶を出しながら女性が頭を下げた。
「わざわざありがとうございます、シャーロックさん。貴方の事は祖母から聞いております」
シャーロックの名前はまだ使っていたのか。
「う……うん」
気まずそうに頷くひとね。恥ずかしいならやめろよ。
俺は小声でひとねに話しかける
「で、お前がわざわざ来た理由ってなんなんだよ、シャーロックさん」
「なっ……」
ひとねは頰を赤くして俺を睨む。
「シャーロックって名乗ってるのはお前だろ?」
追い討ちをかけるとひとねの顔が怖いソレへと変貌した。
「ちっ……覚えてろよ」
「……うおう」
ひとね、キャラ変わってないか?
「あ、あのう」
女性の声でひとねは顔をいつも通りに戻す。落ちつくためか茶を一気に飲み干して咳払い。
「そうだね、まずは状況の再確認をしようか」
*
女性に案内されて、俺たちはある部屋にいた。
どうやら子供部屋みたいで赤ん坊向けのおもちゃなどが沢山置いてある。
部屋の奥には大きな赤ん坊用ベッド。そこに赤ん坊が寝ており、その赤ん坊が今回の問題だと言う。
そこを除きこむと……
「こ……これは」
「ふむ……」
俺が驚きひとねが予想通りと言わんばかりに真顔で頷く。
大きな赤ん坊用のベッド、そこには赤ん坊が二人寝ていたのだ。
そっくりなんてレベルじゃない。どこにも差異が無い。
「双子……じゃないんですよね」
俺の言葉に女性が頷く。
「はい、私の子は一人だけです」
ひとねが俺の肩を少し強めに叩く。
「なに余計な事を聞いているんだい? 今回の案件は自己像幻視だと言っただろう?」
「わかってるけどさ……」
聞くのと実際に見るのは違う。少し驚いたんだ。
「まあ、それはいい。さて、いつからこうなったか……いや、こうなる少し前の状況から説明して貰ってもいいかな?」
「えっと……前からですか?」
女性は赤ん坊をチラチラと見ながら聞く。このまま放っておいて大丈夫なのかが心配なのだろう。
『自分のドッペルゲンガーを見た物は近々死ぬ』なんてのは有名な話だ。
ひとねもそれを察したのだろう。赤ん坊を一目見てから口を開く。
「すぐに死ぬなんて事は無い。大丈夫だ」
それに、とひとねはこう続けた。
「前の方から話を聞いておいた方が、判断が確実になる」
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