第57話 私の出番ですよね!?
「効いてないね」
「効いてないわね」
「あんだけデカくなってると、外殻も固いだろうからなぁ」
アルにーさまとアマンダさんが声を揃えてそう言うと、フランクさんはガシガシと髪をかく。頭の上のルアンは、器用にその手を避けていた。
「そうねぇ。甲冑虫には魔法がよく効くけど……」
はいはーい! 私、がんばりますよー!
と、手を上げようとしたけど――
「よしっ。そんじゃ俺がやってやるか」
えっ。フランクさん!?
でもフランクさんは神官ですよね? 確かに戦う神官さんだけども。
目を丸くする私をよそに、フランクさんは嬉々として甲冑虫に向かおうとする。
そしてアルにーさまもアマンダさんもヴィルナさんも、そんなフランクさんを止める気配すらない。
そのまま行こうとしたフランクさんだけど、頭の上のルアンを思い出して、危ないからと引きはがそうとする。
でもルアンは、髪の毛に爪をからませて必死に抵抗していた。
フランクさんに傷をつけないように、頭皮じゃなくて髪の毛にしがみついてるところが、ルアンの可愛いところだと思う。
ルアンって、本当にフランクさんのことが大好きだよね~。
「イテテテテ。おいっ、しがみつくな」
「きゅーっ。きゅっきゅっ」
「危ないから嬢ちゃんとこ行っとけよ」
「きゅっ、きゅきゅう」
「……まったく……。仕方ねぇなぁ。それじゃ、しっかりつかまってるんだぞ?」
「きゅっ」
ルアンが返事をすると、フランクさんは振り返ってニカッと笑った。
「そんじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
フランクさんは収納袋から何かを取り出して指にはめた。四本の指にはめて使う……武器なのかな。ちょっと尖ってるとこがあるから、武器っぽいと思う。
「フランクさんに、プロテクト・シールド!」
走って行くフランクさんの背中にプロテクトを飛ばす。甲冑虫は魔法攻撃をしてこないから、物理防御だけでいいよね。
甲冑虫の近くまで行ったフランクさんは、まず吹き飛ばされたカールさんにヒールをかけた。
ほっ。良かった。カールさんも無事みたい。
それからこっちの様子を気にせずモシャモシャとキャベツを食べている甲冑虫を、後ろから――
ドゴォォォン。
ドガッ、ドゴッ、ドスッ。
フランクさんは角度を変えて一番効果的に殴れる場所を探しながら、何度も何度も甲冑虫に攻撃を加える。
「凄い! 背中がへこんできてる」
物理攻撃がほとんど効かないはずの甲冑虫なのに、フランクさんの攻撃で外殻がボコボコとへこんでいく。
さすがに甲冑虫もその攻撃が効いているのか、食べるのをやめて振り返った。そしてフランクさんに向けて、大きなツノでの攻撃を繰り出してくる。
「あ、危ない!」
甲冑虫が大きなツノをフランクさんに叩きつけようとしているのを見て、思わず悲鳴が上がる。
でもフランクさんは、ひょいっと後ろに飛んでその攻撃をよけた。
そのまま距離を取るフランクさんを見て、甲冑虫はなぜかその場で足を止める。
そしてブルブルっと羽を震わせた。
「えーっ。へこんでたとこが、元に戻ってるぅ!」
あんなにボコボコになっていた背中は、あっという間に元通りの滑らかな背中になってしまっていた。
うーん。やっぱり、甲冑虫に物理攻撃は効かないみたい。
ここは、私の魔法攻撃の出番ですよね!
すぐにアイテムボックスからゲッコーの杖を出して、甲冑虫に魔法で攻撃をする。
「甲冑虫にウィンド・アロー!」
その時、再び甲冑虫がツノを振り上げた。
そしてそのツノの根元にウィンド・アローが直撃する。
「体を狙ったつもりなのに、外しちゃった!?」
甲冑虫はツノを振り上げた態勢のまま動きを止める。
そしてゆっくりとその顔をこっちに向ける。
「え……。魔法攻撃も効いてないの!?」
なんか、じーっと私を見てるんですけどぉぉぉ。
これってどう見てもタゲられてるぅぅぅぅぅ。
もしかしてノアールみたいに一見普通の魔物と同じように見えるけど変異種だったとか!?
それで物理攻撃だけじゃなくて魔法攻撃も効かないなんてこと――
甲冑虫がゆっくりとこちらに向かってこようとする。
すると――
ドオオオオオオン。
大きな音がして……。
「お、折れた……?」
なんと、甲冑虫の大きなツノが根元から取れて地面に落ちてしまった!
「や、やっつけた?」
ツノの折れた甲冑虫は動かない。
と、いうことは。
「やったー! やっつけたー!」
思わずガッツポーズをしちゃった。
でも……。
「ええええ。なんでまだ動くのぉぉぉぉ!?」
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