(SF)量子のもつれは超ひも理論

のーはうず

プロローグ

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その研究室は化学実験棟の1階にあった。

いずれの大学でもそうであるが、化学の実験棟はあまり人が立ち寄らない一番奥まったところにある。

なぜならそこには棟をまるごと吹き飛ばす程度のアセチレンのガスタンクや、自然発火性の危険物、可燃性固体だけでなく、毒物及び劇物取締法で規定されているようなシアン化物、更には放射性同位体のマークが設定されている測定室やバイオセーフティレベルが設定された研究室がごっそりと詰まっているからだ。



そんな実験棟だが数年に一度は救急車沙汰の事故がおこるのは、みんなが知っている事だった。粉体爆発や有毒ガス吸引、化学汚濁による火傷など、細かいものをあげればきりはないが、学生が実験をする以上、事故をまったく起こさないようにするということは不可能だった。



だからこそであるが過去におきた事故について学生達に教育し、万が一また事故が起きた時に被害を最小限で食い止めるべく素早い対応や、応急救護がおこなえるように教育も訓練も徹底されていた。



・・・はずであった。

しかし、その事故に気がついたのは別の学部の女学生だった。

実験棟の裏に住み着いている野良猫に餌をやりに来た学生が、そこにあるはずの壁が円形になくなっていることに気がついたのだ。



直径3メートル程度のその穴は、校舎の壁をバターをよく温めたナイフで切り取ったように綺麗になくなっていた。よく見れば、いつも猫がいる花壇の植え込みも何かに切り取られたようになくなっている。

恐る恐る校舎の中を穴から覗き込むと、半分になってしまった机がすり鉢状に削られた床のくぼみに倒れこみ、書類やらが散乱していた。


机の脇に女性が倒れているのをみつけ、そこでようやく女学生は声をあげた。

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