第118話 再び玄武と

「行こう。この先におそらく玄武がいる」


 立ち止まった私の肩を軽く叩いたアルにーさまにうながされて、前へと進む。


「ケケケケ」

「ケケケケ」


 さっきと全く同じように、急に笑い出すガーゴイルを無視して、再び黒いモヤのかかった扉を開いた。


 あれは……さっき倒したはずの玄武だ。

 でも見たところ、さっきの戦いで傷ついた様子は見えない。


 なんで……?


「もしかして回復してんのか?」

「そのようだな」


 フランクさんとヴィルナさんが、玄武の状態を見て目を細める。


「でも、また倒せばいいってことだしな」


 指をぽきぽきと鳴らすフランクさんは、「楽勝だろ」と笑った。


「防御魔法が切れているから、ユーリちゃんまたお願いできるかしら」

「はい。任せてください」


 確かにアマンダさんの言う通り、扉をくぐった時に防御魔法が解除されちゃったもんね。


 全員にプロテクト・シールドとマジック・シールドをかける。アース・クエイクは土の魔法だからマジック・シールドをかけていれば少しはダメージを減らせるはず。


 あとはアース・クエイクで発生した亀裂を避ければ大丈夫だよね。

 さっきみたいにうかつに近寄らないようにしないと……。


 ゲームだと、玄武がしっぽの蛇で三回噛みついてきたらアース・クエイクが来るっていう合図だったから、三回目の噛みつきの後に「一・二・三」のタイミングでジャンプすれば攻撃をよけられた。


 でもそんな合図はなかったし、ジャンプしてもあの亀裂はよけられない。


 ゲームと同じようだけど、やっぱり違うんだなぁ。


 玄武の持つ技とかスキルはゲームと同じだけど、攻撃のタイミングは全然違う。

 それはつまり、データじゃなくて生きてるから、ってことだよね。


 そんなことを考えながら、ゆっくりと玄武に近づいてゆく。


 すると、部屋の奥の甲羅が大きく揺れた。


 ドオーン、と、地面から地響きが伝わってくる。


「さっきと同じだね」

「ああ。……まあ、玄武も同じように倒せばいいだろ。楽勝だな」


 アルにーさまとフランクさんは、いつでも戦えるように身構えながらも軽口を叩き合う。


 私たちが近づくと、巨大な甲羅からぬうっと顔が出てきた。


「この地に降りるのは久方ぶりよの。これは珍しい。人の子と獣の末裔と世界樹の守り人か。ほう。それに加えて魔物の王までいるではないか。そして……これは珍しい。混ざり物か。ふむ。そなたらが望むのは、富か、名誉か、それとも叡智か」


 玄武の低い声が部屋に響く。


 え……。

 ちょっと待って。それってさっきも聞いたセリフだよ。


 ゲームのキャラじゃあるまいし、どうして同じ言葉を繰り返すの?


「……叡智だと答えたら、僕たちが望む答えをすべて示してもらえるのだろうか?」


 落ち着いた声でアルにーさまが問うと、玄武は部屋中を震わせるような声で笑った。


「ふぉっふぉっふぉ。人の子よ、それは欲張りすぎるというものだ。真理というのはただ一つでなくてはならぬ。だとすれば真に求める答えも一つ。命をかけて求めるただ一つの問いこそに、価値があるとは思わぬか?」


 同じ、だ。

 さっきとまったく同じセリフだ。


 玄武と対話するアルにーさまをじっと見つめると、一瞬動揺したようには見えたけど、すぐに冷静さを取り戻している。


「では僕たちが勝ったなら、賢者の塔への道しるべを教えて頂きたい」

「賢者の塔だと?」


 アルにーさまもさっきと同じ言葉を返す。


 それに対する玄武の返答もまた、さっきと全く同じだった。


「なるほど、そうか! 賢者の塔を目指す者はかつてもおったが、よりにもよって混ざり物が目指すか! いや待てよ。ひょっとして……」


 玄武は首を伸ばして、私を見た。


「ははは。これは愉快。馴染んできておる。よかろう。お主たちが我に勝った暁には、賢者の塔への道を示そう。それだけではない、鍵の一つをくれてやろうではないか」

「では遠慮なく倒させてもらいましょう」


 玄武は目を細めてアルにーさまを見た。


「人の子が言いおるわ。では、我に力を示してみよ!」


 そう言うと、玄武は甲羅から亀よりは長い足を出した。

 ドオオオンと地響きが走る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る