天使と悪魔

藤咲朱海

第一幕 善悪に揺れる少年

前置き

太古の昔から、人間の他に、天使と悪魔と呼ばれる存在があるとされてきた。

その名の通り、天使は天の使い、善であり、悪魔は凶々しきもの、悪であると。


しかし、どちらが善でどちらが悪であるかなど、誰に決めることができようか。天使には天使の言い分が、悪魔には悪魔の言い分がある。それを一概に善悪と決めつけていいものであろうか。


天使は言った。悪しき者はこの世に存在するべきではなく、即刻に消え去るべきであると。この世に存在を許されるものは、自分たちの認めた善なる者のみである、と。


悪魔は言った。悪であるということは、確かに己自身で決めた選択であると。善であろうとするのと同じように、悪もまた、そのものの存在を証明するものである。世の中から悪というものがなくなるのなら、それはなんと退屈で滑稽な世界であろうか、と。


天使と悪魔はそれぞれに啀み合い続けた。その戦いには、幾多の人間が巻き込まれ、人生を狂わせて行く。


そして、ここにもまた、善と悪によって歯車を歪まされた1人の少年がいた。

彼の名を条善寺 伊織じょうぜんじ いおりという。なんとも哀れであり、誰よりも眩い光を放つ魂を持つ男であった。

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