第89話 コール召喚・リヴァイアサン

「おお。あのリヴァイアサンならゴーレムくれぇ倒せるな。よし、アルゴ。召喚してくれ」


 フランクさんの言葉に、アルにーさまは頷いた。


「コール召喚サモン・リヴァイアサン!」


 アルにーさまが右手を高く掲げると、そこから光がほとばしり、瞬く間にリヴァイアサンが現れた。

 でも現れたまま、宙に浮いているだけだ。


 あっ。これはもしかして、リヴァイアサン自身を召喚したわけじゃなくて、召喚魔法として顕現けんげんしてるだけかもしれない。そういえば、この世界の姿は仮初かりそめだって言ってたもんね。


 つまり……。うまく言えないけど、アルにーさまが召喚したリヴァイアサンは本物じゃなくて力を借りてるだけだから、そこにはリヴァイアサン自身の意思はないってことかもしれない。


「アルにーさま、攻撃を指示してください」

「召喚したら勝手に戦ってくれるわけではないということか」

「スキルの一つってことかもしれないわね」


 アルにーさまの呟きにアマンダさんが答える。


 もちろん、その間にもアマンダさんとヴィルナさんはゴーレムを押しとどめようとして戦っている。


大海嘯だいかいしょうはまだ使えない……か。仕方ない。アクアブレスッ!」


 リヴァイアサンが大きく口を開けると、そこから大量の水が噴き出して渦の形になった。


 ゴーレムの足止めをしていたアマンダさんとヴィルナさんが咄嗟とっさに大きく横に飛び、リヴァイアサンの攻撃を避ける。


 次の瞬間。


 ぐるぐると渦巻く水が、一直線にゴーレムへと向かう。

 その水の勢いに、ゴーレムが大きく態勢を崩す。そのままあお向けに倒れるかと思ったけど、ぎりぎりの所で踏みとどまった。


 惜しい! あとちょっとで倒れたのに!


「嬢ちゃん、アルゴに合わせて魔法をぶっ放せ! それで押しこめろ!」

「やってみます!」


 フランクさんの指示に、私とアルにーさまは呼吸を整えてタイミングを合わせる。


「アクアブレス!」

「サンダー・ランス」


 リヴァイアサンのアクアブレスに押されて数歩下がったゴーレムの頭に、雷の槍を放つ。


 レベルが上がってるからか、魔法を放つ前に現れる魔影も前より大きくなっていて、バチバチと放電する槍は以前のものよりも太い。


「いっけぇぇ!」


 ドオオォンと轟音を立ててあお向けに倒れたゴーレムの体がひび割れる。

 けれども、崩れる先から光に包まれ、再生を始めようとする。


「させぬっ。双剣乱舞!」


 ヴィルナさんの双剣が、目にも留まらない速さでゴーレムの体を切り刻む。


炎刃えんじん両断」


 アマンダさんの炎をまとった剣が、ゴーレムが再生しようとするのを阻止する。


「フランク、今だ! 結界を張るぞ」

「おう」


 そしてロウ神官とフランクさんが詠唱を合わせて結界を張る。でもその表情は明るくない。


「爺さん、結界が定着しねぇぞ」

「開いた穴が大きすぎるんじゃ。そこから魔力が抜けていく」


 穴って……。私が開けちゃった穴だよね。

 だったら。


「私が土魔法でふさぎます。みんな、どいてくださーい!」


 よーし。


「ロック・フォール!」


 ゲッコーの杖を大きく振ると、ゴーレムの上に大きな岩がいくつも現れた。

 その岩が、ゴロゴロとゴーレムの体の上に落ちる。


「今じゃ。結界を張るぞ!」

「天の御座を守りし神威たる守護よ。我が祈りに応え、邪なるものを封印せし力を授けたまえ。全能たる神の名において、悪しきものを封じよ。神聖結界!」


 ロウ神官とフランクさんが詠唱すると、青い魔法陣が空に浮かび、入口を塞いだ岩にスウッと入りこんだ。


「……成功じゃ」


 ほーっと、安堵の息が漏れる。


 あっ、でももう一カ所、出入り口があるんだった。


「フランクさん。枯れ井戸の底にも入り口があったんですけど、そっちはどうしましょう?」


 穴が開いてるところから魔法が漏れちゃうなら、そっちも塞がないとダメなんじゃないかな。


「じゃあ今から結界を張りに行くか」

「ただ井戸の先の通路は狭いから、フランクさんたちは通れないと思うんですけど……」


 体の小さい者にしか通れなかったからこそ、魔鉱石を採る為に子供たちが攫われてたわけだし。フランクさんには絶対無理だよね。


「あの枯れ井戸から繋がっておったとはな。なるほど。魔鉱石を採るために子供たちを攫っておったのか。……なんと愚かなことを」


 ロウ神官は空を仰ぐと、軽く頭を振った。


「いずれにせよ、枯れ井戸も塞ぐしかあるまい。守護のゴーレムであれば、敵と判断したものがいなくなればやがて活動を停止するだろうから、それだけで十分じゃろう。そしてあの場所にあった魔鉱石は、ゴーレムの再生に使われもうただの石になっておった。……それで良いな?」


 魔鉱石がまだあの場所にあると分かれば、再びそれを掘ろうとする人が現れるもんね。

 ゴーレムの復活を阻止するためにも、あの場所は永遠に封印した方がいい。





 私たちはそのまま枯れ井戸へ向かって、ロック・フォールで井戸を埋め、蓋をしてそこに結界を張った。


 結界は、ロウ神官に「お前ひとりでできるじゃろ」と言われたフランクさんが張って、「ほう。お前も一人前になったな」と褒められていた。




 それを聞いたフランクさんが照れ臭そうに頭をガシガシかいた時、その耳がちょっぴり赤くなっていたのを、私は見逃さなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る