第2話『園芸部の出会い』
4月10日、金曜日。学校が始まって3日が過ぎた。この日行われたホームルームでは、所属する部活とクラブを決めていた。
一馬の小学校では毎週木曜日の6時間目にクラブ活動と部活動をそれぞれ隔週で入れてくる。クラブ活動は、スポーツや音楽、テーブルゲームなどレクリエーション中心の活動を。
部活動は放送部や園芸部など、学校の行事等の手伝いや緑化運動などを行うのである。
―――確か俺、6年の時は囲碁部と園芸部だったよな。んで、園芸部には・・・―――
「よう、一馬。お前どこの部にするんだ?」
能天気に幸助が、肩を組みながら尋ねてきた。
「囲碁部と園芸部にしようかなって思う。あんまし動きたくないし」
―――へたに行動を変えてしまうとこの先の出来事が読めなくなってしまう。ただでさえ、面識のなかった李音や希とこの時点で友達になってるし―――
「へぇー、じゃあ俺と一馬は園芸部行くから幸助は放送部な」
李音が入ってきた。
「ちょ、何で李音に勝手に決められないといけないんだ」
「へへへ」
そう言うと李音は幸助の肩を組んで何やらこそこそ話し出した。
「そういう事情なら致し方ない。うん、一馬君、君は園芸部に入りなさい」
「何だよ幸助。気持ち悪い言い方して」
「へへへ、この後君は僕に感謝することになると思うよ」
「変なの」
一馬には分かっていた。当時の記憶が正しかったら園芸部には桃園茜がいるはずだ。しかしだ。当時園芸部に入った4人の面子は一馬と幸助、それに女子が二人だったはずだ。それが今回、男子の面子が一馬と李音に変わっているのである。その時点で記憶の中の6年の時とズレが生じてしまっている。
―――まずいな、当時と面子が変わってしまった。となるとひょっとしたら園芸部に桃園がいないかもしれない―――
「はぁい!自分の所属する部とクラブが決まった所で、今から各教室に分かれて部活に行ってもらいます。来週から早速活動を開始しますのでよろしくね。ちなみに園芸部はこの教室で担当は私だからね」
「姫ちゃん先生、なんか楽しようとしてない」
「へへへ」
野村姫子。教師になって3年の新米の女性教師である。まだ26歳ということもあり、教師というかお姉ちゃんといった方が正しいかも。趣味はコスプレでたまにゴスロリの格好で授業することもある。当然校長や他の教師に怒られるがそんなこと、お構いなしである。その見かけによらず、運動神経は抜群でダンスが得意とくる。まさに才色兼備なのである。
「それにしても、姫ちゃん先生ってゴスロリみたいなかっこうするからこういう汚れる活動苦手かと思ったんですけど」
「汚れるのはイヤだけど、園芸は好きよ。大学の時、染物の勉強してたから。こういうお花から色素取り出す研究とかもしてたのよ」
「そうなんだ」
―――これも知っている。姫ちゃん先生は見た目に寄らず頭がとてもいいのである。大学も一流の大学出て様々なボランティアをしたりして、実はすごい人なんだよな。あんまししゃべったことなかったけど―――
「園芸部はここですか?」
「あっ、来た来た。入って、入って」
そこに現れたのは蓬莱希であった。
―――あれ、確か彼女は図書部に入ってたはず。やっぱ、流れが変わったから狂ってしまったか。どうする、どう修正する―――
「えっと、3組は蓬莱さんと」
「私です」
蓬莱希の後ろからひょっこりと桃園茜が姿を現した。
「へへ、立花さんの予定だったんだけど変わってもらったの。よろしくね、佐々木君と松井君」
「よろしく、蓬莱さんと桃園さん」
李音と希はよそよそしい挨拶を済ませると同時に一馬に目配せをした。
―――諮りやがったな、二人とも。園芸部の活動を隠れ蓑にして密会するきかよ。ち、なんとこすいことを―――
「よろしく。松井君」
桃園茜が一馬に声をかけた。
「あっ、こっちこそよろしく」
その夜、一馬たちのLINEのグループでこのようなやり取りが行われた。
一馬『何だよあれ、おもいっきり二人でいちゃつく気満々やんけ』
李音『へへ、やっぱばれたか』
希『いいじゃない、こういう形だったら二人で話していても目立たないし、それにうちらのこと知ってる人が3人もいることやし』
幸助『一馬だって桃園茜と一緒にいられるからいいじゃんか』
一馬『やっぱりお前の企みか(怒)』
幸助『へへ、どうよ』
希がLINEのアカウント交換をした後、一馬たち5人のグループを作ったのである。メンバーは幸助と美香、李音と希、そして一馬の5人である。
美香『でも、一馬もこれで堂々と茜とお話できるじゃない、良かったじゃん』
一馬『美香まで、てか、李音!本来水遣りの当番の班って各クラスで割り振るだろ、何だよ、姫ちゃん先生まるこえクラスばらばらでって』
幸助『まるこえ?』
美香『正)丸め込め』
李音『いいじゃん、その方が面白そうって先生に相談したら通りちゃったからさ』
―――まったく、李音がまさかここまで積極的とは思わなかった。まっ、無理ないか。昔の俺は美香と幸助としか殆どしゃべらなかったし。けど、班分けが俺と桃園になるとは限らないし・・・どうでもいいけど変換ミス多いな―――
李音『どうやったら桃園と同じ班になるか?その辺は抜かりないよ、一馬君』
一馬『リーーーーーーーーオーーーーーーーーーーーーんーーーーーーー!!!』
一馬は、李音の企みがどんなものなのか、まだ想像つけていなかった。
週があけて月曜日の放課後。園芸部の班分け発表のため姫ちゃん先生の指示により教室に残っていた一馬だったが、発表された班発表を見て我が目を疑った。
[1班 佐々木 蓬莱 月、朝 木、昼 A花壇]
[2班 森下 栄生 火、朝 金、昼 C花壇]
[3班 松井 桃園 火、昼 水、朝 B花壇]
・・・・・・・・・
―――なんじゃこりゃーーーーー。俺が桃園と一緒の班――――
ふと、姫ちゃん先生の方を見ると何やら李音と耳打ちをしている。
「李音。まさかと思うが」
「やあ、一馬くん。喜べ!!班分け姫ちゃん先生に依頼されて俺が組んだら採用されちまった」
「ふざけるなぁーー!」
「まぁ、なんだ。がんばれ!うん、がんばれ!それしか俺には言えん」
「ふざけるなーーー!!」
―――やってくれたな。李音。これじゃあこっちが考える余裕ないじゃんか―――
「ふふふ、これで最低で一週間に2回絶対顔を合わせることになるからな」
「李音、いつか絶対しばくからな」
一馬はニヤニヤする李音を睨みつけながら教室を後にした。
翌日、一馬は教室でぎこちないというかそわそわしているというか、まったく落ち着かない様子であった。それを知ってか知らずか幸助は一馬に「ちょっとは落ち着け」と釘を刺した。
―――落ち着けって言われてもなんてしゃべったらいいんだよ。あーー、小学生らしい話し方ってなんだ。えーーと―――
一馬は休み時間の度に教室内をうろうろしていた。
―――いっそのこと雨でも降ってくれないかな。そうすれば水やりないのに―――
しかし、無常にもこの日は快晴。そうこうしているうちに昼休みになってしまった。一馬は給食をすばやく食べるとそのまま受け持ちの花壇へと向かった。気が進まないが・・・。
花壇には、まだ誰もおらず、とりあえず水をまく用のホースを出してきた。
「おぅ、一馬っち、もう準備」
振り向くとそこには姫ちゃん先生が立っていた。
「先生、どうしたんですか?」
「桃園っちが体調悪いから私が代わりに来たんよ」
「そうだったんですか」
一馬は安堵した気持ちとがっかりした気持ちで半々になった。
「がっかり?」
「そうじゃないけど・・・、なんか、どうやって話したらいいのかわからなくて、桃園と」
―――何言ってるんだ、俺。前の自分だったらこんなこと言わなかったのに・・・・―――
一馬は自分の行動が不思議でならなかった。昔の自分だったら気に入った人間にしか心のうちを話さなかった。それが、李音や希と話すようになってから少しずつ自分が明るくなった気がしてならなかった。悩んだり迷った時は全て自己解決してきたのだが、今の自分は何故かすらすらと悩みを口に出せてします。不思議な気持ちだ。
「桃園さんと仲良くなりたい?」
そんな表情を呼んでかどうか、姫ちゃん先生が尋ねた。
「そりゃぁ、仲良くなりたくないって言ったら嘘になる・・・よ。だから」
「聞いたーー!仲良くなりたいって」
突然姫ちゃん先生が後ろを振り向いて叫びだすと物陰から希が姿を現した。そして、その横にもう一人。
「もも、桃園!」
「へへ、茜がさ、一馬のこと気になってたからちょっと先生と一芝居うったの」
悪魔の笑みを浮かべながら茜が一馬に言った。
「ななな」
一馬は開いた口がふさがらず、顔が真っ赤になってしまった。その後何を言ったのかまったく思い出せなかった。
―――この、バカップルはーーーーーーーー!!―――
心の中でそう叫んだことだけは覚えているのだが・・・。
結局の所、その日は桃園との会話が殆どなく、明日は朝の7時半に集合することを確認して解散となった。
―――いったい、俺、何しに行ったんだ―――
一馬はベッドに横になり手を後頭部で組む形で寝転んだ。今日あった出来事を振り返り自己嫌悪に陥っていた。
―――桃園に幸せな一年を過ごしてもらうって決めたのに・・・。なんだよ、このざま―――
『チャララーン』
携帯の着信音が鳴ったので一馬はそれを確認した。
幸助『よっ、へたれさん。何してんだ』
―――・・・うっせぇな、こいつ―――
一馬『何もしてねぇよ』
一馬が返した直後、今度は美香からLINEの着信が入った。
美香『一馬、明日の朝も水やりでしょ』
一馬『そうだよ』
美香『明日こそなんか、話なききゃね』
―――美香まで、・・・でも、どうやったらいいんだ?思えば俺って生まれてから27年間、殆ど自分から誰かに関わろうとしたことなかったよなー――
一馬は正史の方の今までの自分を振り返った。高校の時は進学校で殆ど勉強漬けの毎日だった。大学の時はひょんなことからバンドに誘われボーカルを務めたが、それも2年で辞めてしまった。
―――カラオケ行きてぇなぁ~、今度、幸助誘って行こうかな?―――
一馬はそんなことを考えていたらいつの間にか寝てしまっていた。
翌日の朝、6時半。天気は雨であった。雨の場合は水やりはしなくていいので、今日のお仕事はないはずである。しかし、一馬は気になることがあったので、予定通り7時半に間に合うように家を出た。
―――俺の記憶が正しかったら、桃園は花壇の空きスペースに自分の花を植えているはず―――
一馬は、学校の校門に入るとその足でに担当の花壇に向かった。すると、赤い傘をさした女の子が花壇の前でなにやら作業をしていた。桃園茜である。一馬はゆっくりと近づいて声を書けることにした。
「おはよう」
一馬は恐る恐る声をかけると桃園茜はびっくりした表情でこっちを振り返った。
「おはよう、今日は来ないと思っていたわ」
「何やってんだ?雨降ってるから水やりの必要ないのに」
言ってはみるものの、一馬はなぜ桃園茜がここに来てるのかなんとなく判っていた。だが、だからと言って、声かけないのも変である。あくまで普通に、普通に。
「何って、これ植えようと思うの。駄目かな?」
茜は、持っていた種子を差し出した。
「いいと思うよ、姫ちゃん先生も何か植えたいものがあったら植えていいて言ってたし。何なら手伝うよ、俺」
「ホント!ありがと」
二人は桃園茜が持ってきた種を植えた。雨が降ってるので土は重いがそぬ分固める必要がないので、後が楽である。
一馬は何か話さなければと考えたが何を話せばいいのか分からない。桃園茜の顔を見ていても次に出てくる言葉が何も浮かばない。
「う~ん?」
一馬はふと桃園茜の顔を見てきになった。
「桃園、ちょっとこっちみて」
そういうと一馬は持っていたティッシュを雨の水で少しぬらすと桃園茜の口元をふき取った。
「あうぅ」
突然の出来事に桃園茜はびっくりしたのか固まっていた。
「じっとして」
一馬はお構いなく口元を拭いてた。
「口の周りにケチャップついてたぞ」
「・・・ありがとう」
一馬はふき取ったティッシュを持ってきていたレジ袋に入れた。後でまとめて捨てるために用意したのだが、その時ふとわれに返った。
―――ボケーーーーーーーーーーーー!!何ししとるねん、俺!!大人ならともかく今の俺は小学生だぞ。こんなの小学生のすっる行動じゃないやんけーーー!―――
一馬はふと桃園茜の表情を確認した。
―――俺ってきざって思われたかな?それとも変人と・・・―――
一馬はすごく動揺した。桃園茜は落ち着いて草木の手入れを始めたので、一馬も一緒になって手入れを始めた。
が、その後の二人に会話は一切無い。しばらくの間、沈黙が二人を包んだ。ただ、さっきのことが何事もなかったかのように黙々と作業を続けている。
―――なんかいやだな、この空気―――
どうすればこの空気を打破できるか、一馬は真剣に考えた。考え考え考え抜いた結果、何も思いつかないという結論になった。
―――どうすればいいんだ。―――
「そういえばさ、松井君って」
「はうぅ?」
突然、桃園茜が声をかけてきた。さっきまでの行動からして絶望的な状況になったと思っていた一馬にとっては、いきなり声をかけられたのでびっくりを通り越し、心臓がバクバク音を立て始めた。
「一昨年の発表会の時、泣いてたよね」
―――・・・こんな時に何言いだすんですか?あれ、俺の黒歴史なんだぞ、あれ―――
一馬の心臓はゆっくりと元の心音に戻っていった。そして、おととしの発表会について思い出した。
一昨年の発表会とは、4年の時の演劇発表会である。確かあの時、桃園茜は母を訪ねて三千里のマルコ役をしていて、それを見た一馬が号泣してしまったのである。その件はすぐに学年全体に知れ渡り2ヶ月ほどクラスメートの笑われたため、一馬の恥ずかしい青春の一ページに刻まれていた。
「・・・うん。あの時、劇見て泣いてたな」
「あの時のマルコの役、私がやってたの」
「へぇっ?」
一馬はキョトンとした。知っていたことだが、本人の口から言われるとなんだか不思議な感覚になってしまう。
「カーテンコールの時、見えたんだ。舞台からすッごく泣いてる子がいて。なんか、すっごいやさしい人いるんだって思って」
「そう・・・なんだ」
「だからね、私、その、松井君と仲良くなりたいなって。ずっと思ってたの」
「・・・いや、えっと、あの、僕で・・・良かったら」
いきなりの申し出に一馬はとても焦った。
「・・・ありがと」
一馬は声を振り絞って返事した。桃園茜はその返事にニコッと笑顔を見せ、一馬はその顔を見た瞬間、心臓が再び高鳴りを始めた。
「ねぇ、その、美香ちゃんや希を呼ぶみたいに私のこと、茜って呼んで。なんか、見てたら、下の名前で呼んでほしいなって思えて」
一馬は桃園茜の申し出に一瞬とまどった。まさか昨日の今日でここまで進展するとは予想できなかったからだ。当たり前だが。
「わかったよ・・・・。その・・・あか・・ね」
「うん!何?」
その返答を聞いて一馬は顔が湯気が出てもおかしくないくらいに真っ赤になった。
―――何照れてんだよ。俺!こういう関係になりたかったんだろうが!!―――
一馬はいきなりのことでどうしたらいいか分からなかった。そして、この次の展開をどうすればいいのか悩んでいた。
「キーーンーーコンーーカーーンーーコーーン」
最悪のタイミングでチャイムが鳴ってしまった。せっかく色々話せると思ったのだが、今日の所はここまでのようだ。
「・・・教室、行こっか」
「うん、またね。一馬君」
桃園茜はそういうと笑顔で教室へとかけていった。
―――女の子って、想像以上に難しいな。出来るのかな?俺―――
一馬は本来の目的を達成することに不安を覚えた。
「あっ、その前に」
茜は急に立ち止まると持ってる携帯を取り出した。
「一馬君、携帯の番号交換しよ」
「あつ、うん」
一馬はポケットから携帯を取り出して、携帯の番号を交換した。そして、昼休みに携帯を確認するとLINEの友達追加欄に茜の名前が入っていた。
『よろしくね、一馬君』
―――女の子ってこえぇ!!ーー―――
「それで、どうなってるんだ?これ」
幸助がよく分からないという顔で見ていた。あれから一週間、火曜日の昼休み。幸助と美香が様子を見に来た時には、茜と一馬は仲良く水やりをしていた。
「なんか、私たちいらなかったみたいね」
「そうだなぁ~」
「何がいらないだ!いらんことばっかして」
一馬が二人に言った。
「あっ、美香ちゃん。来てくれたんだ」
「茜、旨くいけてる?」
「うん」
「茜、こっちの水やり終わったけど」
一馬が例の種を植えた場所を指差した。
「まだ出ないね?」
「しばらくしたら出るって」
二人は一通り水やりを終えるとホースを片付けだした。
「一馬のやろう、旨くやったな」
幸助が腕組みをしてうなずいた。
「幸助、お前、いつかホンマにしばくからな」
一馬は心の中でニヤニヤしながら言った。
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