第103話 いざ、土の迷宮へ

 他にもこまごまとした準備を終えて、いざ土の迷宮へ!


 土の迷宮がある場所は、地図で見るとイゼル砦と王都のほぼ中間地点を東のウルグ獣王国側に進んだ先だ。


 その背後には、アレス王国とウルグ獣王国を分けるタトラ山脈がある。


 山のふもとはゴツゴツとした岩に覆われ、その中腹にぽっかりと開いた穴が、土の迷宮への入り口だ。


 その横にはギルド職員のいる詰所があって、土の迷宮に入る冒険者たちのタグを確認している。


 そこに冒険者とは少し違う、かっちりとした服装の人たちがやってきた。その中の何人かは、私よりちょっと年上くらいの子供だ。


「あら。あれは騎士学校の制服ね」


 それを見たアマンダさんが懐かしそうに目を細めた。


「騎士学校ですか?」


 確かアマンダさんが卒業した学校じゃなかったっけ。


「ええ。騎士学校の中でも成績優秀な生徒は、実践で授業を受けるの。迷宮の攻略もカリキュラムの一つだから」

「わぁ、凄いですね。私、迷宮に入るのは冒険者だけかと思ってました」


 エリートなんだぁ。さすがアマンダさん。

 アルにーさまも、多分そこを卒業したんだよね? 二人とも、すごーい!


「基本的にはそうだけど、地上の魔物と違って、迷宮の魔物は攻撃のパターンが決まっていて戦いやすいの。だから実践授業にはもってこいなのよね。懐かしいわ」

「じゃあアマンダさんも学校での成績は抜群だったってことですよね」

「ふふっ。まあね。それくらいの腕がなくちゃ、イゼル砦に配属はされないわ」


 確かに。あそこって対魔物の、最前線ですもんね。


 私たちも迷宮に入るために詰所へと向かうと、ギルド職員のチェックを終えた騎士学校の生徒らしき人たちが、私を見て目を丸くした。


 ……うん。確かに私はこの迷宮の中に行くには小さすぎるかも。

 でも見かけによらず賢者なんですよ。えっへん。


 騎士学校の人たちが迷宮に入ると、アルにーさまを先頭にして、ギルドの職員にタグを見せた。

 私はタグを持ってないから、アルにーさまにもらった指輪を見せて通る。


 指輪にはめられている小さな青い魔石の周りを囲む鳥の羽の意匠は、アルにーさまの家であるオーウェン家の者にしか使えない。だから身分証明書の代わりになるのだ。


 ギルドの職員は、私とアルにーさまの顔を交互に見たけど、何も言わずに通してくれた。

 まあ私が何もできない子供だったとしても、この豪華メンバーだもんね。大丈夫って思ってくれたんだろうなぁ。





 土の迷宮の中は、ヒカリゴケのおかげでほんのり明るくなっている。

 一層はそれほど複雑な作りにはなっていないから、そのまま前に進む。


 出てくる魔物はスライムくらいだったけど、ダンジョンのスライムは匂いがしないからか、カリンさんの興味を引くことはなくスムーズに通過することができた。


 二層目を過ぎて三層目になると、やっと少し強い魔物が出てくる。

 でも……。


「キラーモグラか。つまらん」

「ここら辺の魔物は弱いからなぁ。……おっと」


 ダンジョンということで、水を得た魚のように生き生きとしているヴィルナさんとフランクさんの前に、魔物たちはばっさばっさとなぎ倒されている。


 別に襲ってこなければ倒さないんだけど、動くものを見れば襲ってくる魔物がいるから相手にしている。


「ヴィルナ、そっちにクロコウモリが行ったぞ」

「フランク。足元にオオアリジゴクだ」

「やべぇ。踏むところだった。こいつら毒を持ってるから厄介なんだよなぁ」


 昔パーティーを組んでいただけあって、ヴィルナさんとフランクさんの呼吸はバッチリだ。

 アルにーさまとアマンダさんが剣を抜く暇もなく、魔物たちが瞬殺されてゆく。


「私たちの出番がないわね」

「でも何が起こるか分からないからね。気を抜かずに進もう」

「確かにその通りだわ」


 アルにーさまの言葉に、アマンダさんが気を引き締める。

 その時、曲がり角の先からバタバタと走ってくる音がした。


「何かあったようだね」


 アルにーさまはそう言うと剣を抜いて構える。その横ではアマンダさんも同じ動作をしていた。

 そして私の肩に乗っていたノアールは、ぴょんと下りて低く唸る。


「足音は五つ。うち一つは怪我をしているな。熟練ではない走り方だ」


 ヴィルナさんが丸い耳をピクピクと動かして報告をした。


「……大きなものが転がる音がしている」

「転がる? ロックボムか?」


 ロックボムは大きな岩にしか見えない魔物だ。普段は岩の擬態をしていて、獲物が近づくとゴロゴロと転がって襲ってくる。


 でも、ヴィルナさんはフランクさんの問いに首を振った。


「いや。もっと――」


 全てを言い切る前に、曲がり角から人が走ってくる。


 あれって、騎士学校の人たちじゃない?


「どうした、何があった!?」


 アルにーさまが声をかけると、騎士学校の人たちは慌てたように叫んだ。


「逃げろ! アースドラゴンが追ってくる!」


 ええっ。アースドラゴン!?

 それってもしかして、ボスクラスの魔物じゃないの!?

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