第111話 ルアンが大好き

 ルアンとノアールに先頭を任せて、私たちはその場を後にした。


 ゴツゴツとした岩が転がる広間の先には、下へと向かう通路があった。

 ダンダンと足を踏み鳴らしながらルアンが進む。


 あんなに小さいのに、凄く大きな音を出すなぁと思ったけど、そういえばうさぎって足音で仲間に危険を知らせるって聞いたことがある。


 この世界にはうさぎはいないけど、ホーン・ラビットってツノのあるうさぎってことだから、案外その習性はそっくりなのかもしれない。


 いつ魔物が出てきてもいいように武器を構えながら通路を歩いてゆく。

 迷宮が崩落するまでは、ダンジョンのボス部屋に着くまではそれほど苦戦はしないだろうって思ってたけど、ここから先は未知の領域だから、十分に気をつけないといけない。


 確かにみんな強いけど、油断大敵って言うしね!


 でもルアンが足音を響かせながら進んでる割には、襲ってくる魔物は皆無だった。

 もしかしたらノアールが本来の大きさで威嚇しながら歩いてくれているおかげかもしれない。


「おう、どうした?」


 それまでさくさくと進んでいたルアンが、二手に分かれた道の前で止まる。

 フランクさんがルアンのそばに行こうとすると、ノアールがその前に立ってゆく手をふさいだ。


「みぎゃぁ」


 二匹の様子に、この先には何かあるのかと一同に緊張が走る。


「きゅっ」


 小さく鳴いたルアンは、片足だけを右の通路に乗せた。

 ダンッ、と大きな音と共に、地面に振動が伝わる。


 すると。


「崩落かっ!」


 前に進もうとしていたフランクさんが、大きく後ろに飛ぶ。


 ドーンという音と共に、右側の通路に大きな穴が開いた。その穴は通路の先にどんどん広がり、曲がり角のほうまで通路の崩落が続いた。


「どちらかというとこれはトラップだろうな」


 ヴィルナさんが冷静に下を見る。釣られて下を覗きこむと、そこには剣山のように先のとがった岩が、落ちた者を串刺しにしようと待ち構えていた。


 ひええええええええ。

 あんなところに落ちたら、スライムクッションがあっても助からないよ……!


 さっきのは『崩落』だったから、それでもラッキーだったのかも。


「足の遅い奴だとあの岩の餌食になるってとこか。こんなトラップがあるってことは、ダンジョンのランクがかなり上になってやがる。今までの土の迷宮のランクじゃねぇな」

「ダンジョンのランク?」


 そんなのがあるなんて知らなくて聞き返すと、フランクさんが説明してくれた。


「攻略の簡単なダンジョンには、それほど難しい仕掛けはねぇんだよ。今までの土の迷宮がそうだな。落とし穴があったとしても一層下に落ちるくらいで、ここまでえげつねぇ仕掛けにはなっていない。逆に難易度の高いダンジョンの場合は、仕掛けも凝っていて……迷宮の主もそれにふさわしい強さになってやがる」

「えと。じゃあそれはつまり、この先にいる迷宮の主も、凄く強いってことですか?」

「そうなるだろうな」


 頭をガシガシとかきむしるフランクさんは、ハッとしたように手を止め、そこにルアンがいないことを思い出したようだった。


「今回は、チビ助がお手柄だったな」

「きゅうっ!」


 褒められて嬉しくなったルアンが、その場で飛び跳ねた。


「馬鹿っ、やめろ。そんなところで跳ねたら――」


 落とし穴の縁のギリギリにいたルアンの足元が、ピシリッとひび割れる。


 危ないっ!


 でも急いでフランクさんが手を伸ばして、ルアンを助け出した。


 ほっ。

 良かったぁ~。


「まったく……。心配かけるんじゃねぇよ」

「きゅぅ」


 フランクさんの顔に頭をこすりつけて甘えるルアンを、武骨な手がゆっくりと撫でて慰める。

 ほっこりとしながらその光景を見守っていると、フランクさんが「いてて」と言ってルアンの体を離した。


「きゅーっ」


 不満そうなルアンを顔の前に持ち上げたフランクさんは、「ちっこいけどお前の頭にはツノがあるんだから刺さるだろうが」と苦笑した。


「きゅっ。きゅ~う」


 ルアンはごめんね、というようにツノが当たらないようにフランクさんの手に頭をこすりつける。


「ったく。しょうがねぇなぁ」


 ふふっ。

 なんだかんだ言っても、フランクさんはルアンのことが大好きだよね。


「さあ、じゃあ左の道を行こうか。ルアン、ありがとう」

「きゅっ」


 アルにーさまにお礼を言われたルアンは、再び先頭に立って床を踏みしめながら先に進む。


 よ~し、このままボスのところまで一直線だ!

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