眠る電車旅

着かない電車

「全く……どうなってるんだ!」

 隣に座るひとねが俺の太ももを叩く。地味に痛い……

 今、俺とひとねは電車に乗っている。限定スイーツを食べに行こうとひとねに急遽呼び出されたのだ。

 折角の日曜日なのに……いや、予定は無かったけど。

 まだ少しふらつくひとねをサポートして電車に乗ったのが午後の三時。目的の駅には二十分もあれば到着する……筈だったのだが

「おかしい! もう四十分だぞ!」

 ひとねが何度も俺の太ももを叩く。

「ひとね、静かに」

 俺は手でひとねの暴力を防ぎながら言った。周りの人も結構寝ているし……寝ていなくても問題だ。

 ……てか

「叩くな、八つ当たりするな」

 軽く睨むとひとねは不満そうに

「何で着かないんだ、二十分じゃ無かったのか」

 と、俺を睨み返してきた。

「間違い無いよ」

 記憶力には自信がある。

「信号で止まった訳でも、遅れている訳でも無い」

 第一、とひとねは俺にぐいっと顔を近づける

「私が寝ている間にこの辺の一駅の間隔は大きくなったのかい? それとも幾つか駅が潰れたのかい?」

「いや、そんな事は無いと思うけど……」

 あまり電車には乗らないから詳しくは無いけど……流石に三十分次の駅に着かない程田舎でも無い。

 因みに急行などでは無く普通車である。

「全く……どうなってるんだ」

 ひとねが呟くと同時に前から音が鳴った。前にいた主婦が寝てしまってスマートフォンを落としたようだ。

 それを見たひとねは何か思いついたように手を叩いた。

「そうだ、君にメールアドレスを教えていなかった」

「ん……あ、そうだっけ」

 いつも放課後に寄っていたから気づかなかった。普段は電話だったし。

 でも、ひとねのアドレスなら何処かで見て……うん、覚えてる。

「覚えてるから空メール送るな」

「空メールじゃなくて名前の漢字を入れておいてくれ」

「ん、ああ」

 自分の名前を添えてメールする。

 そして電話帳に登録。藤宮ひとね。

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