第108話 セーフティーポイント

 私がカリンさんと押し問答をしている間にも、アルにーさまと騎士学校の先生はこれからどうするかを話し合っていた。


「我々は上に戻る道を探すので、あなた方は冒険者ギルドに大崩落のことを伝えてもらえませんか? しばらくは迷宮の生態系が狂う恐れがあるので、立ち入り禁止にしないと危険ですね」

「ですが、捜索隊を結成したほうが良いのではないですか?」


 先生は心配しているけど、アルにーさまは「心配はいらないよ」と答える。


「ここにいるのはイゼル砦の精鋭と腕利きの冒険者だ。大崩落がどのようにして起こるのか判明していない以上、もう一度起こらないとは断言できない。だから我々が戻るのを待っていて欲しい」


 先生は不安そうに私たちを見たけれど、やがて自分を納得させるように頷いた。


「分かりました。しばらく様子を見て、大崩落が収まったようでしたら、捜索隊をここに派遣するように申請いたします。それまでどうかご無事で」

「君たちも気をつけて」


 天井に開いた穴から見えなくなった先生が、生徒たちに諭す声が聞こえる。


「この状況においてもあれほど冷静でいられるのが真の騎士というものだ。それに先ほどの戦いを見たな? お前たちの習う魔法剣は、剣と魔法を極めないと到達できぬ究極の剣。アレス王国最強と呼ばれるイゼル砦の魔法剣士であるお二方の姿を、しっかりと目に焼きつけろ」

「はい!」


 わぁ。もしかして騎士学校で魔法剣を勉強してる生徒さんたちだったのかな。

 アルにーさまとアマンダさんはべた褒めされて、少し照れている。


 イゼル砦の魔法剣士って、アレス王国最強なんだね。

 分かってはいたけど、みんなにもそう評価されてるって分かるのは、やっぱり嬉しいな。


「しばらくここで体力を回復してから探索を始めようか。今後の方針も決めておかないといけないしね。まずはフランク、結界を張ってもらえるかな」

「おう。任しとけ。ここだと……そうだな。あっちの壁のところにするか」


 アルにーさまの提案に、フランクさんは一番近い壁を指した。


「私はアースドラゴンの魔石を取っておこう。アマンダ、手伝ってくれるか?」

「もちろんよ」


 ヴィルナさんとアマンダさんは一緒に落下したアースドラゴンの魔石を取ることになった。あの高さから落下したにも関わらず、背中側から落ちたからかアースドラゴンはそのままの姿で残っていた。


 ええと……じゃあ私はどっちについて行けばいいのかな?


 立ち止まった私に気がついたアルにーさまが、「ユーリ、一緒に行こう」と手を差し伸べてくれる。

 私は飛びつくように、見かけによらずゴツゴツしている手を握る。剣の鍛錬をしている人はみんなこの手だ。アマンダさんですら、手の平は固い。


「ここら辺ならいいだろ」


 フランクさんはぶつぶつと聖句を唱えながら、四隅に袋から出した白い粉を撒いた。


 あ、これ、ゲームでよく見るセーフティーポイントだ。ダンジョンによって違うんだけど、三階とか五階にある安全地帯で、そこに入っている間は体力と魔力が回復するんだよね。


 フランクさんの結界にも、同じ効果があるのかな。


「よし、いいぞ。これで一日はもつ」


 フランクさんが聖句を唱え終わると、撒いた塩がキラキラと光った。


「ありがとうフランク」


 結界の中に入ろうとすると、ノアールの頭の上にいたプルンがぴょんっと地面に下りた。


 何をするんだろうと思って見ていると、フランクさんが撒いた塩の上をぷるんぷるんと進む。

 よく見ると、塩を一度体の中に取りこんで、それからまた出しているみたい。


「嬢ちゃん、プルンは何をやってるんだ?」

「う~ん。何でしょう。カリンさんは分かりますか?」


 スライム博士っていうくらいだし、きっと分かるはず。


「小娘、自分のスライムの考えが分からぬなど、スライムへの愛が足りぬぞ」

「そうですよね、ごめんなさい」


 確かにカリンさんの言う通りなので、素直に謝る。


 プルンのことは大好きなんだけどなぁ。まだ従魔スキルのレベルが足りてないってことかな。MAXまで上がれば、意思の疎通ができるといいんだけど。


「分かればよろしい。以後、精進するように」

「はいっ。じゃあカリンさんにはプルンの考えが分かるんですよね? これは何をやってるんですか?」

「私のスライムではないのだから、分かるはずがなかろう」


 がくっ。


 てっきりカリンさんなら分かるのかと思って期待したのに~。

 スライム博士でも分からないなんて、そんなぁ。


「へぇ。結界を補完してるのか。おもしれぇな」


 さっさと結界の中に入ったフランクさんの言葉に、もしかしてフランクさんって実はスライム愛にあふれててプルンの言ってることが分かるのかとびっくりする。


「フランクにはプルンが何をやっていたか分かるのかい?」


 同じように結界の中に入ったアルにーさまが、やりきったぞとでも言うようにぷるぷるしているプルンをなでる。


「聖なる気が増えているな。疲れが取れたような気がしねぇか?」

「そういえば……」


 手を握ったり開いたりしている二人に、もしかしてプルンのおかげで結界に体力と魔力が回復する効果が加わったんじゃないかと思う。


 すっごおおおおおい。

 さすがプルン。


 ノアールも凄いけど、プルンも凄い。


 うちの子たち、本当にすごおおおおおい。

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