第117話 再び
さっき通った道を、同じように辿っていく。
例の崩れた道はそのままになっていたし、罠はルアンとヴィルナさんが解除してくれた状態のままだから、それほど苦労せずに進むことができる。
それに一度通っただけの道なのに、アルにーさまは完璧に道順を覚えていた。
だから迷路になっている層も迷わずにさくさくと進める。
アルにーさまってもしかして天才!?
私だったら三つ目の分岐でもう道を忘れちゃってるよ。
最初の道は左でしょ。それで次が……えーと、二つ目の道は、右だったかな。左だったかな。
あれぇ……?
そ、それはともかく。
昨日みたいにダンジョンの中で一泊しなくても、今日の内に玄武と戦えそうだなと思った。
でも最後の最後。
玄武のいる部屋に向かう道があったはずの場所には……ただの壁しかなかった。
「どういうことだ?」
アルにーさまが壁に手を当てて調べている。
でも確かにあったはずの通り道はどこにも見当たらない。
「仕掛けがあるのかしら。ヴィルナ、分かる?」
アマンダさんの問いに、ヴィルナさんは壁に顔を近づけて耳や鼻をひくひくさせている。
「いや……。これはただの壁だな。空気も動いていないし、何よりこの奥には何の気配もない」
ヴィルナさんが断言すると、カリンさんもそれに同意した。
「この先に魔素の濃い場所はないぞ」
「ということは、この向こうに玄武がいる可能性は低いということかい?」
「おそらくな」
アルにーさまの問いに、カリンさんだけでなくヴィルナさんも無言で頷く。
「そうか……」
口元に手を当てて考えるアルにーさまに、フランクさんが「少し戻ってみるか?」と尋ねた。
「そうだね。さっきの曲がり角まで戻ろう」
一つ手前の分かれ道まで戻ると、もう一つの道の方へ進む。
「ヴィルナ、カリン、この先に玄武がいる気配がするかい?」
少し進んだところで、アルにーさまが聞いた。
ヴィルナさんは耳をひくひくさせて「地鳴りの音はかすかに続いているが、この先かどうかは分からぬな」と答えた。
アルにーさまは次にカリンさんに視線を向ける。
でもカリンさんは首を傾げていた。
「どうにもここの玄武は気配が薄い。リヴァイアサンの時のような気配がせぬのだ。精霊界より来たりし影とはいえ、神獣ともなれば肌が
「魔素が少なくて、完全には顕現できていないということはないかな」
「確かに、ここが大崩落でできたばかりの場所だとすればその可能性もあるやもしれぬ。だが先ほどフランクが言っていたように、ダンジョンが融合してできたのだとすれば、それはおかしい」
「だとしたら他にどんな原因が考えられるだろう?」
アルにーさまの質問に、カリンさんは首を振って答えた。
「分からぬ。玄武の最後の言葉にヒントがあるやもしれぬが」
「叡智を求めるのであれば、それに相応しき叡智の器を示せ……だったかな」
そういえば、最後にそんなことを言っていたような気がする。
叡智の器を示せ、って、つまり考えろってこと?
でも、何を?
「ああ。頭を使えと言われているのだから、おそらく何らかの仕掛けはあるのだろうな」
カリンさんはビン底メガネをくいっと持ち上げると、ごつごつした岩肌でできた壁を見回す。
「いずれにしても、先に進んでみるしかあるまい」
確かに、この迷宮のどこかには玄武がいるはずなんだから、前に進むしかないよね。
何か罠があるかもしれないからということで、再びルアンとノアールが先頭になって歩きだした。
しばらく行くと、十五段ほどの下に降りる階段が現れる。
警戒しながら階段を行くと、そこにはさっき見たのと同じフロアが広がっていた。
「え……」
入口からは一本の道が通っていて、その両側は谷になっている。
道の両端には等間隔でかがり火が燃えていて、行く手を明るく照らしている。奥の扉の横に立つガーゴイルの石像まで、さっき通った道とそっくり同じだ。
……どういうこと?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます