第104話 アースドラゴン
「なんでこんな浅い層にアースドラゴンなんかがいやがる。ここは最奥の部屋じゃねぇぞ」
器用にルアンをよけながら、フランクさんがトウモロコシ色の髪の毛をガシガシとかきむしる。
「きゅっ」
そうだよね。ゲームにも出てきてたけど、土の迷宮のボスって言ってもおかしくないくらい強い魔物だもんね。
アースドラゴン――土属性のドラゴンで、背中に鋭い針のようなトゲをたくさん持っている。
ドラゴンという名前がついてはいるけれど、羽はなくて大きなハリネズミのような姿だ。その針の先には毒を持ち、それを飛ばして襲ってくる厄介な魔物だ。
でも……。
アースドラゴンはハリネズミのように丸まって転がる。だから広い場所だとその速さが脅威になるんだけど、ここのように入り組んだ道だとその速さが生かせないから、追いかけられても逃げ切ることができるはずだ。
普通、魔物はある程度離れると追ってこなくなるしね。
それなのにずっと追いかけてくるって、どういうことだろう。
「確かに五層しかないダンジョンに出てくる魔物じゃないわね。しかもこんなに入り組んだ道に現れるなんて聞いたことがないわ。一体どうなってるの」
アマンダさんの疑問に、年長の教師らしき人が答えた。
「途中の壁に亀裂ができていたんだが、中を覗いても暗くて見えなくて……。隠し部屋かと思って、罠があるかどうか確認するために石を投げたら、いきなりアースドラゴンが襲ってきた」
そこまで喋った先生は、ゴホッと咳きこむ。ただ咳きこんだだけじゃない。血が……口から血が出てる!
「毒か!」
きっとアースドラゴンの針にやられたんだ。
すぐに解毒しなくっちゃ。
「キュア!」
白い光が飛んで、先生の体を包む。
一瞬の後、先生は驚いたように私を見た。
あ、そっか。キュアを飛ばすのって一般的じゃないんだっけ。
「今のは一体――」
「説明は後だ。ユーリ、ここは一旦引こう」
驚く先生をさえぎって、アルにーさまは厳しい目で周りを見回した。
肩で息をしている騎士学校の生徒たちはひどい顔色で、どう考えても一緒に戦うのは無理そうだ。
「はい」
「アルゴ。召喚獣は呼び出せねぇのか?」
フランクさんに聞かれたアルにーさまは、右手を掲げて首を振る。
「魔法陣が光っていない」
「そうか。仕方ねぇな」
それに頷いたアルにーさまは、次々と指示を出した。
「アマンダ、ユーリとカリンを連れて先に行け。生徒たちはアマンダの誘導に必ず従うこと。フランクは毒が抜けてもまだ本調子ではないだろうから、先生に肩を貸してあげてくれ。それからヴィルナは僕と一緒に最後尾を頼む」
「分かったわ。行きましょう、ユーリちゃん。君たちも、ついてきて!」
アマンダさんに手を引かれて来た道を戻る。生徒たちも慌ててついてきた。
そうだ。ここはプロテクト・シールドをかけておくといいかも。私たちは土の迷宮に入る前にパーティーを組んでかけてるからいいけど、騎士学校の人たちはかかってないもんね。
自分自身にかけるプロテクトはかけてるのかな。分からないけど……かけちゃえ!
五人だから、エリア・プロテクト・シールドじゃなくて個別にかけよーっと。
「プロテクト・シールド!」
走りながら詠唱すると、生徒たちが驚いているのが分かる。
だけどアースドラゴンが転がって来る音が、もうそこまで聞こえてきてるから、説明は後で!
「うわぁぁぁ。もうダメだ!」
急に、アースドラゴンの姿を目にしてパニックを起こしたらしき生徒の一人が、走り出した。
「待ちなさい!」
アマンダさんの制止にも止まらず走り続ける。そしてその先には――
「サイレンドッグ!」
思わず叫んでしまう。
アースドラゴンだけじゃなくて、サイレンドッグの群れまでいるの!?
あれってもっとレベルが高いところにいる魔物でしょ。
「ワンワンッ。ワオーン、ワオーン、ワオーン」
サイレンドッグの三つの首が全て大音量で遠吠えを始める。
まずいよ、これ。魔物が集まってきちゃう!
サイレンドッグはどれほど強い魔物じゃないんだけど、その名の通り、サイレンのような役割をする。その遠吠えで、冒険者がいることをダンジョン中に知らせるのだ。
だから普通はサイレンドッグがいたら、見つからないようにやり過ごすのがセオリーだ。
それなのに真正面でぶつかっちゃうなんて。
こんな狭い通路で魔物にダンジョン中の魔物に囲まれて、しかもアースドラゴンもいる……。
まずは魔物を呼ぶサイレンドッグの群れを倒さなくっちゃ。
「みんな伏せてくださーい」
私の声を聞いた騎士学校の生徒たちが、一斉にしゃがみこむ。
パニックを起こしていた生徒は、もう一人の生徒が頭を押さえて無理やりしゃがませていた。
さすが騎士の卵たち。いいね!
「ウィンド・アロー!」
風の矢で三つもついているサイレンドッグの首を、次々と射抜く。
よし。一気に殲滅した。
これで大音量の遠吠えがくなった。
でも安心する間もなく、魔物の群れが行く手をさえぎるように押し寄せてくる。
ううう。もう魔物を呼ばれちゃってた。
「私に任せて!」
アマンダさんが炎の剣を構えて魔物の群れに斬りかかって行く。
「アースドラゴンに追いつかれるぞ!」
後ろからはヴィルナさんの緊迫した声が。
「アースドラゴンは攻撃するとトゲで反撃してくるから、うかつに手を出せないぞ」
アルにーさまが水の剣を身構える。
ピ、ピンチです!
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